【完結】距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado

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78 公爵令嬢本気出す! 

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 学園では多分オーラなんていう言葉は習わないよね、という心の呟きを棚上げして『エヘンッ』と咳払いをするリアーヌ。


「そのまま立っていてくださいませ」


 そう言いながらソファーから立ち上がりオリバーの側に近寄っていくと、彼の背中側からうなじあたりを見上げる。


「やっぱりだわ・・・」


 項から後頭部に向かい視線を這わすと、『盆の窪ぼんのくぼ』と呼ばれている位置に空間の歪みがえる。


「ソファーに座って下さいな。このままでも手が届かない訳では無いのですが、髪の毛の中に魔術紋が刻まれているように思えますので確認させて下さいませ」

「はい、宜しくお願いします」


 オリバーを一人掛けのソファに誘導して座らせた。

 彼の目の前に座るのはフロイラインである。


「リアちゃん・・・」

「大丈夫よ確認するわね」


 彼の髪を犬の尻尾の様に1つに纏めている髪紐を解いて、豊かな髪の付け根を丁寧に確認する。


「あったわ。

 小指の先よりも小さなサイズだけど記憶消去の魔術紋だわ。

 しかも都合の良いことに焼印ね。良かったわこれなら私でも簡単に治せるわ」

「え? どゆこと?」


 焼印とか不穏な言葉でしかないじゃん!?と思って眉を顰めるフロイライン。


「これって髪の毛の中だから墨入れするより手っ取り早かったからこの方法にしたんじゃないかしら。

 焼印なら焼きごてを当てて一瞬で終わるけど、墨入れだと時間がかかる上に髪の毛が邪魔するから周りの髪の毛を剃らないと駄目でしょ?

 オリバーさんにコレを施した犯人は手早く済ませて髪の毛で隠せるよう目立たせない方法をとったのだと思うわ。

 でも幸いなことに、これなら水魔法の癒しで簡単に元に戻るのよ。要は火傷を治しちゃうのと一緒だからね」

「そんなモノが私の頭にあったから記憶が無かったんですか!?」


 身体は動かさないまま驚きの声を上げるオリバー。


「ええ。指で触っても分からない位小さいですわね。

 後ろ頭なんて自分では見れませんし、他人から見ても髪の毛で完全に隠れているのでまず第三者に気付かれることは無いでしょう」

「そうだったんですね・・・」

「ただ、余程心理的に弱っている、若しくは生命力が落ちている時にしか魔術紋って効果が出ませんの。

 もしかすると病院に運ばれて意識が無い時に施されたのかもしれませんわね。

 これ、消えてしまうと辛い記憶が蘇る恐れもありますわ。

 場所が場所だけにご自身で入れたとは思えませんが、過去を忘れたいから使った可能性が無いわけではありませんのよ? どうします?」


 そう。

 人は忘れたい記憶を自分から消してしまいたいと願うあまり無謀なことをする場合が多々あるのだ。

 もしかするとこのオリバーの魔術紋もその可能性が無いとは言い切れない・・・


「・・・いえ、今、消えた過去を取り戻せるならそうしたいと私自身は思っています。

 そのせいで辛い思いをするかもしれませんが、根無し草のように自分のルーツを全く知らないまま死んでいくのはやりきれないという思いがありますので」


 メガネの奥で瞼を閉じてそう答えた彼の表情は何かを心に誓ったようにフロイラインには見えた気がした。


「では宜しいですか?

 コレを無かったことにするのに同意していただけますか?」


 この魔術紋が記憶を失う前の彼の意思で施されたものだとしても、今現在のオリバーが魔術紋を自分の身体から無くしてほしいと願い、その意思が反映されることが大切なのだ。


 緊急時以外に魔術を第三者に施すには本人若しくはその親族、保護者等に同意を得なければいけない。

 そのために同意を得るのは魔術師にとっての違うことの出来ないマナーであり、ルールでもある。

 リアーヌは大魔術を扱える者として正しくあることこそが大切だとこの世界に来て学んだからこそ『誓約』を大切にする――それがどんなに本人に必要な事だと周りが思う様な状況でも本人に意識がある限り必ず当人に許可を得てから魔法を行使するのだ。

 誇り高い魔術師として自分があり続けたいからこそ、彼女は絶対にこのルールを守るのである。


「はい、お願いします。

 私は自分のことが知りたい。

 家族がいるのなら会いに行きたいのです」


「了承しましたわ」


 リアーヌのその言葉を合図に、部屋に眩しいほどの光が一瞬で満ちた――


 
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