【完結】距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado

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74 その頃の男爵夫妻

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 同時刻。

 応接間で緊張する対面を終えたコックス夫妻が執務室に引き上げてやっとひと息ついていた。


「おい、よりによって王子の婚約者を友人とか言って平気で連れてくるとは思わなかったぞ? 流石というかなんというか。フロイラインは節操なしの人誑しなのか? アイツは王子の恋人っていう噂があったんじゃなかったか?」


 イライラした様子で太い葉巻を咥えるとマッチを使って火を着け、シングルソファーの背もたれに深く背中を預けて青白い煙を吐き出すコックス男爵。


「昔っから男女問わず可愛がられて居たけどねえ。の連中が多かったから気が付かなかったけど、生まれつきそういう才能があったのかしら? あの公爵令嬢ともやたら仲が良かったじゃない?」


 そう言いながら、自分の首元を飾るダイヤのネックレスをあの化け物に取り上げられずに済んで良かったと、ホッとため息をつくローズマリー夫人。


「ああ。確かにな。ソレにしたって相手が大物すぎる」


 渋顔で煙と一緒に溜息を吐き出す男爵。


「王子の婚約者だから?」

「いや、あの娘自体が王族で王位継承権も持ってる上に、ジジイが元将軍だ」


 渋顔がより一層渋くなる。


「え。ヤバくない?」


 ぎょっとして背中が伸びる夫人を見ながら肩を竦める夫。


「引退してるけどな」

「じゃ大丈夫じゃないの?」

「だがコンフォート家の当主自体がこの国ではかなりの大物なんだ。お前だって知ってるだろう? 国際都市の雛形になったっていう公爵領」

「あ~、あったわねバカでっかい領都のある土地が。外国人がわんさか居て金回り良さそうなとこでしょ?」

「そこがコンフォート領だよ、本当に興味がないんだな。デカい土地だから当然私兵団もデカいぞ? 将軍が義父だ。当然テコ入れしてるし、辺境領くらいにしかいない筈の竜騎兵団まで保持してる」

「・・・ バレたら」

「・・・・・・」


 男爵は黙って自分の首元を親指で横に払うゼスチャーをした。


「ねえ、デニス。私達ここに来て12年経つのよね?」

「ああ」

「引き上げ時を見誤ったら不味いわよ?」


 夫人は不安げに夫の顔を覗き込んだ。


「そうだな・・・」


 デニスと呼ばれた男は妻に言われた言葉に頷きながら葉巻を灰皿に押しつけた。


「一泊したら明日の朝には王都に出発するって言ってたからな。移動はそれからだ」


 夫婦はお互いの顔を見ながら頷き合った。


「持ち出すモノのリストを構えるか・・・」

「次の場所の宛は?」

隣国アジトに戻るさ。その後で次は考える」

「そうね証拠を残さないようにしなくちゃ」

「ああ。コレばっかりはお前が頼りだからな」

「任せといて頂戴」


 そう言いながら立ち上がるローズマリー夫人。


「10年たった頃からは完璧よ。火薬も時間が経つと威力が落ちるからさぁ、仕掛けを変えるかどうかって迷ってたのよね。今回は珍しく2年オーバーだったからどうしようかって思ってたのよね」

「用意周到だなぁ」

「うふふ。仕組むのって大好きなのよね」


 彼女の口の端が上を向く。


「燃やすんなら景気がいい方が良いに決まってるじゃない? この前やった馬車に細工なんてケチな火薬の使い方なんてつまらないもの」

「そんなもんかね」


 肩を竦める夫を見ながら、ローズマリーがまるで舌舐めずりをするように赤い唇の上に舌をチロリと覗かせた。





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