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70 コックス領
しおりを挟むコックス領は王都の真北、コンフォート領からみると北東の位置にある。
領地としてはかなり小さいが山岳地帯に面していて距離的には隣国に近いが切り立った崖に阻まれていて交流は不可能。
かと言って辺境地の様に魔物が徘徊する程僻地ではなく、辺境伯の騎士団の巡回も滅多に訪れないが領民からの有志を募った自警団があり、もっぱら領地の諍い事はそこが解決する。
屋敷の護衛は数人いるが、私兵団と呼べるほどの人数は居らず質実剛健で実直な地方の小貴族という感じの貴族家だったのだが、この10年の間に王都や辺境伯領領都などの宝飾店から高額な宝飾品を買い付けている。
主力のワイン農家のブドウが豊作だとか、増してや領地としての全体の収入が上がったという報告は受けておらずそれでは収支が合わないと今回財務課から脱税を疑われたのだが・・・
×××
「これよこれ、この輝きは本物でしか得られないモノだわ・・・」
一人窓際で自分の親指の先ほどの大きさのピンクダイヤの指輪をうっとりと眺めるドレス姿の女性がいた。
年の頃は30歳を過ぎた頃だろう。
くすんだ金髪は結い上げられていて、既婚者であることを匂わすがその細い指には結婚指輪らしきものは見当たらない。
けっして醜いわけでは無くどちらかというと整った顔立ちなのだが、貴族女性にしては妙に艶がなくあまり上品とは言い難く見える。
「あの子が学園に行ってからは小遣い稼ぎがあまり出来なかったからねぇ・・・」
ローズマリーは久々に買い付けた薄っすらと桃色がかった宝物に頬ずりをする。
「大体こんなド田舎から出ていくことすらできなくなるなんて聞いて無かったんだもの。
コレくらいの役得あってもいいわよねえ」
誰に言い訳するでもなく、そう言いながら視線を外門に向けた。
「んん? ン?」
そこには妙にもっふりとした赤く丸い塊が見え、門番が慌てて屋敷の方に走って来るのが見えた。
「え? 何あれ?」
ローズマリーがよく見えるように窓に向けて身を乗り出した途端に塊の上から、
「わわわわッ!」
という声と共に、自分達夫婦の『娘』であるフロイラインが降ってきたのである・・・
×××
「ようこそおいで下さいました公女様」
コックス男爵夫妻は、自分達の『娘』であるフロイラインが何故かこの国一番とも言える富豪の娘を友達だと言って連れ帰って来たのに少々どころか、随分驚いた。
「なんのおもてなしも出来ませんが、ゆっくりおくつろぎください」
「ありがとうございます」
にこおッと笑顔で答えるリアーヌ嬢に少し見惚れた。
ふと横に立つ『夫』の顔を見たが、若干鼻の下が伸びている気がしたが、その更に向こうにある窓の外に視線が向かった。
「ひぃ・・・」
そこには目をらんらんと輝かせ此方を凝視する2つの金色の目が見えたのだ。
「あ、申し訳ありません、コックス夫人。
プロクスバードって宝石みたいにキラキラしたものを集める習性がありまして・・・
多分夫人の装飾品を狙っているんだと思います」
右手を頬に置いてコテンと首を傾げる美少女の言葉に、
『狙ってるって、何よぉ~・・・!』
と叫びたかったがグッと堪えたローズマリーだった。
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