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59 公爵令嬢やっとこ旅に・・・

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 「じゃあ、レイは今日来られないってことでいいのね?」


 小首を傾げながらリアーヌはハンスに確認した。


「ういっス。今日騎士団の連中と地方の捕物に急遽出発したッス。
 お嬢にはくれぐれも無理しないようにという伝言っすよ~」


 急に現れた黒ずくめのハンスにギョッとして飛びついてきたフロイラインを


『どうどう・・・』


 と宥めながら、レイモンドが仕事帰りに来れなくなったという連絡を聞いてチョッピリ残念な顔をするリアーヌ。


「び、びび・・・ びっくりした。なんで黒子が急に現れたのかと思ったよ。リアちゃんとこの従業員だったんだね」

「従業員って・・・ 失礼っス。こう見えてもお嬢専属の護衛ッスよ! てかアンタ、王子の彼女?!」

「彼女じゃないってば~・・・ あーほらこんな感じで勘違いされてるんだよね。やっぱ王都から逃げないと・・・」


 ウンザリ顔になるフロイラインを見て首を傾げるハンス。


「まぁ。やってた事は恋人ゴッコすね。でも金で雇われて芝居してたッスよね?」


 黒い前垂れはそのままで、首を傾げるハンス。


「「え?! なんで知ってるの?」」

「ナニをハモってるんすかお嬢まで一緒になって。当たり前でしょう? 

 お嬢の身辺を任されてる俺の仕事を舐めないでほしいッスよ~。

 お嬢と殿下との婚約を白紙にするのに身辺を調べるのも俺の仕事だったッス。

 当然アンタと王子の会話も聞いてたッスよ。あんな師弟関係みたいな恋人ありえないっスよ~」


 ケロリと爆弾をかましてくるハンスにあんぐり口が空いたままのフロイラインと、その美少女具合いが台無しになっている下顎をそっと片手で持ち上げるリアーヌ・・・


「じゃあ、お父様やお母様もその事はご存知なの?」

「当然ッスね。お嬢担当でも雇い主は公爵様ですから報告は完璧ッスよ」


 顔が見えないのでよく分からないが腰に手を当てているので


『フフン!』


 という態度に見えるハンス。


「じゃあ、婚約の撤回理由は殿下の不貞が理由じゃないってこと?」


 眉を下げてウ~ンという顔になるリアーヌ。


「いえ、っスね。

 お嬢と殿下の婚約に関する契約が常軌を逸する様な細かいものなんで。

 なんせビルエナ閣下とコンフォート公爵夫人の御二人が猛反対だったんで、婚約を破棄する条件の為だけに冊子が存在するッスよ。

 そもそも恋人がいるだってなんスからコックス嬢が殿下の恋人じゃなくても関係ないッスね」


 初めて聞く契約書の冊子という言葉とハンスが指を広げて見せたサイズに仰天する。

 親指と人差し指の間が軽く13センチほどあったからである・・・


「冊子って・・・」

「凄いねぇ」

「多分ビルエナ閣下の王家に対する嫌がらせも含んでるッスね。あの人お嬢が本当に殿下に粗末に扱われてたら・・・ッス・・・」


 最後のほうがゴニョゴニョと聞こえなかったが、


 『国が滅ぶッスよ』


 ――と呟いたような。

 多分気のせいである。



 ×××



 気分を変える様にパンッと手を合わせるリアーヌ。
 
「じゃあコンフォート領にこのまま行っちゃおっかな~。フラウちゃんも行く? 明日から土日2連休でしょ?」

「え? あー。寮に連絡入れなきゃ。喫茶のバイトは明日は入れて無いけど事務所の予約が日曜の午後に2件入ってるな~ えーと、14時と16時だわ」


 パラパラと手帳を捲りながら、確認するフロイライン。


「それまでに帰ってくればいいじゃない?」

「え? どうやって? そもそもコンフォート領に行くのにも日数かかるんでしょ? 転移魔法陣って王都内しか使えないんじゃないの?」

「うん。しかも王都内は距離制限もあるからね。ウチのは邸と門くらいね」


 王都内では設置出来る固定式転移魔法陣は移動できる距離が決まっていて、登録先も一箇所のみという厳格な決まりがありあちこちに転移できるような便利なものでは無い。

 行き先を明確にして、国に申請して初めて設置可能になるモノで公爵邸は広いが本邸から門という指定である。

 何しろ申請手続きが面倒臭い上に申請の為に大金を払う必要があるので、余程の大貴族か大金持ちの土地持ちくらいしか設置しないと言われているが、エネルギー源の魔石の管理は神殿なので支払先は神殿なのに許可は王家が出すというのも一般的に普及しない理由である。

 王家側は金にならないが手間だけかかり、神殿は魔石のエネルギーで王都の周りに結界を張るのが仕事なので、無くなるのは困る為出し惜しみをするという図式だ。

 しかもその結界が邪魔をして転移は王都の外には出来ないとされている。

 因みに個人で魔法を使いひょいひょい転移しているにも関わらず結界に引っかからないレイモンドやハンスは、はっきり言って異常。結界を上回る若しくは無効にする魔法の才能があるからこそ出来るシロモノなのだ。





「ま、とにかくコックス嬢が殿下の恋人じゃないのは知ってるっス」


 ハンスの言葉でひょっとすると『殿下に対するオカン炸裂ッ!』もこの黒子は知っているのでは? と、チョッピリ恥ずかしくなってモジモジするフロイラインである。








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