59 / 195
59 公爵令嬢やっとこ旅に・・・
しおりを挟む「じゃあ、レイは今日来られないってことでいいのね?」
小首を傾げながらリアーヌはハンスに確認した。
「ういっス。今日騎士団の連中と地方の捕物に急遽出発したッス。
お嬢にはくれぐれも無理しないようにという伝言っすよ~」
急に現れた黒ずくめのハンスにギョッとして飛びついてきたフロイラインを
『どうどう・・・』
と宥めながら、レイモンドが仕事帰りに来れなくなったという連絡を聞いてチョッピリ残念な顔をするリアーヌ。
「び、びび・・・ びっくりした。なんで黒子が急に現れたのかと思ったよ。リアちゃんとこの従業員だったんだね」
「従業員って・・・ 失礼っス。こう見えてもお嬢専属の護衛ッスよ! てかアンタ、王子の彼女?!」
「彼女じゃないってば~・・・ あーほらこんな感じで勘違いされてるんだよね。やっぱ王都から逃げないと・・・」
ウンザリ顔になるフロイラインを見て首を傾げるハンス。
「まぁ。やってた事は恋人ゴッコすね。でも金で雇われて芝居してたッスよね?」
黒い前垂れはそのままで、首を傾げるハンス。
「「え?! なんで知ってるの?」」
「ナニをハモってるんすかお嬢まで一緒になって。当たり前でしょう?
お嬢の身辺を任されてる俺の仕事を舐めないでほしいッスよ~。
お嬢と殿下との婚約を白紙にするのに身辺を調べるのも俺の仕事だったッス。
当然アンタと王子の会話も聞いてたッスよ。あんな師弟関係みたいな恋人ありえないっスよ~」
ケロリと爆弾をかましてくるハンスにあんぐり口が空いたままのフロイラインと、その美少女具合いが台無しになっている下顎をそっと片手で持ち上げるリアーヌ・・・
「じゃあ、お父様やお母様もその事はご存知なの?」
「当然ッスね。お嬢担当でも雇い主は公爵様ですから報告は完璧ッスよ」
顔が見えないのでよく分からないが腰に手を当てているので
『フフン!』
という態度に見えるハンス。
「じゃあ、婚約の撤回理由は殿下の不貞が理由じゃないってこと?」
眉を下げてウ~ンという顔になるリアーヌ。
「いえ、不貞行為そのものがあったかどうかは関係ないっスね。
お嬢と殿下の婚約に関する契約が常軌を逸する様な細かいものなんで。
なんせビルエナ閣下とコンフォート公爵夫人の御二人が猛反対だったんで、婚約を破棄する条件の為だけに冊子が存在するッスよ。
そもそも恋人がいるみたいだって周知された時点でアウトなんスからコックス嬢が殿下の恋人じゃなくても関係ないッスね」
初めて聞く契約書の冊子という言葉とハンスが指を広げて見せたサイズに仰天する。
親指と人差し指の間が軽く13センチほどあったからである・・・
「冊子って・・・」
「凄いねぇ」
「多分ビルエナ閣下の王家に対する嫌がらせも含んでるッスね。あの人お嬢が本当に殿下に粗末に扱われてたら・・・ッス・・・」
最後のほうがゴニョゴニョと聞こえなかったが、
『国が滅ぶッスよ』
――と呟いたような。
多分気のせいである。
×××
気分を変える様にパンッと手を合わせるリアーヌ。
「じゃあコンフォート領にこのまま行っちゃおっかな~。フラウちゃんも行く? 明日から土日2連休でしょ?」
「え? あー。寮に連絡入れなきゃ。喫茶のバイトは明日は入れて無いけど事務所の予約が日曜の午後に2件入ってるな~ えーと、14時と16時だわ」
パラパラと手帳を捲りながら、確認するフロイライン。
「それまでに帰ってくればいいじゃない?」
「え? どうやって? そもそもコンフォート領に行くのにも日数かかるんでしょ? 転移魔法陣って王都内しか使えないんじゃないの?」
「うん。しかも王都内は距離制限もあるからね。ウチのは邸と門くらいね」
王都内では設置出来る固定式転移魔法陣は移動できる距離が決まっていて、登録先も一箇所のみという厳格な決まりがありあちこちに転移できるような便利なものでは無い。
行き先を明確にして、国に申請して初めて設置可能になるモノで公爵邸は広いが本邸から門という指定である。
何しろ申請手続きが面倒臭い上に申請の為に大金を払う必要があるので、余程の大貴族か大金持ちの土地持ちくらいしか設置しないと言われているが、エネルギー源の魔石の管理は神殿なので支払先は神殿なのに許可は王家が出すというのも一般的に普及しない理由である。
王家側は金にならないが手間だけかかり、神殿は魔石のエネルギーで王都の周りに結界を張るのが仕事なので、無くなるのは困る為出し惜しみをするという図式だ。
しかもその結界が邪魔をして転移は王都の外には出来ないとされている。
因みに個人で魔法を使いひょいひょい転移しているにも関わらず結界に引っかからないレイモンドやハンスは、はっきり言って異常。結界を上回る若しくは無効にする魔法の才能があるからこそ出来るシロモノなのだ。
「ま、とにかくコックス嬢が殿下の恋人じゃないのは知ってるっス」
ハンスの言葉でひょっとすると『殿下に対するオカン炸裂ッ!』もこの黒子は知っているのでは? と、チョッピリ恥ずかしくなってモジモジするフロイラインである。
1,187
お気に入りに追加
3,208
あなたにおすすめの小説
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる