【完結】距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado

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57 検挙の口実は①

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 宰相府のある建物の影で、レイモンドと文官が立ち話をしていた所に同僚が声を掛けた。


「お~いレイモンド、出発するらしいぞ」

「ああ。すぐ行く。先に行っといてくれ」

「おう」


 片手をヒラヒラさせたレイモンドを確認して同僚は騎士団詰め所の方に歩いていく。


 レイモンドは文官服の男に向って


「じゃあ、伝言を頼んだよ」


 そう言うと、同僚を追うように歩いていく。


「了解です」


 彼はお辞儀をしながら宰相補佐官達二人が連れ立って去っていくのを見送った。



 ×××



 時間は少しだけ遡る。



「もう、めんどくさいので全員捕縛しましょう」


 副騎士団長が、そう言い始めたのに困ったのは宰相閣下である。

 『だから脳筋は・・・』という心の声が漏れそうだが、大人は口を噤むのである。


「待て待て、そもそも王都の古物商全体を調べ終わってないだろう? 
 宰相府としては本拠地が隣国なら外交官と連絡を取り合う必要がある。先走って相手国から越権行為だと訴えられても困るからな。

 それと男爵家の事は貴族院と連携を取らんとマズイ。
 何しろ中継の役目を平民なのに叔父ということだけで認めてしまったんだ。
 下位貴族は国王陛下の承認が必要ないから、役所の手続きだけで許可が降りたんだろうが、どうしてそうなったのかも経緯を調べる必要があるだろう」


 頭が痛い――そう云いたそうな宰相に全員が押し黙る。


「王都の古物商の調査は騎士団に任せる。外交官とのやり取りは外務大臣に任せるしかない。そっちは初動が遅れるのは間違いないが、隣国の内情はこちらからは手が出せない以上仕方がないだろう。

 レイモンド、お前は貴族女性からの聞き込みは終了だ」

「はい」


 やっとお役御免である。


「そのまま男爵家の内情を調べるのを手伝ってやれ。
 そこまで調べてるのなら後は経緯だけだ。まずは戸籍課だな」

「・・・はい」


 ・・・但し違う仕事が増えたようだ。



 ×××



 レイモンドが戸籍課のある文官棟に向かうと窓口で騒いでいる連中が見えた。


「アイツなんであんな所で騒いでんだ?」


 フロイラインに王宮に追い返されたハロルド王子と側近候補4人である。


「だから! コックス男爵家の戸籍を出せ!」


 ハロルド王子の要求に対して窓口の文官はニコニコ笑いながら、


「殿下、幾ら王族とはいえ他家の戸籍の閲覧は勝手に出来ません。殿下は未成年ですので成人した保証人が必要です」


 と笑顔で殿下と側近候補達を威圧している。


「国王陛下から委任状を貰ってきて下さい」


 そう言って、にこぉっと微笑む男性文官

 ――なかなかのツワモノである。


「そんな・・・ 急ぐんだ!」

「そうなのです、学園生が保護者から猥褻行為の強要をされてるらしいんです」

「しかも養女になっていないかもしれないんです」


 ワイワイと騒ぎ立てる学生達の横を通り抜けて、対応中の文官に


「どうせ今から俺が複写するからソレを見せてやるならいいだろ?」

「フラメア卿?」

「捜査に必要になった」


 そう言いながら宰相のサインの入った書類を渡す。


「はい。お待ち下さい」


 一礼して保管室に去っていく文官を横目に


「殿下、フロイライン嬢は養子にはなっておりませんよ。そもそも彼女が当主ですから」

「「「「「え?」」」」」

「それよりも虐待などの犯罪性があるなら今すぐ騎士団に行って陳情書を書いて下さい。そちらは訴える側が未成年者でも受け付けてくれますし、コックス家絡みなら即時逮捕状が出ます。コレ内緒ですけどね」

「え。逮捕状? フラウに?!」

「いいえ。養父のフリをした詐欺師夫婦の方です。彼女は無関係ですね」


 ニッコリ人当たりの良さそうな笑顔を見せるレイモンド。


「じゃあすぐ行く! 皆行くぞッ!」

「「「「ありがとうございます!」」」」


 バタバタと走っていく彼らを見送り


「うまいこと出来てんなぁ~ ヒロイン効果か? これで別件逮捕で夫婦揃ってしょっ引けるな」


 と呟いた。




 

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