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56 公爵令嬢とヒロインちゃん④
しおりを挟むヒャッハーとか言いながら、扇で口元を隠すあたりでギリギリまだ淑女なリアーヌ――
「しっかし、1年の時は王宮に行くのが減って学園って天国だわって喜んでたのが、2年生になって殿下が入学した途端に学校が苦痛になるくらい嫌味言いに来る婚約者ってどういう事よ?
あの人『リアーヌは俺が好きだ』って言い切ってたから協力したのに・・・」
文句を言いながらクッキーを3枚重ねで口に運びモゴモゴするヒロイン・・・
「どうしてそんな勘違いするのかが謎よ」
渋顔になり嘆息中のリアーヌ。
「アイツの言葉を信じたのが間違いだったわ。寝る間も惜しんでアルバイトと事務所の経営と学生と、偽装恋人役までやってたのに。
廊下でもトイレでも単語帳のお世話になって、学力キープしてたのよ? まあ卒業迄は頑張るけどさ。
この国あそこ出てないと貴族って認められないんでしょ?」
渋顔で更に4枚重ねたクッキーを口に運ぶフロイライン―― あ。落とした。
・・・3秒ルールを適応しようとしてリアーヌに手をはたかれた・・・
「うん。女性は結婚するんなら夫と一緒の身分証明が出来るから大丈夫なんだけど、独身で王宮女官とか侍女狙いなら卒業しないとね。
なにしろ身分証が国から発行できないから」
「くそー。隣国に逃げるのには卒業必須か」
「え? 何で逃げるの? せっかく異世界で従姉妹同士で遊ぼうって思ったのに。
ウ~ン、それなら花梨ちゃんウチの領に来たらいいよ。マンションの空き探したげるよ?」
新しいクッキーを皿に乗せ直しながらフロイラインに寄せると、スッと彼女の手が伸びる・・・ どうやら4枚重ねは諦めたようだ。
「うーん、男爵家がヤバそうだから逃げたいのよ。
ハロルドのリアーヌ懐柔作戦失敗により報酬が期待できない上に、偽装恋人のせいで評判ダダ下がりだから隣国へ行こうかな~と。でもマンションはいいなぁ~~」
「ヤダ。懐柔なんかされないわよ! あんなお子様ゴメンだわ。
それよりも男爵家がヤバいって何がヤバいの?」
「フロイラインって強制猥褻行為を子供の頃から強要されてたっぽいのよね。そのあたりの記憶はメッチャうやむやになってるけど。
私が前世の記憶取り戻したん入学式の前日だからさー」
「え、駄目じゃん! そんな親ギルティよ!!」
プンスコ怒るリアーヌ。
「親っていうか、養父母みたいよ?」
「そんな設定ヒロインにあったっけ? でもどっちにしろ花梨ちゃんをそんな目に遭わすなんて。
その夫婦飛竜をけしかけてやるわ!!」
「え・・・」
――あの祖父にしてこの孫である。
「そうだ! それより、花梨ちゃんが養子縁組で私の妹になったらいいわ!!」
パンッと両手を嬉しそうに合わせてニッコリ笑う姿はまるで美の女神である。
「う~わ。尊ッ・・・ スマホほっすぃ・・・」
つい違う意味で手を合わせて拝みそうになったフロイラインであった。
そしてリアーヌ嬢、身内びいきが結構ひどいかもしれない・・・。
×××
一方、何故か公爵邸からフロイラインに追い出されてしまったハロルド殿下は王城に向けて走る馬車の中で思案していた。
「帰ったら直ぐに父上達に確認をしなくては・・・。
いや、それよりもフラウの事だ。犯罪者まがいの養父母の元から早く保護しなくては・・・
ああ、でもリアーヌとの婚約を何とか・・・ あああぁあああああッ!
何でこんなに一度に色んなことが起こるんだぁあああ!」
大変な時に大変なことが重なるものだと世間ではよく言うだろうと云いたいが。
――どちらにせよ女のことばっかりじゃね?
と石を投げつけたくなるのは気のせいだろうか・・・・?
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