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42 公爵令嬢と護符とレイモンド
しおりを挟む貴族の戸籍を扱う部署は宰相府のある官僚棟と騎士団の詰め所のある軍務棟の中間地点にある文官棟の中だ
先程の男爵家の不正疑惑を騎士団に持ち込み帰りに文官棟立ち寄ったレイモンドは、目当ての資料を捲って行く。
「へぇ。令嬢は実子じゃないんだ」
フムフムと頷きながら、次々と違う冊子を広げ猛スピードで目を通していく彼は最終的に
「養子縁組か、それとも・・・」
そう言いながら考え始める。
「どちらにせよ上手くアレを押し付けないとね」
戸籍管理課の文官に礼を言いながら部屋を出ると、レイモンドの右の中指にはめた銀色の指輪がチカチカと青く光り始めた。
「チッ。アレがリアに近付いたな・・・」
小さく舌打ちして、サッと廊下の角を曲がったところで誰も周りにいないことを確認すると、あっという間に黒い煙を残して消えてしまった。
仕事は既に午後休みの時間なので多分問題ないのだろうが・・・。
王城の警備体制の方が問題である。
×××
公爵邸の玄関ロビーで祖父ロイドを待つ間、セティに祖母と共に座ったリアーヌ嬢。
「お祖父様帰ってきませんわね」
「そうねえ、もういっそココでお茶でも飲もうかしら。マーサお願い」
祖父の突拍子もない行動に慣れているキャサリン夫人は全く気にもとめていないようで、マーサにハーブティーを頼んでいる始末だ。
「リア。殿下が来たでしょ、大丈夫?」
「レイ! どうしたの?!」
「おやまあ」
突然二人の前に黒いモヤ浮かびレイモンドが突如現われたので、思わず立ちあがったリアーヌである。
×××
「ん~、うまく出来たとは思ってたけど確証が欲しかったからね。護符が働いたら此方に判るように細工してあったんだ」
ビルエナ前侯爵夫人キャサリンと互いに丁寧な挨拶をした後で、ここに現われた理由を二人に説明するためにレイモンドは指に着けた銀色の指輪を見せる。
「じゃあ、その指輪が護符と連動してるって事よね」
「まあね、あ、ほら」
「あらあら、光ったわね」
なんの飾りもない銀色の指輪はまるで道路鋲のキャッツアイのように青い光がチカチカと点滅する。
「リアを起点に30メートル圏内に殿下が近づいたら護符に仕込んだ呪が発動するんだけど、その時にリアの護符の光は黄色か赤に変化した?」
「うん。さっき一瞬黄色くなったわ。気のせいじゃなかったのね。今も黄色くなってるわね・・・て、あら水色になったわ?」
「うん、又飛ばされたねぇ・・・殿下」
半目になるレイモンド。
――しつこいなコイツとか思っているに違いない。
「対象物が離れると元の色に戻るのねぇ。素晴らしいわ」
「すごいですね」
キャサリン夫人もマーサも一緒になって感心している。
強制的に物理的距離を取らされている王子殿下の状態を心配してあげる心優しい人物はココには存在しなかったようである・・・。
×××
一方その頃、ロイドは王子殿下の馬車を興味津々でガン見するプロクスバードを伴い黒塗りの箱馬車の騒ぎを近くで見るために歩いて移動中だった。
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「まあ、別にお前が馬車を壊したところで俺は全く構わんが、キャサリンに知られると面倒だからなぁ」
ワハハと笑う彼を横目にパートナーであるプロクスバードは若干不満げに
『クルルルッ?!』
と囀っていたらしい。
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