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40 『乳母』にする気は御座いません
しおりを挟む王城内にある国王の執務室内は、昨日以降両陛下とコンフォート公爵夫妻との密会(?)が行われており、国王の厳命により立ち入り禁止になったままだ。
周りから両陛下の政務はいいのかというツッコミがありそうだが、この国は制限君主制であり議会制度を取り入れている為国政に関しては宰相府さえ稼働していれば多少なりとも融通が利くので問題はないのである。
まあ、国王の執務が0という訳では無いため、後に目を通しサインする書類が大量になるが・・・。
外交に関しては、今は春なので他国からの謁見要請が少ない時期であり、国内社交もほぼ止まっている為王妃の仕事であるお茶会も少なめ。
実に両陛下は運が良かった。
×××
「さて、状況証拠的には我が娘と殿下の婚約の白紙撤回をしていただいても宜しいかと思われますわ。いかがでしょう?」
まるで厳格なカヴァネスのように白金の髪をまとめ上げ、眼鏡(伊達)のブリッジをクイクイ上げながら腕組みをするマチルダ・コンフォート公爵夫人。
両陛下の目の前に広げられたフォトアルバムには、ハロルド王子とピンクブロンドの美しい令嬢が市井で仲良さげな表情で腕を組む姿や、学園の中庭の木陰のベンチに2人で座る姿、カフェテラスで1つのクリームソーダに2本ストローを挿した状態で親しげに話している写真等々が山程貼り付けられている。
こんなモノは見たくなかったと言いたげにソファーの背もたれにひっくり返っている国王と、アルバムをまじまじと見ながら表情を引き攣らせている妃殿下は目の下に隈まで見える――徹夜が祟ったのだろう。
「婚約時のお約束は、この様な行いを互いに一切しないというモノのはずでしたわ。ねッッッ!? 王家とコンフォート公爵家の間に取り交わした契約、お忘れですか?」
「「・・・いいえ」」
「そもそもこの婚約自体王家の頼みで成り立っております。同じ王族同士ですから王命は成立しませんから。その辺りを王子殿下にキチンと説明なさっていましたか?」
「いや、ハロルドはコンフォート公爵家が婚約を受け入れたのは、王家の申し入れを喜んだと思っているのかもしれんな。耳障りの悪いことは無視するきらいがあるからな。ハロルドの欠点だ」
陛下は溜息した。
「だからこそ過去に優秀なリアーヌ嬢を婚約者に選んでおいて良かったと安心していたのですわ」
王妃が祈るように両手を組んで目を潤ませた。
が、
冗談じゃないわッ! 一生足りない夫の世話なんか御免被るわッ! と、この場にリアーヌがいたら叫ぶだろう。
代わりにその母が
「ウチの娘を一生王子のお世話係にする気でしたの? 我が娘リアーヌは殿下の乳母ではありませんのよ?」
と。
教鞭で宙を『ビシュッ』っと切り裂く様に振った後で、温度のない声でそう呟く。
視線だけで射殺しそうな勢いに両陛下が
「「ヒェッ!?」」
と声を上げた。
お話し合いはまだまだ続く・・・
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