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23 ハロルド王子①〜過去
しおりを挟む「初めまして王子殿下。コンフォート公爵が娘リアーヌと申します。以後お見知りおきを」
俺が6歳の誕生日を迎えた時から始まった婚約者候補選定の茶会。
初日の茶会に一際目立つ少女がいた。
それが従姪のリアーヌ・コンフォートだった。
×××
流れる様な美しい所作で王族に対する最上級のカーテシーを披露する姿は、並み居る少女達の中では大人も顔負けの堂々としたものだった事を覚えている。
彼女は他の子達より年上だったせいか自分より身長が高くて、当時同い年の従兄弟達より身体が小さいと自覚していた自分はそれがとてもじゃないが気に入らなかった――なのに。
挨拶した後、俺から離れた彼女は参加者全員に用意されたテーブルに着いて侍女に傅かれ優雅にカップを傾け始めた。
白金色の髪は陽の光で輝いていて、白くたおやかな腕が動きその繊細な指先がテーブルの上にある茶器を触り、可愛らしい口に小さな焼き菓子を運ぶ度に微笑むのを見て、
『なんて可愛いんだろう・・・』
と素直に思えたのに。
再びこちらから近づいて思わず
「なんでそんなにデカいんだよお前」
と、憎まれ口をつい叩いてしまった自分がいた。
俺の口はきっと呪われているに違いない。
その後何度も婚約者候補との茶会を繰り返して大勢の貴族子女と会って言葉を交わし、挨拶をし、ウンザリする程にはお茶を飲んだが最初の茶会以降、彼女は挨拶後はサッサと一番遠い席に去って行く。
正直に云うと彼女にとって俺の第一印象は最悪だったと思う。
年齢だって年上なのは彼女だけで、他は皆同い年か年下で何より全員俺より背が低い。
それでも彼女が気になってしょうがないのだ――妖精みたいに美しい俺より2歳年上のはとこ。
何であんな事を言ったんだと茶会を開く毎に後悔した。
×××
ある日、朝の鍛錬を終えて私室に戻る為扉の前に立った時、中から声が漏れ聞こえて来た。
『そう言えばコンフォート公爵令嬢は何故殿下と2歳違いなのでしょうか。普通なら殿下と同じ年齢になる様に貴族達は子供を産むのでは?』
私付きになったばかりの侍従が侍従長に質問していたのが聞こえてきた。
『ああ、コンフォート公爵家は王家との御縁を必要としていないからですよ。そもそも公爵閣下は陛下と従兄弟同士でリアーヌ嬢自身が王族籍をお持ちです。
公爵夫妻も陛下の御学友ですから無理にハロルド殿下と縁付ける事は考え無かった筈ですので、ご自分達の都合の良い時期にお子を授かるようにしたのでしょう』
『つまり、王子殿下との婚姻は望んでいないし、もし男子だったとしても側近や御学友を望まなかったということでしょうか?』
『まあ、そもそも王家に取り入る必要性が無いですからね』
『成る程。御令嬢自体は同い年か年下が多いのに年上の御令嬢はコンフォート公爵令嬢しかいらっしゃらないのが不思議だったのですがそういう事だったのですね』
彼女は他の子と違って自分との婚約は望んでいないという事を突きつけられ、ショックを受けた――
『では、何故婚約者選びの茶会参加を?』
そうだよ、何でそんな気がないのなら参加するんだ?
『ああ、其れは両陛下がわざわざお招きしたからですね。彼女は一部の貴族達から『神童』『天才』と言われているんですが、御令嬢自身は長い間領都住まいで王都に御友人がおられないそうなので、王妃様が友人作りの一環として参加してはどうかとお誘いしたらしいです』
『ああ。だから殿下との交流をせず御令嬢達とばかり会話をしていらっしゃったのですか。なるほど。
その際も丁寧で、礼儀正しく所作も美しかったですね』
『そうですね。それだけでなく魔法や勉学の面でも優秀のようです。
私も最初信じられませんでしたが、禁忌書庫の本を読めるだけの魔力と知識がありますからね。最初図書館で見かけた時は驚きました』
『彼女はまだ9歳なのでは?』
『そうですよ』
『末恐ろしいですね・・・』
『天才とはそういうものです』
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