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14 公爵令嬢と公爵御夫妻
しおりを挟む「ほほう、距離を置くと殿下はそう言ったのかい」
そう言いながら晩餐後の珈琲を手にして、いい笑顔になったのはリアーヌの父コンフォート公爵だ。
そしてその隣に座る母である公爵夫人も非常にいい笑顔。
見る人が見れば分かる程度ではあるが、かなりなお怒りモードである事は娘であるリアーヌも、共に部屋にいる壁際に並ぶ使用人達も手に取るようによく分かるので、揃ってシャキーンと全員の背筋が自然と伸びる。
「マーサの報告書もそうだが、最近は学園内で件の男爵令嬢がお気に入りで城下の繁華街を連れ回しているらしいな。そのような報告が入ってきている」
非常に楽しそうに両親は笑っているが、その眦の奥は全く笑っていない。
「本当に。どうしても王家に嫁がせたいと両陛下が頼み込むから仕方なく我が家が了承したのを綺麗さっぱりお忘れなのでしょう。殿下にもちゃんと理解させなければ意味がないのですけどねえ・・・良いですわ、距離を置く。とっても良いお言葉ですこと」
リアーヌによく似た美貌の持ち主である公爵夫人がウフフフと笑いながら手に持っていた扇子をへし折った音が部屋に響いた。
×××
「で、公爵夫人。何故私が呼ばれたんでしょうか?」
翌朝。
何故か公爵邸に早朝から呼び出され共に食事を取っている事に疑問を口に出すのはレイモンドである。
「ウフフ、レイモンド君。私知ってるのよ闇魔法すごぉ~く得意でしょ?」
その言葉で両手のカトラリーの動きが止まり、思わず向かい側に視線を向けるレイモンド。
視線の先でブンブンと横に首を振って引きつった顔になっているのは勿論リアーヌだ。
「ああ、リアちゃんじゃないの。私も実は闇魔法が使えるのよ。だから分かっちゃうだけよ? 同じ属性同士だと共鳴するからね。でも貴方は私のちゃちな魔力なんか足元に及ばない位よね? なんで文官なんかになったのかしらって思えるくらいの。その上転移魔法も使えてるわよね~」
「・・・ええ、まぁ。確かに」
いつの間に知ってた? と聞くのが躊躇われる案件だ。
レイモンドは昨日も勝手にリアーヌの部屋に無断侵入していた身である・・・ヤバイ
「でね、お願いがあるのよ。リアの半径10メートル以内に近寄ったら違う場所に対象を跳ばす転移魔法陣のお守りを作って欲しいのよ」
「えぇ~、それって滅茶苦茶高難易度の呪じゃ無いですか・・・」
レイモンドの眉根が寄った。
「お母様、一体何を?」
「王子があなたに近寄ったら跳ばすのよ。お望みなんでしょ? 距離を置く事を殿下自身が。一臣下は王族のお願いを叶えてあげなくちゃいけないのよリアちゃん。知ってた?」
そう言いながらチラッチラッと夫の顔を覗き込む公爵夫人。
「是非作りましょう」
何故かレイモンドと母がいい笑顔で握手をし、父は青い顔になり、リアーヌは遠い目になって思わず窓の外を見たらしい。
×××
「じゃあ、王子がリアに近づいたら、10メートル離れた場所に跳ばされるって感じで良いですね?」
「ええ。それならあまり魔力も消費しないしね。リアちゃんが見えてるのに近寄れないってイライラしそうでいい気味だわ。」
夫人はニッコニコである。
執務室でレイモンドが女性の小指程度の六角柱の魔石に向かって魔力を流し込むと、輝き始めた魔石が彼の掌から30センチほど宙に浮き上がった。
「後はコレをリアが持ってるだけでいいよ」
「ポケットに入れておくの?」
「そうだな、加工するか。ひょっとして魔銀とかありますか?」
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