上 下
14 / 33

14 公爵令嬢と公爵御夫妻

しおりを挟む



 「ほほう、距離を置くと殿下はそう言ったのかい」


 そう言いながら晩餐後の珈琲を手にして、いい笑顔になったのはリアーヌの父コンフォート公爵だ。

 そしてその隣に座る母である公爵夫人も非常にいい笑顔。

 見る人が見れば分かる程度ではあるが、かなりなお怒りモードである事は娘であるリアーヌも、共に部屋にいる壁際に並ぶ使用人達も手に取るようによく分かるので、揃ってシャキーンと全員の背筋が自然と伸びる。


「マーサの報告書もそうだが、最近は学園内でくだんの男爵令嬢がお気に入りで城下の繁華街を連れ回しているらしいな。そのような報告が入ってきている」


 非常に楽しそうに両親は笑っているが、その眦の奥は全く笑っていない。


「本当に。どうしても王家に嫁がせたいと両陛下が頼み込むから仕方なく我が家が了承したのを綺麗さっぱりお忘れなのでしょう。殿下にもちゃんと理解させなければ意味がないのですけどねえ・・・良いですわ、距離を置く。とっても良いお言葉ですこと」


 リアーヌによく似た美貌の持ち主である公爵夫人がウフフフと笑いながら手に持っていた扇子をへし折った音が部屋に響いた。



 ×××



 「で、公爵夫人。何故私が呼ばれたんでしょうか?」


 翌朝。


 何故か公爵邸に早朝から呼び出され共に食事を取っている事に疑問を口に出すのはレイモンドである。


「ウフフ、レイモンド君。私知ってるのよ闇魔法すごぉ~く得意でしょ?」


 その言葉で両手のカトラリーの動きが止まり、思わず向かい側に視線を向けるレイモンド。

 視線の先でブンブンと横に首を振って引きつった顔になっているのは勿論リアーヌだ。


「ああ、リアちゃんじゃないの。私も実は闇魔法が使えるのよ。だから分かっちゃうだけよ? 同じ属性同士だと共鳴するからね。でも貴方は私のちゃちな魔力なんか足元に及ばない位よね? なんで文官なんかになったのかしらって思えるくらいの。その上転移魔法も使えてるわよね~」

「・・・ええ、まぁ。確かに」


 いつの間に知ってた? と聞くのが躊躇われる案件だ。

 レイモンドは昨日も勝手にリアーヌの部屋に無断侵入していた身である・・・ヤバイ


「でね、お願いがあるのよ。リアの半径10メートル以内に近寄ったら違う場所に対象を跳ばす転移魔法陣のお守りを作って欲しいのよ」

「えぇ~、それって滅茶苦茶高難易度の呪じゃ無いですか・・・」


 レイモンドの眉根が寄った。


「お母様、一体何を?」

「王子があなたに近寄ったら跳ばすのよ。お望みなんでしょ? 距離を置く事を殿下自身が。一臣下は王族のを叶えてあげなくちゃいけないのよリアちゃん。知ってた?」


 そう言いながらチラッチラッと夫の顔を覗き込む公爵夫人。


「是非作りましょう」


 何故かレイモンドと母がいい笑顔で握手をし、父は青い顔になり、リアーヌは遠い目になって思わず窓の外を見たらしい。



×××



 「じゃあ、王子がリアに近づいたら、10メートル離れた場所に跳ばされるって感じで良いですね?」

「ええ。それならあまり魔力も消費しないしね。リアちゃんが見えてるのに近寄れないってイライラしそうでいい気味だわ。」


 夫人はニッコニコである。

 執務室でレイモンドが女性の小指程度の六角柱の魔石に向かって魔力を流し込むと、輝き始めた魔石が彼の掌から30センチほど宙に浮き上がった。


「後はコレをリアが持ってるだけでいいよ」

「ポケットに入れておくの?」

「そうだな、加工するか。ひょっとして魔銀とかありますか?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

謝罪のあと

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約破棄騒動は、男爵令嬢の魅了魔法の発覚で終わりを告げた。 王族は揃いも揃って魅了魔法に操られていた。 公にできる話ではない。 下手をすれば、国が乗っ取られていたかもしれない。 男爵令嬢が執着したのが、王族の地位でも、金でもなく王太子個人だったからまだよかった。 愚かな王太子の姿を目の当たりにしていた自国の貴族には、口外せぬように箝口令を敷いた。 他国には、魅了にかかった事実は知られていない。 大きな被害はなかった。 いや、大きな被害を受けた令嬢はいた。 王太子の元婚約者だった、公爵令嬢だ。

(完結)男子を産めないわたくしは夫から追い出されました

青空一夏
恋愛
※番外編連載中 わたくしは、マーリン。夫はオリヤン・アーネル伯爵。わたくし達の間には子供が二人いる。そのどちらも女の子。 「今度こそ、男子を頼むぞ」  オリヤンにそう言わたが、3人目も女の子だった。 「この役立たずが! 女ばかり産む女には用はない。わたしには幸い愛人がいる。ちょうど妊娠がわかったところだったんだ。ここから出て行き、アーネル伯爵夫人の座を譲れ」  わたくしは、そう言われて屋敷を追い出された。 ※異世界のお話しで史実には全く基づいておりません。現代的言葉遣い、時代背景にそぐわない食べ物など、しれっと出てくる場合がございます。

私のウィル

豆狸
恋愛
王都の侯爵邸へ戻ったらお父様に婚約解消をお願いしましょう、そう思いながら婚約指輪を外して、私は心の中で呟きました。 ──さようなら、私のウィル。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

処理中です...