君と恋をしたいのに、なかなか始まらなかった君との恋の物語 〜攻略対象の王子様と悪役令嬢(仮)〜

hazuki.mikado

文字の大きさ
上 下
72 / 90
7章 東部辺境伯領

72.お預け。そして殿下の噂

しおりを挟む


 以後は辺境伯夫妻が様子を見てみるという事で、マリアンヌ嬢の話題を一旦切り上げようとしていたウィリアム達のいる応接室に、丁度やってきたバートン騎士団長と辺境伯領私兵団長。

 辺境伯夫妻も交え、その場で魔獣討伐の結果報告書のすり合わせを行ったがやはりどちらの遠征部隊でも上位魔獣が見当たらなかった事が判明し、関係者全員が眉を顰める結果になった。


「これ程大量の魔獣が現れて近隣に被害が殆ど出ずに済んだのはやはり上位魔獣が群れに混ざっていなかった事が要因かもしれませんなあ」


 確かに討伐そのものは東部辺境伯軍も王子達の支援隊も全力を尽くしたのは間違いないのだが、今回の魔物の総数から考えるとあり得ないくらい被害が少なかったのだ――


「最早規模はスタンピードでしたからね・・・」


 カスターネ辺境伯も渋顔だ。


「今回は軍そのものの被害も殆ど無かったのは有り難かったがな。見つかったのは天幕に現れた蜘蛛ラーニャ1体だけか・・・」


 ウィリアムも又他の者と同じ様に顔を顰めている。


「やはりこの空白地点を急ぎ調査したほうが良さそうですな」


 騎士団長が指さした地図のその場所は例の鉱石が採れる場所、現在王家預かりになっている鉱山地帯だった。


「明日の朝、辺境伯団から調査隊を向かわせましょう。現在は王領区の扱いですから騎士団からも何名か同行して頂ければ有り難いのですが」


 カスターネ伯の言葉で騎士団から数名と団長、そしてウィリアム自らが向かう事に決まった。






 残念ながらウィリアムの画策していたお忍びデートはお預けのようである・・・



×××



 ウィリアム達一行の幹部は客間を与えられる事になり、騎士団員や各家の私兵達は辺境伯兵の騎兵舎で泊まる様にカスターネ伯が直々に取り計らってくれた。

 野営から開放されて兵達も顔が若干緩んでいるようだった―― そうなってくるとお互いに軽口を叩く者も出てくるのがお約束であり、それがある意味休息が取れている証拠でもある。


「なぁ、あの噂、殿下の婚約者の令嬢と上手く行って無いっていうの。アレ嘘だろ?」

「ああ。根も葉もないってヤツだろ? あんな激甘な様子の殿下見たことないぞ」

「「「だよなあ」」」」

「俺、天幕内で殿下が公爵家の御令嬢を膝に乗せて嬉しそうにしてるの見たぞ」

「あ、俺も見た」

「俺も~! すっげえご機嫌な顔で殿下が公爵令嬢にくっついてたの見たぞ。砂糖で口がジャリジャリ言いそうでゲロ吐くかと思った」

「城門の警備やってる奴らが馬車の中でも大事そうに膝に乗せてたって言ってたぞ?  そいつ思わず二度見したらしい」

「まーじーかー。殿下、普段がこええからな。ギャップがマジすごいな」

「ご令嬢の方はどうなんよ?」

「コレがまた、嬉しそうに顔を赤くして恥じらっちゃってさぁ~」

「そんなに噂になるほど不美人じゃないよな?」

「あ~、俺、眼鏡外した所見た!」

「「「何!?」」」

「アレ、魔道具だぞ。認識阻害の」

「「「「え?」」」」

「メッチャクチャ美人だった。驚いたのなんのってねーの!  アレは絶対殿下が掛けさせてるに違いないね~殿下の独占欲の凄さを思い知ったぜ」

「そ、そんなにか?」

「おう。アレ見たらその辺りのネーチャンの性別が霞むかもしれんな。心配で殿下が魔道具で彼女の顔を隠してるに違いないと俺は見たね!」

「「「「そりゃあ是非見てみたいな」」」」

「俺も、もう1回拝みたい。でも・・・」

「「「「「?」」」」」

「ぽーッと見とれてたら、殿下が睨んできて背筋が凍った・・・」


 その新兵は一瞬顔色を悪くして自分の肩をぎゅっと抱いて


「正直言って魔獣なんかより怖かった・・・」

「「「「・・・そ、そうか」」」」


 全員の顔が引き攣った―― 





 ウィリアムは例の『シルフィーヌは運命の恋人症状』を新兵が起こさないか危惧しただけだったのだが、此の後王国騎士団の間ではまことしやかに『ウィリアム王子、婚約者様溺愛説』とか『ウィリアム殿下、ヤンデレ説』が浮上したらしい。










 何処かの伯爵令嬢が眼鏡をクイクイしながら目を輝かせそうな噂である・・・。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと
恋愛
 娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。 (あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)  そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。  そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。 「復讐って、どうやって?」 「やり方は任せるわ」 「丸投げ!?」 「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」   と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。  しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。  流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。 「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」  これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

処理中です...