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7章 東部辺境伯領
66.いったーい!!
しおりを挟む『ゴスッ』
シルフィーヌは想像もしていなかったような硬質な音に驚いて、自分の手を肘に置いたままのウィリアムに顔を向け・・・
――え、置いたまま?!
彼女の想像では両手で御令嬢を抱き止めて困り顔で立っているはずだったウィリアムは、未だに彼の肘に置いたままのシルフィーヌの手の上に自らの手を重ねており、その精悍な顔は困っているというよりは怒った顔に近い渋顔である。
――思わず自分の婚約者を二度見するシルフィーヌ。
そして、彼により無詠唱で張られたであろう透明な防御障壁に顔を押し付けた形で彼の30センチほど手前で止まっているゴスロリ(?)レディに自然と視線が向かう・・・。
「いったーーーーい! 酷いわよ! ウィリアム兄様ッ! レディに何てことするのよッ」
「レディだと言い張るのなら、いい加減に自国の王族に対する礼儀を覚えろ!! マリアンヌッ!」
2人のデカい怒鳴り声が青空に響いたのであった・・・・
×××
「要するに、だ。このマリアンヌは王族に対する礼儀がおかしいんだ。俺だけじゃなくてアダムや両陛下に対しても同じ様に振る舞うんだよ。それじゃ周りに示しがつかんから、コレの思い通りにならないように俺達兄弟は気を遣ってるんだ」
未だに渋顔のままで応接間のソファーに座り、出された紅茶を啜るウィリアム。
「あのままの流れだと、俺が受け止めたら婚約者のフィーに対して失礼だし」
「チッ」
『ゴンッ!』
――何かが当ったような鈍い音がした?
思わず周りを見回したシルフィーヌは頭を抱えるマリアンヌを見つけたが、そっと目を逸らして見なかったふりをする。
「かと言って、俺が避けたらコイツが怪我をする恐れが無い訳でもない」
――『ある』とは言わないのね・・・
「受け止めてくれていいのにィ~」
『ガンッ!』
――又音がした気がする・・・
今度は視線を動かさずに、微笑みながら横に座る婚約者の顔に視線を固定する様に務めるシルフィーヌ。
―― ワタシナニモキコエマセンデシタ♡
「まあ、つまり躾だな。伯父上にも伯母上にも頼まれてる。これじゃ婚約者が決まっても礼儀知らずで相手から婚約破棄されても文句が言えんだろ」
はぁ~・・・とため息を吐くウィリアム王子。
「私はウィリアム兄様かアダム兄様と結婚するのよッ」
「お・れ・た・ち・は、婚約者がいるんだッつってんだろッ!! 何回言い聞かせたら分かるんだ?!」
「むうぅ~ッ!」
口を尖らせて、不満げな顔をするマリアンヌ嬢。とてもじゃ無いが淑女とは言い難い・・・
「あの、マリアンヌ様はおいくつですの?」
「やだ~レディに歳を聞くのはマナー違反よッ」
鋭い目つきでマリアンヌがシルフィーヌを睨むが、
「アホウ。9歳の子供が何ナマイキ言ってんだ」
「え、9歳って随分大人っぽいですね」
――行動はおこちゃまだが・・・
「見た目だけだ。中身は高位貴族の令嬢としては失格だ」
――あ、ソレ言っちゃうんだ・・・
困った顔になるシルフィーヌを見ながら少しだけ甘い顔をした後、ティーカップを音もさせずに優雅な仕草でソーサーに戻したウィリアムは意外にも従妹に手厳しかった・・・
ウィリアム王子が甘い顔を見せるのは、シルフィーヌだけだということが判明した出来事だった。
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