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7章 東部辺境伯領
65.辺境伯の御令嬢
しおりを挟む白に近い銀髪に紅い眼をしたその御令嬢は先頭にいたウィリアム王子を見つけた途端、淑女にはあるまじきスピードで全力疾走してきた様にシルフィーヌには感じられた。
「ウィリアム兄様!!」
笑顔でウィリアムに飛びついて来た彼女は、シルフィーヌより若干幼く見えた――
×××
辺境伯の城は、白亜の城と言われるケインズ城と違い無骨とも言えそうな作りの赤レンガの城で要塞のようだ。
国境を見張るための尖塔は優美さというよりは頑丈さを重んじて造られた大きな物見櫓になっており、恐らく螺旋階段に沿うようにだろう、鎧戸のついた小窓が頭頂部に向かい等間隔に並んでいてあらゆる方向を見張る事ができるような作りで、長く国境の守りを貫いてきた城ならでの風格を備えた住居区画でもある本城の窓も全て鎧戸付きの窓が設えてあった。
「ケインズ城とは全く違うのね・・・」
まるで要塞のような作りの城を見上げ驚きに目を見張るシルフィーヌ。
「ここは国境を守る要の一つだからな。外交や社交目的の王都の城とは違うよ。隣国との交渉で外交にも使われるけど、基本的には砦だからね」
馬から降りたシルフィーヌに手を差し出しそのままエスコートするために、自分の肘に彼女の手をかけさせると満足そうに頷くウィリアム王子。
「確か東の辺境伯様は、ウィルの伯父様よね」
「ああ。母上の兄になる。北の叔父は父の弟だな」
「あら、西も親族よね、確か・・・」
「大叔母だ。あの人が一番怖いな」
怖い大叔母を思い出してつい嫌そうに眉を寄せた彼の顔を見上げてクスクス笑うシルフィーヌを、使用達が並ぶ入口へと誘導していくウィリアム。
二人の後ろには騎士団長と侯爵家の子息達、さらにその後ろには騎士や私兵達がぞろぞろとついていく。
重厚な造りのエントランスに並ぶ召使い達が一斉に頭を下げる中心に、王妃によく似た銀髪に深い緑の瞳の美丈夫が立っていた――東の辺境伯当主ステファン・カスターネだろう。
『なんだか、アダム第2王子に似てるわ・・・』
やはり親族なのだなと遠目にシルフィーヌが納得していると、彼の後ろの出入り口から何かが飛び出してきた。
『?! ご、ゴスロリ服?』
白いフリルをふんだんに使った黒いボウルガウンドレスは銀糸の刺繍が所々に入っており、胸元が大きく開いているパフスリーブの半袖のツーピース仕立てのモノで、ドレスの丈はなんと膝上。
この世界では平民だって有り得ないようなスカート丈である。
更には黒い厚底のショートブーツを履いており、黒いリボンチョーカーと白い薔薇の飾りのついた黒いレースのヘッドドレス、極めつけは頭飾りのモノと同じ大きな白い薔薇の飾りが手首に縫い付けられているであろう黒いレースの手袋。
白黒ばかりでまるで葬式のような色合いだが、彼女の輝くような銀髪と血のような紅い瞳がアクセントになって却ってかわいく見える。
その少女は辺境伯や召使い達が止めようとするのをあっさり掻い潜り、そのままこちらに満面の笑顔で全速力で走ってくるのだ。
「ウィリアム様ッ!!」
叫ぶように大声を出しながら、両手を広げてこちらに走ってくる後ろからカスターネ伯が真っ青になって走ってくるのがシルフィーヌの目に映った――ああ、何となくこの後の展開、想像が付くわ・・・
一瞬遠い目になったシルフィーヌは
『お兄様お会いしたかったわッ』
という声と共にウィリアムが困った顔で彼女を抱きしめるんだろうな・・・
――従妹だもんね。チッ。
と。悟ったチべ砂状の顔になる・・・
『ゴスッ!!』
想像の遥か彼方。
考えも及ばないような鈍い音がシルフィーヌの直ぐ隣りで響き渡り、彼女は慌ててそちらを向いた――
「えぇっ!!?!」
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