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6章 殿下魔獣討伐へ

57. 閑話 討伐準備?

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 「お嬢様、公爵閣下がお呼びでございます」


 昨日コリンズ領から帰ったばかりのシルフィーヌが荷物の片付けを侍女たちに指示する私室に執事長が現れた。


「あら? 何かしら。まだ片付けが終わっていないのだけど」

「至急との仰せです」

「分かったわ。後をお願いね」


 部屋の中で忙しく動いている侍女頭に片付けをそのまま続けて貰うことにして、シルフィーヌは父親の執務室に向かった。


「王家から魔獣の討伐要請があった。今回はシルフィーヌ、お前が行きなさい」

「え」

 
 兄のフィンレーは現在18歳で王族同様12の歳から領地の魔獣討伐に赴いており、王家の要請には15歳から私兵を率いて参戦して来たかなりの手練れだが、シルフィーヌは今迄本格的な魔獣狩りに赴いたことはなかった。

 女の子だということもあったし、何より王子の婚約者でもあったので公爵閣下も彼女を前線に送り出すのを渋っていたのである。

 しかし先月彼女は15歳の成人を迎え、後一年すればウィリアムとの婚姻も控えている。

 このまま上位貴族の責務である魔獣の討伐を経験させないまま王家に輿入れすればシルフィーヌのためにならないと妻の公爵夫人にもせっつかれ、渋々彼女に討伐遠征を経験させる決心をした公爵閣下。


「昨日帰ってきたばかりだが、魔獣は待ってくれないからな・・・ウィリアム殿下も出征する。婚約者殿も一緒なら心強いだろう」


 そう言っている公爵本人が何だか不安そうに見えるが、それは言わないのが様式美である。

 シルフィーヌは


「分かりました。準備を終わらせ次第王城に向かいますわ」


 そう答えて美しいカーテシーを父親に披露して部屋を下がっていった。


「急がなくっちゃ」


 小走りに近い速度で廊下を進み私室に飛び込むと片付け途中の侍女頭に向かい


「今日の昼に魔獣討伐に向かいます。兵を率いて辺境に向かう準備をお願い」


 その声を耳に入れるなり召使い達は急に厳しい顔つきになると、それまでの様子とは打って変わって侍女長の指示の通りにキビキビとした動きで新たに荷物の準備を始める。


「初めてだけど、大丈夫よね? 何度も領地でお兄様と一緒に練習したもの・・・」


 ちょっぴり不安が募るが


「私兵団も手練れですから大丈夫でございます。お嬢様の初陣ですので不備のないように召使一同全力で準備いたします」


 大柄な侍女長がニッコリ笑う。


「そうよね。私兵団もいてくれるし。ウィリアム様もいるから大丈夫だわ」

「あら、それなら念入りに準備しませんと」


 ぽんと手を鳴らすと、侍女達の内の何人かが服や小物を持ってシルフィーヌのまわりを取り囲む。


「やはり殿下のお色のお召し物を」

「髪の形はどう致しましょう?」

「前線では特殊メイクは出来ませんから素顔に眼鏡ですわね」

「眼鏡もホントは掛けさせたくないのですが」


 皆が口々に様々なことを言いながらシルフィーヌの着ているティードレスを引っ剥がし、入浴の準備を始めたのにギョッとするシルフィーヌ。


「・・・えぇぇ、ねえお風呂はいらないと思うのよ」

「急ぐのです登城は昼前ですよ。殿下をお待たせさせてはいけません」

「「「「はーい」」」」

「・・・魔獣討伐だってば・・・」


 多分、侍女達は魔獣より手強い・・・・


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