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5章 コリンズ領
45. シルフィーヌ・アーバスノット③
しおりを挟む王族としての執務の一環である視察に向かうウィルといっしょにコリンズ領に向かった。
初めて一緒に出かける小旅行。
嬉しくて、楽しみ過ぎて出発当日は寝不足だった。
普段は地味なメイクに引っ詰め髪だけど、この旅行中は全部止めるように、とウィルに言われた。
『変装は眼鏡だけな? 何があっても側にいるから大丈夫だ』
変な人に絡まれるんじゃないかと思って凄く緊張したけど、本当に道中では何もなくて。
王都ではストーカー紛いの人達がいっぱい湧いて出たのかが何故だろうと不思議だった。
後悔してもしきれなくてもやもやする――
だって、彼はカッコいい。
私だって女の子だもの。
彼の隣に並んだ時に相応しいくらい綺麗になりたいって思うもの。
いつだって『可愛い』って彼に言って貰えるくらい綺麗でいたい。
それが本音――
それなのに怖いから、目立たないように地味な格好をして。
やり過ぎて却って地味で厳しいカヴァネスみたいな姿にしてみたんだけど、そのせいで少女らしさは皆無になっちゃってたから。
私が地味で暗い表情で彼の隣にいたら、誰だって相応しくないって思うじゃない? これってゲームの通りにストーリーを進めようとする『ゲーム強制力』が働くからなのだろうか、と改めて考えさせられてゾッとした。
ゲーム上では私の見た目は地味で目立たない平凡な少女っていう姿だったから。
今思うと
『安全が一番だからな』
て言いながら一緒にいてくれたウィルにも申し訳ない気持でいっぱいで。
そんな事ばかりを馬車が出発してからも考えがちだったけど
『最後の転移門をくぐるぞ』
って彼に言われて、気を引き締めた。
×××
眼の前に広がる真っ青な海と白い雲。
明るい太陽は王都の上にいつも見られる太陽とはまるで別物だと思った。
昔テレビでよく見たギリシャの観光地のような美しい街並みに圧倒された。
なんて素敵なんだろう!
伯爵邸に着くと、まるで海の様な爽やかな雰囲気の女性がコリンズ伯爵家のご令嬢だと紹介された。
――彼女もやっぱり転生者だった。私より3歳年上というだけなのに随分大人っぽいな、と思ったら転生前の人生を殆ど覚えていると言われた。
ああ、やっぱり。
ウィルもそうだけど、以前の人生を覚えてる人は今生でも何処か大きく感じる。老成してる――といえばいいのかもしれない。ウィルも子供の時からずっと大人びていたから。
2人を見てたら何だか羨ましくなった。
何だか私だけが子どものままのような気がしたの。
そしたらエリーゼさんが自分は『腐女子』で『オタク』で『絵師』で、『小説家』を目指してる『ジェンダーレス』だったって吐露して来て・・・ え?
待って待ってまって、情報量多過ぎ!
つまり、男女の性の垣根を取っ払っちゃった人って事だよね? 本人は無自覚だったって笑ってるけど。
そういう事だよね?
『百合絵』でウィルが私を隠しちゃったけど、たぶんそれって意味ないよ。性別には拘ってないんだって。
『BL』もイケるって言ってたじゃん・・・
あ、そうかウィルはそういうの疎いって、そういう事かー。
でも『百合』は分かるんだね・・・
後で聞いてみようっと。
×××
滞在中、これぞっていうくらいエリーゼさんに2人揃って弄られた。
多分絶対そう。
でもそのおかげでウィルとの距離がグッと近づいた気がする! 何だか嬉しい!
こっそりエリーゼさんに聞いたら
「殿下との距離が縮まっていいでしょッ♡」
っていい笑顔で返されちゃった。
全部お見通しだったんだ~って感心しちゃった。
「殿下、奥手そうですもんね~」
そ、そうなのかな?
「任せて下さい! 王都に帰っても大丈夫なように殿下を仕込んどきます!」
て、ええ!?
いい笑顔でおやすみなさいって、え、まって?! 嬉しいけど、え?
一瞬ポカンとして呆けているうちにいなくなっちゃった! 慌ててドアを開けて追いかけようとしたんだけど・・・
あ、もう廊下にいない!?
あの人、ひょっとして前世は忍者?!
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