40 / 90
5章 コリンズ領
40.領地改革は憧れから始まった
しおりを挟む市場内をゆっくり回った後、日差しの明るい外に出た。
「この町並みも、ひょっとしてエリーゼ様が?」
白い壁に青や赤といった原色のペンキを塗った扉や窓枠、派手な色の木花が街路樹として採用された町並み――
「ヘヘッ分かります? ちょっとミノコスとかサントリーニ島とかのイメージで明るく統一したんですよ。ここの道は元々石畳だったので似てるんじゃないかと思ったのが最初でした。前世では海外旅行に行けるような経済力が無かったので行ったことは無いですが写真で見たことはありましたからね。だったら今生では領主の娘っていう立場を利用して憧れた土地を作っちゃえって思ったんですよね」
領主の年間予算の余剰分をあの手この手で父親を説き伏せて、町並みを整えていったのだという。
「最初は両親や家臣にも反対されましたよ? 子供が何を分かったような事を言うんだって言われてね。でも街中の壁が白く塗り替えるのが、お菓子になると知って喜んだのは領地の子供達でした」
年々薄汚れて行く街並みは気が付かないうちに人の元気を少しずつ削っていたらしく、街は寂れていく一方で仕事も限られた港関係のモノか漁師の仕事ばかり。
それを嫌ってか年々若者が仕事を求め王都に流出してしまい、領地には残された年寄りが少しずつ増えつつあった。
――壁や塀の色を白いペンキを塗って変えるだけ。
エリーゼはペンキを大量に構えて、それを町中の子ども達に呼びかけ、自らせっせと作った焼菓子の報酬で頼んだのだという――だが、それが1度始まると人の心に変化が起きた。
エリーゼの案で始まった壁や塀を白く塗り替えるという作業が子ども達の小さな仕事になり、暗かった路地裏も白い壁で明るくなり犯罪率が激減して街全体が活気付いたのだという。
「犯罪率が下がったお陰で、安心して暮らせるようになった母親達が今度は協力してくれるようになったんですよ」
次に大きな市場を構えるためにそれまで放置され気味だった波止場周りの清掃が彼女達の手によって始まった。
その頃には伯爵夫人、つまり母親がエリーゼに理解を示し自身の予算を割いて女性達に手間賃を渡せるようになったのだ。
最初は屋根のない場所で青空市場のようなものを想定していたが、コリンズ伯爵が妻に説得されてとうとうエリーゼの考えを汲む事になり、卸市場が建ったのだという。
仕事を増やした事で他領から人が訪れるようになり始め、それを目当てに宿屋や食堂が活気を取り戻した。
「国外からの流通の要の港町ではあったんですけど、この領は主要な産業も無くほぼ通り道だったんです。自領を農作物で豊かにするには、ここは塩害で畑も少ないんですよ。だったら他で稼がなきゃって思ったんです」
今や領民達自身が町並みの維持を考えるようになり、小さな街の綻び――例えば石畳のひび割れだとか、街路樹の痛み具合だとか――を自分達で手直しし、それでも手に余るものは領主に頼るのだという。
屋根まで色を変えてしまったのは領民達の発想だったらしい。
「街並みを青い海に似せたかったらしいんですよ。だから皆が自然と青い色を選んだらしくて。前世の憧れた場所に似たのはある意味偶然だったんですけど」
海風が彼女の薄紫の巻き毛を揺らし、明るい陽の光に眩しそうに目を細める彼女は紛れもなく立派な伯爵家の一員だった――
「コリンズ領の税収が近年になってグッと上がっていたのはエリーゼ嬢のおかげだったんだな」
「周りの協力もありましたけどね」
へへへと照れて笑うご令嬢。
「前世の知識もこんな形で領地に還元できれば捨てたものでもないな」
ウィリアムが感慨深い表情で呟いた――
20
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる