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4章 シルフィーヌの災難

30.公爵令嬢の装い

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 親友であるアーバスノット公爵の娘は、彼の妻によく似た美しい天使のような子供だった筈だがな・・・

 そう思い返しながら末娘の言葉を思い出しつつ、その日国王陛下は中庭に向かい侍従を連れて歩いていた。


 王宮は、国王一家の家である。


 従ってその中庭は王族とその親族しか入ってくることができない場所で、王妃がよく息子の婚約者2人とよく茶会をする場所でもある。

 午後のお茶の時間になれば王妃や義娘になる予定の令嬢達に簡単に会えるので彼は何となくそこへ向かっていたのだ。

 もっとも国王はこの1年程その女性だけの茶会には顔を出しておらず、義娘予定の令嬢達と長い間顔を会わせていなかった。


「んん?」


 中庭に近い渡り廊下付近に見慣れない令嬢が王宮侍女の案内で歩いているのが見える。

 美しい上品な所作だが、髪の毛はまるで女教師カヴァネスのようにひっつめて編み込んでいて、白いブラウスに紺色のAラインのミモレ丈のスカートに、トドメは顔がわからなくなりそうな大きな丸い眼鏡。

 ホントにオールドミス(死語)の家庭教師なんじゃないかと我が目を疑う陛下。


「おい、アレは一体どこのカヴァネスだ?」


 思わず後ろに佇む侍従に問いただす。


「え、アレ? とは?」

「だからあの丸眼鏡の女性だ」

「ああ。アーバスノット公爵令嬢のことですか?」


 何言ってんだコイツという腹の内はおくびにも出さずにサラッと答える侍従。


「え。アレがか?」

「ハイ。そうですが何か?」

「・・・そうか」


 侍従は首を傾げたが、国王は何も言わずに黙り込んだ後


「自室に戻る」


 そう言って踵を返した。



 ×××



 その半刻ほど後の事。

 公爵令嬢に与えられている王宮内の衣装部屋から現れたシルフィーヌは見事に波打つ金色の豊かな髪をハーフアップに結い上げ施していた濃いメイクを素顔になっていた。


 勿論顔を隠す様な大きな伊達眼鏡も外している。

 抜けるように白い肌に薄っすらと色付く桜色の頬。
 紅も引かないのにバラの花弁のように色付く唇。
 パッチリとした二重瞼の下の長い睫毛の更に奥には新緑を思い出させる煌くような緑の瞳・・・ 母である公爵夫人によく似た美貌は手伝う侍女達に溜め息をもたらす。


 緩いV字に開いたデコルテ部分にはボトルネック状に高級なレースを大胆に使ってあり、肌が見える肩や鎖骨辺りが上品に感じられる程度に透けるよう工夫されている。

 オレンジに近いピンクのオーガンジー素材で様々な春の花の模様がプリントされている袖はフンワリと3段フリルになっていてそれに続く身頃は同色のシルクタフタで身体にピッタリ沿うように縫製されていて、キュッと細く絞られたウェスト部分から袖と同じ素材のオーガンジーのスカートが何枚も重なっていてまるで薔薇の蕾のように見え、まるで彼女自身が春を呼ぶ妖精か女神のようだ。

 着替えを手伝っている侍女達に向かい


「いつもありがとう御座います」


 と彼女が笑顔を向けると、満遍なく全員がうっとりと頬を赤らめる。

 毎回着替えを手伝う王宮の侍女達は何故あんなに地味な格好を普段しているのかと首を傾げるくらいの変身っぷりだ。


 これには少々事情がある。




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