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4章 シルフィーヌの災難
29.公爵令嬢と王女様
しおりを挟む王城の文官達にはそこはかとなく不人気なカートレット王国の国王陛下だが、40歳になっても未だに若々しく見える上に結構なイケメンで、まぁやんちゃなままオッサンになったといえば良いだろうか? 現代風に言えば間違いなくダメンズに名を連ねるタイプだが、古今東西こういった人間ほど人誑しで女性にはモテる。
しかもこういう人物程、自分が女の子の父親になった時に娘の前では格好つける俺様タイプのオヤジになったりするので、娘には無駄に好かれていたり、尊敬されていたりする――
×××
「アボット家の令嬢は中々可愛いな」
ちょっとニヤケ顔でそう呟いた国王に真っ向から物申す幼い声。
「えー、そうかな。父様は私よりオリヴィエ嬢が可愛いの?」
彼の相手を務めるのはジョセフィーヌ・カートレット。
何を隠そうこの国の王女殿下、つまりウィリアムとアダムの妹で今年で御年5歳である。
歳が行ってから出来た子ほど可愛いのも又、古今東西共通で、例に漏れず国王はジョセフィーヌを猫可愛がりしていた・・・
更に男親は娘を甘やかす傾向があるのも又然り――そちらも例に漏れず、バッチリ彼には当てはまったようで、ジョセフィーヌ王女は5歳という年齢も手伝って駄々甘で我儘な小娘になりつつあった。
「確かにねぇ、私より下だけどぉウィリアム兄様の婚約者のシルフィーヌ嬢よりは美人よねッ」
「うん? そうだったかな? 確か彼女は・・・」
天使のような可愛らしい娘をだったような気がするぞ? ――と首を傾げる国王陛下。
「だってー、引っ詰め髪に、ダッサイ丸眼鏡じゃないの。あんな大きな眼鏡掛けてちゃ顔だってマトモに見えないわよう」
天鵞絨の艷やかな座面のカウチソファーに座り、お行儀悪く喋りながら焼き菓子を口に運ぶジョセフィーヌ。
お菓子のクズがパラパラと彼女のドレスの膝と共に赤い天鵞絨の上に散らばる。
王妃や教育係に見つかったら大目玉を食らうこと間違いなしである・・・
「あれじゃお父様にそっくりなイケメンのウィリアムお兄様の隣に並んだ時に見劣りしちゃうわ」
一回り近く年齢が離れた長男ウィリアムはジョセフィーヌの自慢の兄だ。
ちょっと彼女はブラコン気味でもあったので、前々から兄の婚約者であるシルフィーヌが気に入らなかった。
名前が何となく似ているため『フィー』という愛称を兄がシルフィーヌに使っているのも何だか気に入らない。
因みに彼女の愛称は『ジョゼ』だ。
『フィーっていう愛称はジョゼより前にシルフィーヌに使ってたからな』
ウィリアムがそう言って『ジョゼ』という愛称に家族間でアッサリ決まったのも気に入らない要因でもある。
「ウィリアム兄様は次期国王でしょ? その兄様の隣に並ぶお妃様が地味で目立たない令嬢なんてカッコ悪いわ、あんな地味な人じゃなくっても良いじゃない。父様と同じくらい兄様は国民に人気があるのよ?」
フンッと鼻を鳴らすジョセフィーヌに流石の国王も苦笑いをする。
「あんな人が義姉になるなんて私嫌だもの」
そういいながらジョセフィーヌは次の焼き菓子に手を伸ばす。
――国王は更に首を傾げた。
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