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四章.転生聖女と冒険者ミハイル
掃除の時間です!
しおりを挟むハイドランジアの貴族院は古くから続く古参の家格の貴族達と、大商人や国外の貴族等が爵位を買って成リ上がった新興貴族、そして何らかの功績を上げて王家より爵位を賜った貴族等、様々な貴族達から構成されている。
彼らは高い識見と権威を備えた第三者として、王家の治世を支える土台である王国民の王政に対する苦情を受け付け、貴族院議会を開き中立的な立場から様々な問題に焦点を当てその原因を究明して是正措置を王家に対して勧告する権利を認められている。
ただこういったオンブズマン制度的な中にも序列の様なものが勝手に生まれてしまうのは、大きな組織になればなるほどあり得る事であり、その中で権力を得て自身の財力を得ようとしようとする者や、王家に自身の縁故を作る事により俗に言う『うまい汁を吸う』仕組みを画策しようとするものが蔓延るものであるのだが・・・・
××××××××××
「では、今回のアレクシス第一王子殿下の婚約者はエリーナ・グラン公爵令嬢で決定ということでよろしいですかな」
「しかし、貴族院としては婚約者候補筆頭はティーダー侯爵のご息女であって・・・」
「他の婚約者候補の面子がありますしなあ・・・」
朝から議会は大揉めである。
貴族院の決めたアレクシスの婚約者はティリア・ティーダー侯爵令嬢であると主張するのは新興と古参の貴族達である。
ティーダー侯爵家は良くも悪くも今まで王家との繋がりの在り方は臣下でしかなく、王太子妃や王子妃などはは排出しておらず過去に降嫁もない家である。
また有能ではあるが新興貴族の穏健派として知られており一見優柔不断に見えるため、色んな意味で他の貴族家から侮られているのが実情だ。
もしティリアが王太子妃になれば貴族側からの意見は王政に反映させられやすいだろうという憶測が成り立つため出来れば王太子妃として推したいところである。
ところがエリーナ・グラン公爵令嬢は王家の外戚であり、元々国王派である。また公爵家という高い身分では、貴族院の意見は蔑ろにされやすいのではないかと懸念を抱かれる要素が多い為議会が反発の姿勢見せているのだ。
但し、王家に忠実な一部の貴族議員達はこの間の茶会の王家の意思表示を受け入れる方向で認めようとしている。
古参の貴族議員達は、自分たちの決定を反故にされるのが気に食わないという理由もあり議会は難航の様相を呈している。
大揉めの議会が昼を迎える直前、モース宰相の入室の先触れがあり、お互いに渋面を笑顔の後ろに隠して入室を促す議員達。
入って来た白髪混じりの栗色の髪にシャープな体型の宰相は、その場の全員の顔をその眼鏡の奥の鋭い目つきをニンマリ細めながら
「本日付で、ティーダー侯爵令嬢は筆頭婚約者候補の座を解任とし、トリステス帝国皇太子カイル・トリステス第一王子の婚約者とする。これはトリステス帝国からの正式な申入れであり、ハイドランジア国王陛下の命である」
と手に持った書類を読み上げると側に控える文官に渡した。
ザワザワと落ち着きなく議員たちがささやき始めるが、それを横目に次の書類を読み上げるモース宰相。
「次に、宮廷魔導師マーロウ・シンフォニア魔法伯爵に対するわいせつ行為及び性的虐待を主とする貴族達の処罰を行うものとし、この書状に記されたものを全員、騎士団及び魔法騎士団での取り調べ対象として連行する。これは貴族院に属する者も当然対象である」
この書状も側に控える文官に渡すと、驚き固まっている貴族院議員たちの元に書類を持って行き震える代表者に手渡した。
手渡された書類にはシンフォニア魔法伯爵に対する所業の数々とそれを犯した者達の名前が記されていた。
「又茶会にて、アレクシス第一王子に対して魅了及び性的官能を引き出す為の違法薬物混入の香水を使用した婚約者候補の家族は取り調べを受ける事とする。これは捕縛では無く事情聴取であり、処罰の対象とはならないが、厳重注意とする」
次々と読み上げていく宰相の眼鏡が窓から差し込む日差しにキラリと光る。
「次に」
まだあるんかい! という顔をする貴族院議員達。
「シンシア・ハイドランジア第ニ王女殿下付きの侍女及びメイドによる、精神迫害及び違法薬物付与に対する実行犯の捕縛及び事情聴取を各貴族家に行うものとする。こちらに記載の貴族家は全てが終わるまで謹慎処分とする」
又もや文官に書類を手渡される貴族院議員達はもはや顔面蒼白である。
彼らの中にも、王家から暇を出された侍女見習いの子女達が大勢いる為だ。
「次に・・・」
更に今まで王家に対して不遜な態度、横領をしていた者、不正をしていた者等の罪状が次々とモース宰相によって挙げられていく。
「全て王家の影及び間諜により罪状は明らかにされている。記されている貴族家、及び貴族当人が貴族院議員に名を連ねている場合はこの場で捕縛、及び事情聴取とする」
宰相が片手を挙げると白い騎士服の近衛達が大勢入って来る。
「以上を持って、本日の議会は終了とする」
宰相の厳しい声に、貴族院議員達は頭を垂れるだけであった。
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