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終章.承認の儀とハッピーエンド

平和への感謝

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 招待客達はハイドランジアのフリージア城へと移動するためにもう一度大転移門へと向かい始める。このまま城で各国代表と王家の交流会にて、アレクシス第一王子とエリーナ嬢の婚約の発表があるらしい。

 これにより、アレクシス第一王子が立太子する事が確定し、正式に王太子となる。

 おめでた続きのハイドランジア王国である。

 ・・・・ついでに終わらしとこう~! 的な魂胆が丸見えだ。


 まあ、いいんだけど。


「ミリーとミゲルは神殿の周りに集まっている人に顔見せするからコッチだからね。あー、やっと終わったわ」

「ジジイ、転移門に魔力流さなくていいのか? 」

「ああ、あれ? 別に行かなくても流してあるからいいわよ。あんた達の神聖力を補充したから当分へっちゃらだわよ」

「「・・・天に返してねーじゃん・・・」」

「神殿と聖堂の維持のための魔力は、聖堂の結界石にメルがいっぱいにしてくれてるからそっちも心配無いし」

「「「・・・・はぁ」」」

「普段はアタシが減ったら満杯にしとくんだけどね。今日はアンタ達ので補っといたから一年は持つわねぇ」

「・・・・・」

 ホッホッホッと肩をゆらしながら愉しそうにする大神官を見ながら複雑な面持ちになる二人と一匹である。


××××××××××


 神殿の入り口にあたる門の上には見晴台が設置されており、内側から登る事ができるように階段が備え付けられている。

 普段は誰でも神殿内に祈りを捧げられるように開け放たれているが、今日に限っては式典に参加する各国の要人の安全のために固く閉じられている。

 平素の神殿があまり威圧感を感じないのは、貴族も平民も気軽に訪れて神殿の外庭のそこここに人影があるからなのだと今更ながら気がついた。


「人がいないと、神殿もちょっとした要塞みたいに感じますね」


 階段を登りながらボソリと呟くミリアにお爺ちゃんが答えた。


「実際、要塞なのよ。神殿をぐるりと囲む壁もかなりの高さでしょ? そして上に人が行き来出来るくらいのスペースがあって、ここで敵を迎え撃つ事が出来るように作られてるのよ」

「え」

「いざとなればフリージア城と神殿とで王都の住人すべてを保護する様に作られてるのよ。今は平和だけど、昔はハイドランジアは周りすべての国が敵だった時代があったからね」


 ああ、そうか。そうだった。

 そういえばアークライド侯爵領の神殿もマナーハウスも外壁が高く門が強固に作られていた気がする・・・


「まあ、物見櫓みたいな使われ方をしなくても良いようになったのは聖女や聖王がこの国に産まれるようになってからだからね。王家の側室制度だって、王族の拉致が多かった頃の名残なのよ」

「今はいい時代なんですね」

「そうね」


 階段を登り切ると、正面に低めの柵がされている。


「防音の魔法陣を解くわよ」

「「?」」


 お爺ちゃんがそういった途端大勢の人の声が押し寄せるように一気に聞こえてきた。

 柵に近寄ると眼下に大勢の都民が押し寄せており、こっちに手を振っているのが見える。

「うわっこんなに人が・・・」

「ここんとこ転移門での移動だったし、防音の魔法陣のおかげで気が付かなかったでしょうけど朝から凄かったのよ」


 大人も子供も関係なく笑顔で皆がこっちに向かって手を振っているのが見える。

 等間隔に爽やかな薄い空色の騎士服を着た男性たちがチラホラ見える。街の警邏を専門にする第三騎士団のようだ。


「アンタ達二人がお目当てだからね。手を振り返してあげなさい」


 ミリアとミゲルは頷くともう一歩前に進み出て手を上げると人が波のように一斉に動いて頭を下げる。


「二人一緒に聖なる祈りをするんじゃ。それでこの式典そのものが終了するからのう」


 後ろの階段から神官達がやってきた気配で早速口調が元に戻るお爺ちゃんに、二人が笑いを堪える。


「「すごい早業! 」」

「百年もやったらなれるわい」


 フンッと鼻を鳴らす聖王様。


「ホレ、はようせんかい」

「「分かった」」

 ミリアはロッドをミゲルは剣を手に持つと床を『トン』と打ち鳴らす。

 ミリアたちの足元にメルヘンが大聖堂で見せたような光の帯が人々の方に向かい四方八方に走っていく。

 まるで金色のカーペットが皆の足元に転がっていくようにも見えるし、金色の道が現れるようにも見える。

 金の帯から煌めく光が立ち登り人々を包んでいく。空から金の雪が降り始め、小さな鈴のような音があちこちに舞う雪から聞こえ始める。

『おお~ 』とか『凄い』とか様々な声が聞こえ始め皆が手を伸ばして金色の雪を触ると手の中でそれが消えるのを見入っている。

「今日からミリアもミゲルもそしてメルもこのハイドランジアの聖なる家族の一員じゃな」


 お爺ちゃんの楽しそうな笑いが空に響く。


「そうだな」


 ミリアの肩に手を置きグッと力を入れるミゲルを見上げると蕩けるようなラピスラズリの瞳がこちらに向けられていた。

 何気に色っぽいその顔を真正面から視界に入れた途端。

『ボヒュッ!』

 という音が聞こえそうなほど顔が猛スピードで赤くなってゆく・・・


 あれ? 明日からどうなるんだっけ・・・

 聖女と聖王って基本的に神殿に住むんだったよね?

 同じ姓になって、家族って。

 あれ? あれ? あれえ?


 ミリアの戸惑いを他所に金の雪が王都に優しく降り続くのであった・・・


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お読み頂きありがとうございます!

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