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三章.転生聖女と春の庭
移転先は・・・
しおりを挟むメルが転移先に選んだのは何故か宰相の執務室。
「お嬢様~! 心配しました~! 」
青い顔をした有能な侍女マーサが飛びついてきた。
宰相の執務室に招かれていたアークライド侯爵当主ウィリアムに、ミリアが双子の王子に拉致? された旨を報告しにマーサが訪れていたからだ。
「「あれ、何でモース宰相のところに来ちゃったんだろ? 」」
慌てた双子はキョロキョロと周りを見廻す。
突然執務室の真ん中に現れたミリア達に驚いて、机に向かっていた文官達が持っていた資料やペンを取り落としてちょっとばかし騒ぎになった。
父はクツクツと肩を揺らして笑っていたが、モース宰相は王子たち二人の首根っこを押さえてつかまえると、引きつった笑顔で
「王妃様の元に届けて参りますので、少々お待ち下さい」
と、文官を一人連れて出て行ってしまった。
「ミリー、バイバーイ! 」
「また遊ぼうね~! 」
平気な顔で文官と宰相に荷物の様に担がれたままで、王子達は笑顔で去っていってしまった。
多分いつもの事なのだろう・・・
ミリアが担がれていく王子達に笑顔で手を振ると、なぜか周りの文官達の耳が赤くなったのを本人が全く気付かないのはお約束である・・・
××××××××××
「殿下たちと何処に行ってたのか教えてくれるかい? 」
柔らかい笑みで問うウィリアムに
「夏の庭ですわ、お父様」
ニコリと笑うミリアンヌ。
「お二人共男の子ですもの。女性のお着替え遊びが途中で退屈になったのですわ」
「そう、それで君を連れて行っちゃったの? 」
「ええ、お魚や虫の方が魅力的だったのでしょうね。お二人共それは見事な転移をお使いになられましたの」
ん? という顔をする侯爵閣下。
「じゃあ、ここには殿下達に連れられて来たのかい? 」
「いいえ? マーサが心配するからと、メルちゃんがここに跳ばしてくれたようですの」
目が点になるマーサ。
「メルってミゲル殿下の猫の? メル? 」
「はい。そうですね。今はミゲル様に申し付けられて私の警護をしてくれています。今も何処かで見ているはずですわ。隠蔽魔法を使っているので見えませんけども」
クスクスと笑う愛娘の肩をウィリアムはそっと抱いて
「そう。ミリアを守ってくれているのなら僕からもお礼を云わないといけないね」
「そのうち機会があればきっと姿を見せてくれると思います。殿下が王都を離れている間は密かに私の警護をするようにと申し付けられていて姿を見せないのだそうですわ」
楽しそうな娘の顔を見て、安堵するのはウィリアムだけではなくマーサも同様であった。
「ところで、その衣装はどうしたの? お姫様か花嫁みたいだね」
登城したときとは全く違う衣装に身を包んだミリアをちょっと離れて上から下まで見廻す侯爵。
「王妃様の御用はコレだったようです・・・」
父に見せるように両手を広げるミリアンヌ。
「何だかお衣装を間に合わせるように縫製班が頑張って徹夜してくれたらしいのですが・・・」
「ですが? 」
「何だか申し訳なくて・・・」
それを聞いてぷっと笑う侯爵。
「きっと君が申し訳ないと思っている事以上に素晴らしいものを皆貰ってるから大丈夫さ」
首を傾げるミリアンヌである。
××××××××××
モース宰相が帰ってきて、もう一度後宮に行くことになり、父のエスコートで送ってもらう。
後宮の入り口に沢山の女官が頭を下げて待っていた。
「ご案内いたします」
年重の女官が声をかけてきたので
「宜しくお願いします」
と返し、ゾロゾロと廊下を進んでいく。
何故か全員が耳が赤くなって目が泳いでいるのに気がついた。
「あの、皆様、何か? 」
気になって年重の女官に声をかけると、
「ご令嬢がお衣装を着ているところを是非見たいと申しますので、不躾ながら皆でお迎えにあがりました。ご気分を害されたようでしたら申し訳ありません」
ん? 何故見たい?
「あ、ひょっとして縫製をされている方達でしょうか? 」
女官は畏まった様子で頷いた。
「素晴らしいものをありがとうございます」
後ろに続いていた女官の列に向かって丁寧にお辞儀をすると
「勿体無い御言葉で御座います」
と、全員に恭しくお辞儀を返されてちょっとばかし引き攣り笑いになったミリアンヌであった。
その後無事、王妃の私室にたどり着くと件の三人に大喜びで出迎えられて抱きつかれ、お茶を飲んだあと無事に開放されたのである・・・
××××××××××
「はぁ~ん、可愛かったわねぇ」
「そうですわねぇ。もう生きてるお人形と言っても差し支え無いですわ~! どう? ミリアちゃんを見た縫製班の様子は? 」
「ご令嬢のお姿を拝見させて頂いた上に御礼まで頂きまして、縫製班がますますやる気が出ましたと勇み足になっております」
年重の王妃様付きの侍女頭がにっこりと笑顔になる。
「そうよね~、早くお嫁に来てくれないかしらあ~ 」
「ミゲルのネジを巻かなくちゃ駄目ですわよお母様」
「そうね~。でもお茶会でもベタベタだったしねえ。あの子のあーんな顔初めて見たわ~ まあ、絶対逃さないでしょうねぇ」
ニンマリ笑顔のお妃様に女官長が
「次のお洋服もデザインさせて頂きます」
とお辞儀をする。
「赤い魔石も手に入りそうですし、楽しみですわね~ 」
「エリーは赤も似合うと思うわ~ 頑張って魔石の加工して頂戴ね」
オホホと笑いながら優雅に扇で仰ぐ王妃に向かい、両手をグッと握り拳にするシンシア王女。
「勿論ですわ。ワタクシ、不要になった魔石の加工をライフワークにするつもりですのよ! 」
ミリアンヌに山程の箱入りの衣装を持たせて馬車溜まりで見送り、エリーナを『春の庭』に強引に送り出すと、のんびりと王妃と王女はお茶を楽しむのであった。
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