108 / 189
三章.転生聖女と春の庭
踊る●●に
しおりを挟むクルリクルリ。
ホールに流れる三拍子を刻むワルツに合わせて優雅にステップを踏みながらターンし、腰をしっかりホールドした大きな手に安心して体重を預けながら、前世は周りを見回せばこの色が大多数だった筈の黒い髪色をじっと見上げる。
「ぼんやりしてる。どうした? 」
不思議そうにラピスラズリの瞳が瞬く。
「前世日本人としては見慣れた髪の色なんだなぁって思って見てましたミゲル様を。今は周り見ても少ないんですけど・・・ 」
「ほお。まあ確かに少ないなあ。でもアレだ。以前だってパツキンとか茶髪とかオレンジやらピンク色やら若い奴らがしてただろ? 数だけ考えりゃ逆転しただけだ」
「はあ。なるほど年寄はどっちにしろ真っ白ですし・・・」
「それか、残りはハゲだ」
「うっ・・・」
「お前は女だからそう簡単にハゲねえから安心しろ」
「はぁ、まあ。確かに」
じっと顔を見上げ、
「ミゲル様は生まれ変わりの性別が逆転しててがっかりしませんでしたか? 」
天井を見上げちょっとだけ考える、黒髪のイケメン。
『おお、喉仏が・・・』
再び視線を戻され
「何で顔が赤いんだ? お前」
「え? いえ・・・」
コホンと咳払いをする。
喉仏がセクシーとか思っていない! 絶対ない! と頭を横に振る。
「まあ、いい。男だったって事より『ミゲル』だった事の方に驚いたからそれどころじゃなかったよ。最初目が覚めた時に鏡を見て驚きで腰が抜けたくらいだ。夢を見てるんじゃないかとずっと疑ってた。次は呪いかな? って思ってたよ」
「呪い? 」
「そうだ」
曲に合わせてクルリとターンした。
「死んだろ。お前が・・・ 」
「? 」
「たかがゲーム作る為に部下が死んじまったんだ。それも俺が一番気にかけてた奴がさ。ホンのちょっと海外に出向してる間にさ。出発して半年だぞ、俺がどんだけ落ち込んだか知らんだろ」
「うっ・・・」
「まあ、狸爺共が俺が帰った途端責任を押し付けて来やがってその対応で忙しくて墓参りにすら行けなくてな。気がついたら酒の飲み過ぎでポックリ逝ったみたいだな」
「急性アルコール中毒ですか? 」
「多分。覚えてねえ」
「私は心不全ですかねえ。死ぬ直前は心臓が痛かったですから」
「パソコンの前で倒れてたらしい」
「あ、やっぱり」
曲が終わり、互いにお辞儀をし合うが離れずそのまま手を繋いだまま話に夢中で三曲目に突入・・・ 体が勝手に動くのは流石王族とスポーツオタク・・・いいのか?
「でな、呪いならそれはそれでいいやってさ。ミゲルとしての経験の方がこの体は長いわけだろ? 前世をチョット思い出しただけだって開き直ってこの世界で生きてやるって決心して、自分なりに出来る事をしようと思って動いてるうちに森でお前に会ったんだ。だから俺にとっては呪じゃなくて祝福だったのかなって」
「祝福ですか」
「うん。死んだお前を追っかけさせてくれてありがとうって感謝した」
「・・・前向きですねぇええぇ」
曲に合わせて唐突に体がフワリと浮いた。ミゲルがミリアンヌをリフトしたからだ。
「俺は死んでもお前を追っかけてきたストーカーだぞ。怖くねえのか? 」
口の端がツイッと上がり、その美貌が妖艶に歪む。
「もう、我慢しないし、離さんぞ。性別とか年齢とか関係ない。ただの執着かもしれん」
ふわりとホールの床に降ろされると、抱き締められた。
「俺にとっては執着も恋も見分けなんぞつかん。すまんが諦めてくれ」
「えええぇとぉ。あ~ はい? 」
ニヤリと笑うミゲルに耳まで赤くなって返事をした侯爵令嬢ミリアンヌ。
「ヨシ。言質獲ったからな。覚悟しとけ」
「ひょえッ? 」
なんですと? 覚悟とは?
「中身が男の記憶あるンですよ良いんですか? 気持ち悪くないですか? 」
「阿呆、俺だって女の記憶があるぞ。まあ、今は性別に関しては男で違和感は無いがな。どーせお前もそうだろうなって思ってるぞ」
「・・・何でですか」
又曲に乗りステップを踏む二人。
「精神年齢っていう奴は放っといたら十五歳位で止まるんだとさ。何の精神的修行もしないとな。同様に、身の回りの環境や肉体に引っ張られて感情や思考も同じレベルに引き上げられたり引下げられたりするらしい」
「へえぇー」
「考えてみろ俺は十八と三十が一緒になっちまったら、四十八歳で、兄上より歳上だぞ」
「陛下より歳上ですか・・・」
一瞬目が点になるミリアンヌ。
いや、それはちょっと無理。
陛下は魔物の群れに突っ込んでいかないだろうし演習場も破壊しない、と思いたい・・・
「それとな、十五年間自分の身体に逆らって女を否定してきたか? 」
「え、いえ。そう言えばそれは無いですね。否定してたのは王子と結婚は嫌ってのと、取り巻きと恋愛は無理! ってだけですね。後は皇国の王子も入ってたかなあ~ 」
「ほうほう」
「魔王もダメって・・・あれ? 」
「俺は? 王弟は裏ルートでも攻略対象だろう? 」
今更ながらハッとする。
「・・・入れてませんでした」
ニシシといたずらっ子のように笑う王弟殿下。
「ゲームの強制力なんぞ俺は信じとらんが、人生において本人の意志力は関係すると俺は思ってる。お前は最初から俺だけは否定してなかったんだな」
「・・・・・」
「そこの隙間に滑り込んだ俺を褒めてくれ。いや、神様かな? 」
「えええぇ~・・・ 」
複雑な顔のミリアンヌであった。
----------------------
お読み頂きありがとうございます。
12
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる