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三章.転生聖女と春の庭
王子善戦する
しおりを挟む王家主催の婚約者選定茶会二日目。
我らがヒロイン侯爵令嬢ミリアンヌも、彼女に近寄ろうと試みる令息達に向かって目線の瞬殺ビームをにこやかに放つ王弟殿下ミゲルも欠席であり、長期間の催しものだと気の抜てしまう中間日でもある。
「ねえ、アレク大丈夫? 」
第一王子アレクシス殿下に心配そうな声をかけるのは彼のはとこでもあるエリーナ公爵令嬢である。
「うん。大丈夫、と言いたいところなんだけど・・・」
はあぁとため息をつくハニーブロンドも艷やかな美貌の王子。
「昨日の伯爵家のご令嬢があまりにもまあ、アレでしたので・・・」
大変言いにくそうに視線が泳ぐクロード。
ここは王家の控室。
彼女は親戚なのでここにいるのは通常運転である・・・
お茶会の開場時間前の打ち合わせだが、もう既に意気消沈気味のアレク第一王子。
「エリーナ、クロード、もう香水はコリゴリだよ」
そう。アレクシス王子は昨日一緒にお茶をした伯爵令嬢の、全身にこれでもかと振りかけられたであろう香水の匂いで胸ヤケを起こしながらも死ぬ気で彼女とのダンスをこなした後、早々に引き上げてしまったのだ。
「最近の女性の香水って流行りがアレなのか? 俺は無理だぞ。あんな獣臭い匂い・・・あんな匂いが連チャンとか来たら間違いなく死ねる」
絶望的な表情のアレクシス。
「最近の流行りは麝香らしいです」
しれっと口にするクロード。
「なんでも相手を魅了する香りとかいうのが専門店の売り文句らしく、貴族女性の間で密かに流行しているらしいですね」
「はあ? あんな臭くて魅了!? 無理だろ? 尻尾巻いて逃げるぞ誰だって!? 」
目を剥いて怒りながら、クロードに詰め寄るアレク王子と両手を上げるクロード。
「ちょっと殿下、私に言われても。専門店の売り文句ですよ! 」
エリーナが両手をポンと鳴らして
「あ、ムスクって、高齢の貴族女性ターゲットで男性機能不全になったご主人に嗅がせたら性的に良いっていうアレの事? 」
「「え? 」」
「なんか、動物の●丸で作るらしいわよ。一度だけ嗅いだことあるけど気分悪くて吐き気がしたわよ。材料もねえ~ ちょっと嫌よね睾●とか・・・ よっぽどアレクの婚約者になりたいのかしらね? 」
「「・・・」」
アレクとクロードはつかみ合いの状態のままで凍り付き動けなくなった・・・
××××××××××
「で、君は王家に嫁ぐとして、王国民に対する義務とか責任はどう考えるかを教えてくれるかな? 」
王妃の薔薇園のティーテーブルの向こう側に座る麗しの王子がにっこりと微笑む。
そのすぐ後ろにブルーグレイの巻毛と同じ色の瞳をした背の高い侍従が立っている。
美少女と見まごうばかりの美貌の持ち主マーロウ・シンフォニア伯爵令息である。
もう少し離れた位置、マーロウの斜め後ろにいるのは深緑の髪と銀縁眼鏡を掛けた怜悧な印象を与える貴族服を着たクロード・モース公爵令息だ。
三人並ぶと周りの豪華な薔薇も相まって、まるでキラキラ美少年ハーレムにでも迷い込んだ気分になる。
「そそそ、それは・・・」
三人をまともに目に入れてしまい顔を真っ赤にして目が泳ぐご令嬢をよそに王子に耳打ちをするマーロウ。
「めちゃくちゃ臭いよ。どうするアレク全身から漂ってる・・・」
「ヨシ、ダンスが終わるまでこのまま維持してくれ。頼むよマーロウ」
「了解」
王子の足元に緑色の魔法陣が浮かぶが、テーブルクロスが邪魔をしてご令嬢からは全く見えない位置だ。
マーロウが風の防御魔法で匂いがアレクに届かないよう二重がけにする。
「下心有り、受け答え不可、作法並、と・・・」
離れた位置で立っているクロードが書類の隅にペンでチェック要項に印を素知らぬ顔で入れている。
こうして恙無く粛々と滞りは全く無く、婚約者選定作業は着々と進むのであった。笑。
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