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三章.転生聖女と春の庭
最終日の幕開け
しおりを挟む茶会二日目の昨日は伯爵家と侯爵家のご令嬢達と会話を交わし、内容の乏しい会話に頭を悩ませつつダンス中には異様な程抱きつかれ辟易とし、終了後、私室で服をソファーに置いてしまった為に染み付いた香水の生々しい臭いで頭痛を起こすという散々な一日だった。
最終日の今日は昨日の精神的な疲れが残っているのか、いささかゲンナリした目覚めを迎えたアレク王子である。
「今日でお終い・・・良かった。なあ、クロード。女性ってあんなモンなのか? 」
「王子、もうちょい頑張ってください。笑顔が足りません。こう言っては失礼ですが、昨日の候補者は、有力候補と言えどもレベルは下の方々でした」
「え、そうなの? 」
「はい。初日と最終日にお会いする方が重要で、後は正直数合わせですね」
クロード、相変わらずの辛辣さである。
「貴族同士の面子があって、候補を一定人数揃えなければいけないんですよ」
「メンドクサイ・・・」
「まあ、そんなもんですよ」
クロードに宥められながら着替えを済ませ、最終日となった王妃の薔薇園に歩を進めるアレクシス第一王子。
今日の午後の最初のお相手は双子だと聞いている。
彼女達の名前はジゼル・フォーンサイト伯爵令嬢とアデリア・フォーンサイト伯爵令嬢。
一卵性の双子だ。
この二人はアレクシスよりも八歳年下の七歳である。
伯爵位の筆頭であり王国創立以来の古い格式の家柄であるフォーンサイト家としては、王家を支えてきた古い一族として婚約者候補としては幼さの残るこの二人を推挙せざるを得ない立場である。
まあ、ぶっちゃけ十歳くらいの年の差婚など当たり前の世界なので、確かに範疇ではある。
「「アレクシス第一王子殿下、初めまして」」
幼いながら美しいカーテシーを披露する彼女たちを見て、妹がいたらこんな感じかな? と思わずニコニコしてしまうアレク王子である。
「はじめまして、君達は本当によく似ているね。周りの人達は見分けが付くのかい? 」
「いいえ。私達を見分けられるのは、お母様だけで御座います」
「皆、リボンのお色で見分けておりますの」
二人は揃って頭の上に小さく花飾りの付いたリボンを触る。
ゆったりと波打つ金色の髪の毛に、知的な光を湛える深い森のような緑の瞳。
きっと大きくなったら貴族子息が振り返らざるを得ないくらい美人になるんだろうな、と一人で納得するアレクシス。
「ピンクのリボンの私がジゼルですわ殿下」
「ブルーのリボンの私がアデリアですわ殿下」
とても可愛い笑顔で答えてくれる彼女たちは、勧められるままに仲良く椅子に座る仕草もそっくりである。
「ねえ、君たちは、僕と結婚したいって思ってる? 」
いきなり核心を突いた質問をするな! と叫び出しそうなクロードに向けて右手を上げるアレクシス。
「「正直にお答えしてもよろしいでしょうか殿下? 」」
同時に答える、天使達。
「うん。何を言っても咎めないから、率直な意見を聞かせてくれる? 」
「「わかりました。殿下」」
ジゼルが首を傾げ
「正直申しますと、伯爵家という家格では第一王子の後ろ盾としては弱いと云うのが私の意見です」
クロードが、王子の後ろで目を見開く。
続いてアデリアが
「私は、我が家は古いだけの伯爵家で御座います故、領地等の経営が些か心もとのうございます。経済的支援が第一王子というお立場に私共ではそぐわないと考察いたします」
アレクシスとクロードが同時に口を手で塞ぐ。
「けして王子殿下が、嫌なわけではございません。寧ろお姿やお言葉からとてもお優しい素敵な殿方だと感じておりますの」
「そうですわね。乙女といたしましては、とても素敵な殿方だと思い憧れますわ」
二人は顔を同時にピンク色に染め、アレクシスの顔を見上げる。
「「こんなにも素敵な王子様にお会い出来る事を私共、とても喜んでおりますの」」
キター! 斜め下から見上げる角度は四十五度・・・
『俺はロ●コンじゃない! 』
と心で何度も復唱する、アレクシス第一王子と側近クロードである。
××××××××××
恙無く時間が過ぎていく茶会に訪れたのはトリステス帝国の第一皇子カイル・トリステスと、第一皇女ロザリア・トリステスの二人である。
『春の庭』の薔薇のアーチ前に並び、招待状を差し出し会場に入る。
後ろには護衛の白髪の騎士と茶髪をキッチリ結い上げた緑の侍女服を着込んだ家庭教師風の女性が続く。
「流石は魔法王国とでも言うのかな。見えない護衛が山程居ますね」
白髪の騎士が呟いた。
要所要所に白い騎士服を着た近衛騎士が立っているが、壁や生け込み、花壇に沿って魔法騎士や王宮魔道士が立っているらしい。
「目で見える参加者の倍は会場に居ますね~ 人口密度が凄いです。魔道具の眼鏡をかけてる」
「何だ? 魔道具とは」
「多分俺みたいに魔眼を魔法で再現してるんだと思います。隠蔽魔法で見えてないはずなのに、お互いに手話で合図を送ってます。多分俺たちが入ってきたんで、確認してるんじゃないかな? 」
「恐ろしいほどの警戒態勢だな」
白髪の騎士ディーンが肩を竦め
「殿下に何かあったら国際問題ですからね。まあ、適切な判断だとは思いますよ」
「ねえ、じゃあどこに行っても見られてるってこと? 」
「ほぼそういう事でしょうね。悪い事企まないでくださいよ姫君」
その言葉に頬をぷくっと膨らませ
「何にもしないわよ。どうせ今回の事で三年間甘味の禁止決定だから今日は、お菓子を食べまくってやるんだからね」
「・・・食べ尽くすなよ」
早速ウェルカムドリンクコーナーのソーダとケーキに突撃していく妹を見て、カイル皇子がジト目になったのは仕方ないだろう。
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