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ニ章.転生聖女と転生聖王

腹に思うても・・・

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 クスクス笑うマーロウを見て、何か空恐ろしさを感じて背筋に冷や汗が流れるクロード。


「まあ、平和が一番だと思うならやめといたほうがいいよ。僕は、あの子に借りが出来たから何かあったらあの子の味方をすると思うけどね」

「それは・・・」

「王宮でさあ今回の王女の事以外にも気分の悪いことは多々あったさ。この顔のせいでね。だからそんな奴らは消えちゃって欲しいって僕は思ってるよ。でも高慢ちきな高位貴族の中でも珍しく純粋無垢な、あの子が王子の婚約者になったばかりに非難されたり辛い目に合わされたりさあ、そんな目に会うのは僕は嫌だな。かわいそうじゃないか」


 一瞬。

 冷たく凍てつく様なブルーグレイの瞳が、まるで飛びかかる隙を探す飢えた狼の様に見えて思わずぶるりと震える自分の腕を掌でギュッと押さえたクロードであった。



××××××××××



 ブルーグレイの緩い捲毛を靡かせながら教室へと優雅に去っていく魔道士の後ろ姿を見送りながら、彼の胸中を思い今後の事を考えるクロード。

 彼としては、先程のマーロウの会話の内容から感じ取った王宮内の腐敗や不正、そして性的な虐待等、色々な問題を解決する必要性を感じた。

 だとしてもそれは今の国王陛下や父である宰相の仕事であって自分は彼らに進言する以外、手立てが無い。勿論この事は持ち帰り父に早急に相談しなければいけない案件だと理解しているし、それを実行するつもりでもある。

 ただ、今はアレク王子の婚約者を早めに決定する事が最優先事項だ、と頭の中で自分に言い聞かせると踵を返して生徒会室へと戻る。


 国を背負う第一王子が手には決して入らないご令嬢に執着し過ぎると、そこに隙が出来て他国から揚げ足を取られかねない。

 それだけではなく婚期を逃す高位の貴族が増え、アレクの治世の時は何とかなったとしても、その次の世代は国が傾きかねない。先に事を考えると頭が痛くなる・・・

 クロードとしては自分の主人はアレクシス第一王子であって、その婚約者が誰であろうと関係なく決まれば従うだけである。


 幼馴染として考えればアレクが初めて恋をした女性と結ばれるのは喜ばしくもあるのだろうが、ミリアンヌがアレクの婚約者、ひいては王子妃になるというのはあまり現実的ではないように思える。

 なので今回巻き込まれたとはいえ、ミリアンヌ侯爵令嬢に何らかの形で接触したであろうマーロウの意見を聞いてみたかったのだ。


 蓋を開けたらそれ以上にとんでもないモノが飛び出して来た感はあるが・・・


 条件的にもそうだが、王族、ましてや次期王太子が周りの賛同が得られない婚約を結ぶのは、結果としては幸せにはなれないだろう。

 マーロウは、アレクシスの治世で彼を支える次の王宮魔道士長になる。

 これはほぼ決定事項だ。

 その重要な立場の人物が反対している女性と王子の婚姻は国を背負う立場の者としてアレクは諦めざるを得ないだろう。


 どちらかというと先刻のアレはアレクシスの方が釣り合わないと反対されてるんだろうな、と頭を振るかぶりをふるクロード。


 国を背負うのだ。どんな些細な事であったとしても未来に影を落とすような事体は避けたい。


 学園在学中、せめて卒業迄に現時点での婚約者候補の中から何としてでも伴侶を決めてもらわねば。


 いざとなれば同盟国から姫君を引っ張って来てでも決めてもらう。


 どんなにアレク本人が望もうが騒ごうがミリアンヌ嬢だけはあり得ない。


「あの、脳天気を何とかしなくては・・・」


 アレクの、アークライド侯爵令嬢を思い出しては呆けている顔を思い出し、固く決心する次期宰相候補であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



腹に思うても、口にはださぬこと。
突飛な考えは実行にうすさむこと。

ウィリアム・シェイクスピア~ハムレットより


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