31 / 189
一章.聖女と出会いと王宮と
三●●トリオ参上!
しおりを挟む少しばかり時間は遡る。
大ホールに続く廊下を小声で喋りながら歩く三人の少年達。
「陛下も王妃様も駄目だって言うのか? 」
「ああ。それどころか宰相も反対してる」
「そりゃあそうでしょう。バランスが悪すぎますからね」
銀縁眼鏡をクイッと上げながら榛色の目を呆れたように細める知的な風貌の少年。宰相の息子のクロードである。
「何のだ? 」
首を傾げながらクロードを振り返る赤毛の大柄な少年。騎士団長の息子ハリー。
「経済的なバランスですよ」
肩をすくめながら答えるクロード。
「侯爵家の経済力のことだろう? それは解っている」
ハニーブロンドに王家特有のラピスラズリの瞳の少年がため息をつきながら答える。
「だが、あの姿に素晴らしい口上。美しいキレのある所作・・・」
思い出してうっとりとするアレク王子である。
「そんなに可愛かったのかよ」
ガハハと笑うハリー。
「可愛いなんてものじゃない、あれは正しく『妖精姫』だよ。本当に美しくて、心臓が止まるかと思ったんだ。オレだけじゃなくて、その場にいた全員がそう思ったさ。何でオレじゃなくて叔父上なのか、って悔しかった」
「なんでそこで、ミゲル殿下なんだ? 」
ハリーがんん?という顔で天井を見上げる。
「わからんが、ミリアンヌ嬢と叔父上が仲がいいらしい・・・」
困惑気味の顔をする王子。
「そりゃあ、お前じゃ敵わんだろ。ミゲル殿下は、『剣聖』の称号を持つ英雄だぞ」
「俺だって、叔父上の剣の腕が国一番ってのは知ってるけどさ」
「いえ、ミゲル殿下は学識も素晴らしい方ですよ。実際アレクが生まれなかったら次期国王として立太子しても不思議じゃない神童って言われてたんですからね」
「へ~。そうなのか」
「そうなんです僕らと四歳しか違わないとは思えないですよ」
「俺、四年後に剣聖とか、無理だ・・・」
ガックリと肩を落とすハリーの肩を叩くアレクとクロード。
「所詮あの人とは、出来が違う」
「叔父上がライバルとか無理だ~ 」
「まあ、色々と諦めたほうがいいんじゃないですかね? 」
「「お前冷たいぞ」」
「僕は目の前の現実を冷静に判断して言ってるだけです」
肩を竦める仕草をして、
「まあ、噂の侯爵令嬢を見てみるくらいはしてみたいですけどね」
「だよな」
「お前らだって見たら、目が離せなくなるってば! 俺の気持ちを思い知れ! 」
「「ハイハイ」」
「はあ~・・・可愛かったな~ 」
「重症だ」
「同感ですね」
ホールのドア近くの角を曲がると、白いドレスの裾がヒラリと翻ったのが見え、女性が侍従に抱え上げられ運ばれているのがチラリと見えた。
「おい、あれ。あの侍従」
「ん? あれ? マーロウじゃねえか? 」
「確かに似てますが、何で侍従の服着てるんですかね」
三人は、同時に魔道士長の息子の顔を思い浮かべる。
「あいつ、最近姉上にベッタリで学園に来てなかったんだよな」
「シンシア様にですか? 」
「そうなんだよ」
「そうだとしても宮廷魔道士の制服じゃないのはおかしくないか? 」
小声で柱の影から様子を伺う三人組。
侍従の肩口の辺りに見えた髪色がストロベリーブロンドに見えた。
「あの女性ミリアンヌ嬢だぞ」
「「え? 」」
「間違いない。あんな髪の色、他に居ないはずだから」
王子が真顔になる。
「どういう事? え? 倒れたのアークライド侯爵知ってんのかな? 」
「知ってたら一緒にいるんじゃないか」
「「「・・・」」」
眼鏡の奥の榛色の目が険しくなるクロード。
「マーロウの様子がおかしいです・・・追いかけましょう。王子は陛下に知らせてください、ハリーは僕と一緒に・・・」
王子が柱の影から出ようとする。
「俺も行く! 」
その頭を平手で迷わずしばくクロードと、頭を押さえて不満げな顔で振り返るアレク王子。
お互いに馴れているようだ・・・
「いや、駄目でしょ。ハリーとにかくアレ追っかけて」
顎で侍従が消えた方角を指すクロード。
「お、おう」
赤毛の大きな少年が慌てて見えなくなった侍従姿のマーロウを追う。
「殿下、アンタお世継ぎなんですから危険な真似しちゃ駄目なんですってば! 」
ハリーを更に追いかけようとするアレクの首根っこをひっ掴み、ホールの扉に引きずって行くクロードの額には青筋が立っていたのであった・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読み頂きありがとうございます!
13
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる