上 下
92 / 115
〈Another Story〉story of duke and wife

32 た~まや~ッ!!

しおりを挟む
 「くっそぉ、お嬢に知らせる暇がねえぞ」


 ヴァルティーノ王国の軍服を着た公爵家の諜報員が、隣にいた同僚に向かって小声で愚痴をこぼした。


 「こんなに大勢が国境目指して動くなんて考えてなかったからな」


 彼らはワイアット・ボーフォートの見張り役だが仲間と交代し、情報を得るためにヴァルティーノ兵に紛れて国境近くの廃教会に向かっていた。

 しかし街道沿いを移動していたアンドリュー達とヴァルティーノ兵が鉢合わせをしてしまい、突然戦闘が始まってしまったのである。


 「アンドリュー殿下がこのままだとやべえぞ。何とか逃がす方法は・・・」


 飛び交う矢はもうどちら側の物なのかも分からない状態だ。

 不幸中の幸いなのはヴァルティーノ側の兵士達が一般兵ばかりで銃を持っていなかった事と、指揮官もいないので弓矢の応酬にしかなっていない事である。

 アンドリュー達の小隊は王子を中心にタワーシールドで四方を囲み弓矢を防ぎながら応戦しているが、どう考えても数が違いすぎる。


 「あと2時間もしない内にボーフォートがこっちまで来ちまうぜ。あいつの周りの士官達は銃火器持ちだからな」

 「こいつら、ただ闇雲に矢を射って足止めしてるだけだから・・・ って、なんだアレ?」

 「ん? え?」


 木の上に身を潜めていた同僚の声で、慌てて振り返るともう少しで着く予定だった教会の尖塔が崩れていくのが目に入った。


 「な、何で崩れてるんだよ?」


 突然轟音と共に崩れていく建物に驚いて、その場の全員が戦闘中に関わらず、呆然とそちらを向いた。

 もうもうと土煙を上げ、尖塔の鐘が『カラーン』という間抜けな音をさせながら崩れていく教会。

 続いて『ドカーンッ』という爆発音がし、更にヴァルティーノの兵が固まっている辺りで


 『うわあぁぁあ』『敵襲ーッ』『後方より敵襲ッ』『ドカーンッ』『ひえええぇ』


 という叫び声がして、爆発音と共に地面でが弾けた。


 「おい、確かこの兵士達火器は持ってなかったよな、って、花火?!」

 「ああ。でもアバルティーダの国境方面から近づいてくる兵とか見えねーぞ・・・って、うわ、何だありゃ、やべぇ木に掴まれッ!!」


 覗いていた細い望遠鏡を放り出し、辛うじて木の幹に二人が掻き付いた次の瞬間、


 『ドッカーーーーーンッッ!!』


 高い木の根本に黒くて丸い爆薬が当たり、した・・・



×××



 「何よアレ、何で花火ッーーー?」

 「何でもいいんだよ脅かすのが目的だからッ!! ヒャッハーーーッ! 花火だと煙幕になるから都合もいいだろッ♡」


 栗毛の馬の鐙に足をかけて、膝で胴を挟み込み操りながら、手に持ったスリングショットに次の得物を引っ掛けると思い切り遠くへ飛ばすヒューイ。

 敵兵の前方の地面で又もや花火が弾ける。

 花火は普通の爆薬と違い、何度も色が変わりながら火花を散らして煙を上げて物凄いスピードで視界を悪くしていく。

 慌てて逃げるヴァルティーノ兵に向けて


 「そうそう、サッサと逃げていけッ」


 とゲラゲラ笑う爆弾魔皇太子

 ヒューイと同じようにオフィーリアも膝立ちになり片手で手綱を握り、もう片手には真っ赤なロングウィップを握ると


 「いい案だわッ! 突っ込むわよッ」

 「おうッ!」


 胸ポケットから又もや小さな黒い玉を取り出すヒューイは、再びスリングショットを敵兵に向けて構えたのである。



×××



 「一体何が?」


 離れているとはいえ、周りを取り囲まれて旗色の悪かったアンドリュー王子達は突然の地面で弾ける打ち上げ花火に呆然としていたが、真っ直ぐこちらに向かってくる馬の足音に気が付いた。


 「アンディーッ! 無事なのッ?!」

 「え? リア?」


 何故か愛しい婚約者の幻聴まで聞こえてきたせいで、アンドリューは思わず耳を疑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。 双子の兄も父親の騎士団に所属した。 そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。 男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。 けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。 「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」 「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」 父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。 すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。 ※暴力的描写もたまに出ます。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

処理中です...