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36 残念令嬢赤面する。

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 内覧した店舗は一階が店舗で二階が住居スペースになっているのは今のアルフィーの自宅兼店舗と作りは大体同じだったが、格段に広かった。

 店舗、住居スペース共に家具などは一切無くガランとした空間が広がっているが、縦長の窓から明るい日差しが降り注いでいる。

 以前は貴族向けの服飾店だったらしく汚れなど無いに等しく、優良物件だとアルフィーはニンマリ笑っていた。


 「保証人はウチの父と公爵様だから」

 「え? お父様?」

 「そ。ウチの店のスポンサーでもあるの」


 不動産屋に帰って仮契約書にサインをしながら、アルフィーがウィンクをした。


 「いつの間に・・・ 」

 「こういう商売は色々と面倒事が多いから、後ろ盾は強いほうがいいのよ~」



×××



 帰りの馬車の中で、向かい側に座るアルフィーは書類入れを膝の上に置き、


 「今回の出店は王都の中心部の店舗にしてくれって公爵夫人に念を押されてるんだよ」


 そう言って肩を竦める。


 「お母様が・・・」

 「それと俺の自宅もこっちになるんだ」

 「え、何で?」

 「リリーが学生じゃなくなって、学生街の近くじゃなくて良くなったからさ。18歳になって社交も始まれば、お前だって王宮に出入りしなくちゃいけなくなるだろ? だから近くに拠点を移してくれってさ」


 ――お母様ってもしかすると過保護が半端無いんじゃ・・・


 「拠点って・・・ でも前の場所は?」

 「俺の代わりに今のチーフが住むんだよ。店も彼に任せる予定だ。今だってカフェは任せて出て来てるだろ?」


 二人が一緒に出歩く時にいつも店を任せる、穏やかな雰囲気の青年を思い出すリリー。

 あそこは独身男性の一人住まいなら十分な広さがある。
 実際チェストやテーブルセットや事務机やソファー以外にもアルフィーは結構な量の衣装をクローゼットに保管していたが、十分余裕があった。

 ――新しい移転先の住居部分は部屋が4つに大きなキッチンなんかもあったから家族向きなのかも・・・ 

 と、そこまで考えて。


 「え、アルフィーあんな広いところに一人で住むの?」

 「ん? まあ、最初はそうだね」

 「・・・最初は?」

 「ん~~、そのうち増えるかもね」


 馬車の天井に視線を向けて誤魔化すように咳払いをするアルフィー。


 「・・・・ふうん」

 「何? リリーも住んでみたい? えらくあの店を気に入ってたみたいだから」

 「えッ?」


 慌てるリリーに


 「ふふふ、冗談だよ。まぁどちらにせよ改装と什器の搬入があるからね、住居の引っ越しもすぐじゃないから当分は今のままさ」


 そう言いながら持ち帰る書類の中身を確認する為に視線を手元に移したアルフィーに、リリーは何故かモヤッとする。


 「そうだ、リリー?」


 急に見ていた書類から顔を上げるアルフィー。


 「バタバタで聞きそびれてたんだけど、急にドレスを着て来たのは、何か心境の変化でもあった?」

 「あ。あ~、うん」

 「?」

 「実は、夢を朝方見て。例のあのほら、柳の木の下の・・・ 花の指輪の・・・」

 「・・・」

 「それで、私、あれがアルフィーだったのか確信が無くて、ね、」


 そう言って、モジモジするリリーに


 「ほう?」


 と、若干ムスッとするアルフィー・・・


 「あの子がアルフィーだったらいいなって・・・ 思ってて・・・」

 「お、おう」


 今度は、ちょっと嬉しそうな顔になる。


 「私がお姫様みたいになったら、思い出して・・・ もう一回・・・ くれるかなって・・・」

 「え?」


 真っ赤になって顔を両手で覆ってしまいリリーの最後の言葉が聞こえない。


 「えっと、最後の言葉が聞こえないんだけど」


 馬車の車輪の音も相まって余計に小さい声が聞こえない。


 「だから・・・」

 「だから?」


 パッと顔を上げ睨むリリーの目は潤んで顔は赤くて・・・


 「もう一回、ぷ、プ、プロ、プロポーズしてくれる・・・ かなって・・・」

 「!!・・・・」


 思わず口を両手で押えた美女仕様のアルフィーの顔が真っ赤に染まる。



 と、同時に馬車が止まり。



 アルフィーの自宅カフェに着いたことを公爵家の御者が二人に教えるために、窓を軽く叩いて合図したのである・・・










 はいッ、残念ッ!

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