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28 幼き奏鳴曲2〜リリー
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悩んでいても流れる時に逆らえる筈もなく、どんどんと女性の身体になって行く自分に失望するリリー。
6歳のお茶会の時の第3王子からの侮辱とも取れる言葉と、その時の周りからの嘲笑を彼女の深層意識は忘れおらず寧ろ表面に現れなかったせいで傷は深くなっていく。厄介なことに女の子らしい可愛らしいドレスを着せられる事により増々傷付いていくのだが、その事に周りもそうだが本人すらも気が付かない。
貴族同士のお茶会の席で表立っては口にせずとも同い年の令嬢やその保護者達は『残念』を彼女に投げつけてくる。
――母に似ていれば
――兄と性別が入れ替わっていれば
――もう少し背が低ければ
――もっと色白ならば
リリーは傷だらけだった。
もう誰にも会いたくなかった。
世界は彼女に優しくなかった。
だけど自分の置かれた立場がそれを許してくれなかった。
そして気がつけばもっと厄介なことが訪れていた。
年齢以上に背が高い彼女に向かい、貴族の子息達の妬み混じりの中傷が始まったのだ。
周りの少女達より抜きん出て背が高く子息達と同等、いや、それ以上の逞しさと公爵家の一員として洗練された立ち振舞の彼女は堂々として見えたのだろう。
声には出さなくても『オトコオンナ』と言い始めたのだ。それに気が付いた兄や、アルフィーが全員をシメていったがもう遅かった。
リリーのなけなしのプライドはズタズタだったのである。
それでも――
爵位の高い貴族令嬢の務めとして逃げることは敵わないのだと、彼女は理解していたのだ。リリーは余りにも空気の読める子だったから――
どうしようもない苦しみも悲しみも、口に出さないことで閉じ込めることにした。
傷ついても笑った――貴族だから
泣きたくてもお辞儀をした――令嬢だから
腹が立っても微笑んだ――公爵令嬢だから
家族は気づかない――リリーは完璧に自分を偽って見せたから
そんなある日、突然母が釣り書きを持ってきた。
それがルパート・セイブリアン令息。
誰にでも優しく気遣いの出来る高位の貴族子息として有名だった彼は貴族派の中核を成す侯爵家の嫡男。
政略婚なのだとリリーは納得した。
その頃、彼女は女性としては最低ランクなのだろうと自分で自分を位置づけていた。
望まれる役目を果たすのが、公爵家の女性に生まれてきた意味なのだろう――
リリーは婚約を受け入れた。
×××
初めて会ったルパートは、物語の中の王子様のようだった。
完璧なエスコートに優しい言葉。
リリーをお姫様として扱い甘い言葉で彼女を賛辞した――
彼の態度には、今まで出会ってきた意地悪な子息達のような陰湿な部分は全く無かった。
優しい微笑みと、会う度に渡される小さなブーケ。
誕生日に贈られる負担にならない程度の品のいいアクセサリーや香水、リリーに似合いそうなリボンやレースや宝石箱。
彼は完璧な王子様だった。
欠点といえば、彼自身が他の女友達にも同じくらい気遣いをする人だったという事だけだ。
リリーがそれを学園で知ったときは、何もかもが崩れた気がしたが、ああ、やっぱりと納得もしたのだ。
彼を独り占めする魅力などリリーには無いから――
6歳のお茶会の時の第3王子からの侮辱とも取れる言葉と、その時の周りからの嘲笑を彼女の深層意識は忘れおらず寧ろ表面に現れなかったせいで傷は深くなっていく。厄介なことに女の子らしい可愛らしいドレスを着せられる事により増々傷付いていくのだが、その事に周りもそうだが本人すらも気が付かない。
貴族同士のお茶会の席で表立っては口にせずとも同い年の令嬢やその保護者達は『残念』を彼女に投げつけてくる。
――母に似ていれば
――兄と性別が入れ替わっていれば
――もう少し背が低ければ
――もっと色白ならば
リリーは傷だらけだった。
もう誰にも会いたくなかった。
世界は彼女に優しくなかった。
だけど自分の置かれた立場がそれを許してくれなかった。
そして気がつけばもっと厄介なことが訪れていた。
年齢以上に背が高い彼女に向かい、貴族の子息達の妬み混じりの中傷が始まったのだ。
周りの少女達より抜きん出て背が高く子息達と同等、いや、それ以上の逞しさと公爵家の一員として洗練された立ち振舞の彼女は堂々として見えたのだろう。
声には出さなくても『オトコオンナ』と言い始めたのだ。それに気が付いた兄や、アルフィーが全員をシメていったがもう遅かった。
リリーのなけなしのプライドはズタズタだったのである。
それでも――
爵位の高い貴族令嬢の務めとして逃げることは敵わないのだと、彼女は理解していたのだ。リリーは余りにも空気の読める子だったから――
どうしようもない苦しみも悲しみも、口に出さないことで閉じ込めることにした。
傷ついても笑った――貴族だから
泣きたくてもお辞儀をした――令嬢だから
腹が立っても微笑んだ――公爵令嬢だから
家族は気づかない――リリーは完璧に自分を偽って見せたから
そんなある日、突然母が釣り書きを持ってきた。
それがルパート・セイブリアン令息。
誰にでも優しく気遣いの出来る高位の貴族子息として有名だった彼は貴族派の中核を成す侯爵家の嫡男。
政略婚なのだとリリーは納得した。
その頃、彼女は女性としては最低ランクなのだろうと自分で自分を位置づけていた。
望まれる役目を果たすのが、公爵家の女性に生まれてきた意味なのだろう――
リリーは婚約を受け入れた。
×××
初めて会ったルパートは、物語の中の王子様のようだった。
完璧なエスコートに優しい言葉。
リリーをお姫様として扱い甘い言葉で彼女を賛辞した――
彼の態度には、今まで出会ってきた意地悪な子息達のような陰湿な部分は全く無かった。
優しい微笑みと、会う度に渡される小さなブーケ。
誕生日に贈られる負担にならない程度の品のいいアクセサリーや香水、リリーに似合いそうなリボンやレースや宝石箱。
彼は完璧な王子様だった。
欠点といえば、彼自身が他の女友達にも同じくらい気遣いをする人だったという事だけだ。
リリーがそれを学園で知ったときは、何もかもが崩れた気がしたが、ああ、やっぱりと納得もしたのだ。
彼を独り占めする魅力などリリーには無いから――
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