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17 残念令嬢は注目される。
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「そっか、リリーは覚えてたんだな」
美女の口から漏れたのは、アルフィーの声。
「? 忘れてたと思ってたの?」
思わず、隣に座る彼を振り返るリリー。
「ん、いや。どうかな」
「??」
少しばかり考えるような仕草をした後で、
「多分リリーは全部は覚えて無いよ」
そう言って眉を下げた。
「え?・・・」
キョトンとしたリリーの顔をジッと見た後で
「さ、次の店に行こっか? あと2軒だから」
美女がにこやかに微笑みながら席を立った。
「あ。ああ。うん。じゃ行こうか」
これ以上は聞いて欲しくはなさそうなアルフィーの様子が腑に落ちないまま、つられるようにリリーも立ち上がった。
×××
アルフィーに案内をされたケーキカフェを2件ハシゴし終え、彼の自宅兼カフェに戻ったリリーである。
「ねえ、アルフィー」
「ん?」
「今迄社交の場で注目されるのって嫌だったんだけど・・・」
カフェのカウンター席に座り遠い目をするリリー。
「今日は違った?」
「そうなの。今迄は見られてると思うと緊張しちゃって何ていうか気持ちが悪いっていうか居心地が悪いっていうのかな。そう。嫌だったんだけど、今日は何だか楽しかったのよ・・・」
そう言いながらボンヤリ今日の事を思い出すように視線を宙に彷徨わせる。
「いつもの『リリー・アガスティヤ』じゃなくて『リアム』だったからかも知れないんだけどね。『カッコいい自分を見てっ!』って気分だったの」
手渡されたレモン水の入ったグラスの中の氷をストローでつつくリリー。
「おかしいかな?」
「いや? おかしくないと思うよ。楽しかったんだろ?」
リリーは力強く頷いた。
「何だかね、『なりたかった自分』になれた気がして気持ちが良かったの。不思議だけど。別に私は今迄男装したかったて思ってた訳ではないのよ?」
「それは知ってる」
窓際にあるソファーに座って彼女と同じレモン水を飲んでいたアルフィーが頷いた。
「最初勧めた時、メチャクチャ驚いてたもんな」
「そうなの。そんなの出来ないかもって本気で思ってたもの」
「だろうね。俺だって最初女装とかできっこないって思ったよ。でもさ、女性だけの歌劇団もあれば、男性だけの劇団もこの国にはあるだろう?」
「うん。確かに」
「それなら自分に出来ないってこともないかなって思ったんだ。だから舞台の仕事をやっている友人に話しを聞きに行ったんだ。その時に色々教えて貰ったんだよ」
「へえ~。俳優さん?」
「いや、裏方なんだけどさ劇場のオーナーの息子。舞台で使う衣装とかメイク道具の仕入れを担当してるんだよ。で、役者がどうやって化けてるかを教えて貰ったんだよ」
「で、今がある?」
「そう。突き詰めたらこうなった」
ソファーから立ち上がると、淑女のようにカーテシーをキメるアルフィー。
「スゴイね」
「いや、リリーだって今日一日で男になりきってたじゃないか。まあ、お手本が良すぎて周りの反響が凄かったけど・・・」
道を歩けば振り返る女性達の羨望と妬みの入り混じった視線を投げかけられ続け、カフェに入れば見知らぬ御令嬢に声を掛けられ、根掘り葉掘り身分を聞いてくる貴族の御婦人を思い出す。
背が高く、堂々とした振る舞いをするリリーはどう見ても高位貴族か何処かの王族のお忍びの姿だ。
王弟である父に似ている彼女は、父を知っている貴族達から見れば、王家と縁続きの青年のようにも見えるのかも知れない。
その結果、高位の貴族令嬢らしき女性達の従者や護衛達から声をかけられる羽目になったのだ。
美女の口から漏れたのは、アルフィーの声。
「? 忘れてたと思ってたの?」
思わず、隣に座る彼を振り返るリリー。
「ん、いや。どうかな」
「??」
少しばかり考えるような仕草をした後で、
「多分リリーは全部は覚えて無いよ」
そう言って眉を下げた。
「え?・・・」
キョトンとしたリリーの顔をジッと見た後で
「さ、次の店に行こっか? あと2軒だから」
美女がにこやかに微笑みながら席を立った。
「あ。ああ。うん。じゃ行こうか」
これ以上は聞いて欲しくはなさそうなアルフィーの様子が腑に落ちないまま、つられるようにリリーも立ち上がった。
×××
アルフィーに案内をされたケーキカフェを2件ハシゴし終え、彼の自宅兼カフェに戻ったリリーである。
「ねえ、アルフィー」
「ん?」
「今迄社交の場で注目されるのって嫌だったんだけど・・・」
カフェのカウンター席に座り遠い目をするリリー。
「今日は違った?」
「そうなの。今迄は見られてると思うと緊張しちゃって何ていうか気持ちが悪いっていうか居心地が悪いっていうのかな。そう。嫌だったんだけど、今日は何だか楽しかったのよ・・・」
そう言いながらボンヤリ今日の事を思い出すように視線を宙に彷徨わせる。
「いつもの『リリー・アガスティヤ』じゃなくて『リアム』だったからかも知れないんだけどね。『カッコいい自分を見てっ!』って気分だったの」
手渡されたレモン水の入ったグラスの中の氷をストローでつつくリリー。
「おかしいかな?」
「いや? おかしくないと思うよ。楽しかったんだろ?」
リリーは力強く頷いた。
「何だかね、『なりたかった自分』になれた気がして気持ちが良かったの。不思議だけど。別に私は今迄男装したかったて思ってた訳ではないのよ?」
「それは知ってる」
窓際にあるソファーに座って彼女と同じレモン水を飲んでいたアルフィーが頷いた。
「最初勧めた時、メチャクチャ驚いてたもんな」
「そうなの。そんなの出来ないかもって本気で思ってたもの」
「だろうね。俺だって最初女装とかできっこないって思ったよ。でもさ、女性だけの歌劇団もあれば、男性だけの劇団もこの国にはあるだろう?」
「うん。確かに」
「それなら自分に出来ないってこともないかなって思ったんだ。だから舞台の仕事をやっている友人に話しを聞きに行ったんだ。その時に色々教えて貰ったんだよ」
「へえ~。俳優さん?」
「いや、裏方なんだけどさ劇場のオーナーの息子。舞台で使う衣装とかメイク道具の仕入れを担当してるんだよ。で、役者がどうやって化けてるかを教えて貰ったんだよ」
「で、今がある?」
「そう。突き詰めたらこうなった」
ソファーから立ち上がると、淑女のようにカーテシーをキメるアルフィー。
「スゴイね」
「いや、リリーだって今日一日で男になりきってたじゃないか。まあ、お手本が良すぎて周りの反響が凄かったけど・・・」
道を歩けば振り返る女性達の羨望と妬みの入り混じった視線を投げかけられ続け、カフェに入れば見知らぬ御令嬢に声を掛けられ、根掘り葉掘り身分を聞いてくる貴族の御婦人を思い出す。
背が高く、堂々とした振る舞いをするリリーはどう見ても高位貴族か何処かの王族のお忍びの姿だ。
王弟である父に似ている彼女は、父を知っている貴族達から見れば、王家と縁続きの青年のようにも見えるのかも知れない。
その結果、高位の貴族令嬢らしき女性達の従者や護衛達から声をかけられる羽目になったのだ。
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