上 下
14 / 115

14 閑話 ルパート・セイブリアン侯爵子息

しおりを挟む
 ルパート・セイブリアン侯爵令息。

 フォルセット公爵率いる、俗に言う貴族派と呼ばれる派閥の中核を担う侯爵家の嫡男である。

 見事な黄金の髪に海を思い出させるようなアクアブルーの瞳をしており、少しばかり甘めのマスクはかなり整っていて、舞台役者も裸足で逃げそうな美男子だ。

 この国の王族はどちらかというと顔の造作が地味な傾向がありマジで貴族の中に埋没しそうな彼らより、王子様らしいと学園の女子達に言わしめる程の有名人である。

 【蟻の法則】の一番多い、六割あたりを占める立ち位置の性質の人物だが、美貌を持って生まれた由縁かニコリと笑うと全てがエスカレーター式に進むため、恐らくは打たれ弱い所がある―― 多分挫折に弱いだろう。更には若干騙されやすいのが玉に瑕といった所であろうか―― 特に女性に。


 母の教育が行き届き過ぎたせいか、見境なく女性には親切&マメな人物であり、女性の誘いは全くと言ってよい程断らない優柔不断さがある。

 そのため一部の人間には前述のルミア嬢並みには煙たがられているが、彼女に比べれば概ね平穏な生活を学園でも過ごしていた。


 あくまでも比べれば、であるが。


 まず、間違い無く彼はトラブルメーカーと言っても過言ではないからだ。


 行く先々の女性に向かいあまねく勘違いをさせるほどに甘いのだ。
 そのセリフを聞いた男達は甘すぎて思わず吐き戻しそうになるくらい女性を賛美する。
 そして易々と女性を陥落させるのだ。

 しかも全くの無自覚。

 周りにいる男性陣にとっては災害級の悪だが、侍る女性にとっては天に住まう天使の如くである。


 ・・・しかし本人には全く悪気は無い。


 かなりの天然と言わざるを得ないが、母親が盲目的に猫可愛がりをした結果出来上がったスケコマシ機械マシーンは、その後に別派閥(王族派)の公爵家長女リリー・アガスティヤと婚約を果たす。


 ――コイツならうまいこと公爵令嬢を手玉に取れるだろう。


 まあ、周りの大人の汚さ全開の期待を背負って彼は同い年の婚約者と仲良く過ごすことになった。


 筈だった・・・


 残念ながら周りにいる黒い大人達の期待をまるで裏切るように、婚約者であるリリー・アガスティヤ公爵令嬢一筋! に彼はならなかったのである。

 まあ、ある意味筋金入りのフェミニストであるルパートの事を完全に大人たちが見誤ったせいであって、彼のせいではない。 


 多分・・・


 目につく女性は全て自分の愛の対象。

 敬うべき愛する淑女たちを放り出す事など彼に出来るはずが無かっただけである。

 リリー・アガスティヤ公爵令嬢は将来自分と婚姻する敬うべき相手であり、月イチのデートの時は全力で彼女の控えめで初々しい可愛らしさを褒め称えるし、当然エスコートも完璧である。

 誕生日にはプレゼントは欠かさず贈るし、季節毎の挨拶状も欠かさない。


 しかし。唯それだけである。


 彼女から離れ、他の女性を前にするとたちまち女神の如く敬う言葉が自然と生まれるのである。

 蓋の空いたオルゴールか? と言いたくなるくらいに垂れ流す愛の言葉に様々な誤解が生まれていくが、彼は全く気にしない。(ネジの巻き手を見てみたい)


 女性を愛でる事こそが、彼が生まれてきた目的だから――


 母親という生き物は適当なところで、男児を突き放す事が重要であるという案件の見本である。


 合掌。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。 双子の兄も父親の騎士団に所属した。 そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。 男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。 けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。 「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」 「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」 父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。 すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。 ※暴力的描写もたまに出ます。

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

処理中です...