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16 残念令嬢の王子様

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 二番目以降に生まれた子供は要領がいいと世間一般に言われるがリリーも確かにそうだった。
 器用に兄のやっている事に付いていく子供だったが、同時に三歳違いの兄と自分の容姿の違いや力の違いをリリーは理解していた。

 アガスティヤ公爵家の方針で男女を問わず子供の頃から剣術、馬術、体術、マナー、ダンスあらゆることを叩き込まれたのだが、兄に比べると自分は力も弱く背も低い。その辺りで賢いリリーは自分はどうやら兄とは違うのだということがなんとなく分かっていたが、それを口に出すのは悔しくて堪らなかった。


 今になって思えば年下でしかも性別が違うのだから違いがあるのは不思議でもなんでもないのだが、周りの大人は子供だからと大して気にせずその辺りはなんの説明もしていなかった。

 そもそも大人は子供に対する気遣いは疎かにしがちなものだ。加えてこのアガスティヤ公爵家は大雑把脳筋だった。


 唯一人リリー本人だけがどうして自分が弱いのか納得できず、プライドを傷つけられモヤモヤしていたのである。



 そんなある日剣術の模擬試合で、兄が勝った相手に自分は負けた。

 それがあの第3王子フィルバート。

 従兄弟同士で歳も近い彼はアガスティヤ公爵家に度々お忍びでやって来てはリリー達と遊んでいたのだが、何故か彼女を来る度に追いかけ回した。

 同い年の子供が珍しかったのか、やたらとしつこかったのでとうとう兄のアレクシスが先にキレて、妹に付き纏うなとフィルバートに剣術の試合で決闘を申し込んだのが原因である。

 そしてアレクシスに負けたのが悔しかったのか、フィルバートは何故かリリーに決闘を申し込む。


 マジで本末転倒である。


 何故そうなったのか原因を知らないリリーは困惑しながら彼との模擬試合を了承したが、負けたリリーに向かってフィルバートは『お前は今日から俺の子分だ!』と言い切ったが次の瞬間にアレクシスの鉄拳制裁を受けて気絶した。

 そのままその事は有耶無耶になって良かった? のだが、その時の兄の颯爽とした姿にリリーは見惚れたのである。

 そしてその時自分を庇いながら優しくエスコートをしてくれた兄の友人の事も素敵だと思った。

 その男の子は、小さなリリーに一生懸命お姫様だから負けても大丈夫なのだと教えてくれたのである。

 その辺りでやっと

 『お姫様≒女の子≒リリー』

 の図式が彼女の頭に入った。

 つまり、その事件のお陰? でやっと自分が女の子なのだと理解した。


 アガスティヤ家脳筋一家あるあるである。


 ――男の子はかっこいいな~・・・


 幼い頃から男の子は王子様のような存在なのだとリリーが思ってしまったのは仕方ない。そしてその延長線にいる騎士達や、執事や家令達の身のこなしや態度にも注目するようになった。


 ――残念ながらフィルバートは別枠だ。


 自分もあんな風に大きくなったら恰好良くなりたいという憧れと、自分は女の子だから無理だよね、という諦めの気持ちが入り混じったまま毎日が過ぎて行く。

 その後すぐ6歳になり、王宮でのお茶会に招待された。

 それまではおめかしといえばワンピースが定番だったため、初めて見る本格的な足首丈のフンワリとしたクリーム色のドレスは本当にお姫様になったような気がして、王城に登城した時はドキドキした。

 なのに・・・

 第3王子フィルバートの大失言『残念』の一言で自分は女の子としても失格なのだと思いがけず打ちのめされるという事件が起きる。

 悲しくて、その場で泣く事も出来ずにドレスの裾を掴んで立ち尽くした。

 誰か大人が、彼を嗜めとがめていたがリリーの傷付いた気持ちはどうしようもなかった。


 『リリーは世界一可愛いお姫様だよ』


 パーティー会場から離れた庭園で1年前の男の子が慰めてくれたのを覚えている。


×××


 「アルフィーはいつでも私の王子様だったよね」


 フンワリした金髪に、榛色の優しい瞳。


 いつでも私をお姫様扱いをしてくれて、私の心を救ってくれたのは貴方だったよね――

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