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49 残念令嬢いざ物申す。

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 「ルパート・セイブリアン侯爵令息! 私リリー・アガスティヤは本日この場において貴殿との婚約破棄を宣言する!」

 リリーは背筋を伸ばし凛とした態度でルパートと、その連れであるルミアに向かって大声を上げた。

 優雅に彼らを指差すその顔は、明るすぎる位の笑顔であり、もうこれは言いたくて言いたくて堪らなかったリリーの本音が透けて見える態度と言っても過言ではないだろう。

 しん。と静まり返る会場。

 止まるオーケストラ。

 動きを止める給仕達。


 「リ、リリー? 一体何を・・・」

 「何って、貴方との婚約を破棄するんですわ」

 「え、白紙撤回じゃ・・・」

 「婚約は無かった事として済ますつもりでしたがここまで私と我がアガスティヤ家を馬鹿にされた以上、穏便に済ますつもりなど御座いませんッ」


 腰に片手を当て、優雅に首を傾げると、サラリとした前髪が彼女の額に一本垂れ下がる。

 それが異様なくらい色気を醸し出し、周りの淑女達が・・・ ファンクラブかも知れないが、


 「リリー様素敵」「ああ。本望ですわ」「尊いですわ」「はぁ~~」「しゅきぃ」


 と小声で騒ぎ出す・・・ それを聞いたパートナー達が、


 「ええ~・・・」「いやちょっと待って」「俺負けてる・・・」「おね兄様」←


 と呟いて、ガックリ(一部キラキラ?)する。


 「まず、一つ。御令息とそこの公爵家のご令嬢との不貞関係」


 ウッと詰まるルパートに、首を傾げるルミアは『私共は真実の愛ですのに・・・』とか呟いている。


 「次に、同派閥内の一部が私の身柄を拉致しようと画策。これは犯人も画策した貴族も既に捕えてありますわ。私に害を成して婚約解消撤廃を目論んだという証言もありますわッ!」

 「ええええぇ! なんだって!!」


 流石のルパートも驚いて自分の両親が属している派閥集団を振り返ったが彼らの顔色が何をしたかが物語っていて、呆然とする。
 因みに同じ派閥の筈のルミアは鳩が豆鉄砲を食った様な顔でキョトンとしているが・・・


 「次に同派閥内から選抜した伯爵家子女を外国籍取得までさせ我が家に家庭教師として潜り込ませ、幼い私を洗脳をして著しく自尊心を損ねる様に感情操作したこと」


 ザワザワと周りの貴族達がささやき始め、フォルセット公爵家率いる派閥の貴族達から少しずつ距離を取り始める。


 「政略的な婚約とはいえ、余りにもそちらの派閥は私を蔑ろにし過ぎです。貴方様自身も私以外の女性と同等いえ、それ以上に親しくされておられた事を私自身がこの目で確認おります。また、白紙撤回の為の書類を提出しているにも関わらず派閥出身の官吏がその処理を故意に遅滞させていることも現在判明しております。以上を踏まえ婚約破棄宣言に至りました」


 そう言い切ると、指を差していた右腕をそっと下ろすリリー。


 周りの貴族達が押し黙り沈黙が支配し始める中・・・


 「あー、ゴホン」


 国王陛下のメチャクチャわざとらしい咳払いがこれでもかというくらい静かな空間に響き渡り、その場にいる全員の視線が王族席に座る陛下にサッと集まる。

 リリーはそれを合図のように王族席へと悠々と歩み寄るが、その姿は堂々としていてまるで物語の中の出てくる王子様というより、王様のようだ。

 そして国王の直ぐ側、王妃の玉座の反対側に彼女が立つと両陛下が玉座から立ち上がった。

 両陛下の後ろには王太子、第2王子、第3王子と、リリーの兄アレクシスが共に立っている。


 「先程のリリー・アガスティヤ公爵令嬢の宣言は国王である私が保証するものとする」


 つまり、この場で国王直々にリリーとルパートの婚約が正式に破棄されたという事だ。

 貴族達はザワリと一瞬ざわめいたが、男性達は膝を折り、女性達は最上級のカーテシーで国王に従う意を示したのである。


 「この場の貴族達も知っていようが、我が愚息フィルバートが6歳の披露目の茶会でリリーにむかって『残念』という失言をした事により、10年以上彼女は貴族達から影で『残念令嬢』と揶揄され続けた」


 頭を垂れた状態のまま肩をビクリと動かす者の多い事にリリーは苦笑いをする。

 フィルバート王子は目を泳がせて頭を搔く。


 「それを王家は放置していた。しかし其れはな、その行為自体がこの国の貴族として正しい姿なのかどうかを皆が自ら内省してほしかったからだ」


 国王が姪であるリリーの手を優しく握る。


 「そのせいで彼女に辛い10年間を過ごさせてしまった事は誠に遺憾である。すまなかったな、リリー」

 「いいえ、伯父様」


 貴族達の肩が又動いた。


 「リリーが私を『伯父』と言える立場だという事をお主たちは忘れていたやも知れぬが、リリーは王弟の娘で王位継承権第5位の王族ぞ?」


 貴族達の肩がまた動く。


 「その王族であるリリーを揶揄していた行為をなんと心得えて平気でおこなっていたのか私は非常に興味があるのだが・・・ 誰か教えてくれるかな?」


 国王の問いかけに、小さな声で


『ひぃっ』『うわ』『そうだった・・・』


 という呟きがアチコチから聞こえたのである。


 
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