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「ガンプロ」第9話 拡大作業
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見本として作ってみたのは60㎝のガンダムとザク。これを4倍に拡大することにした。計算上では240㎝のガンダムとザクになるはずだ。学校の印刷室にあるのはA4用紙しか読み取れないタイプの拡大印刷機なので、これを使って4倍にするためには、A3用紙の原版を2回に分けて打ち出さないとならない。そのため、15枚のガンダムのためには30回の拡大作業が必要になった。そして、それらを2枚ずつ組み合わせて型紙にしなければならない。これがまたとっても時間のかかる作業になった。ザクだと32回もの打ち出し作業になる。この作業は生徒に任せるわけにはいかないことなので、休日出勤で私の仕事となった。
印刷室の拡大印刷機には大きなロール紙がセットされている。日頃そんなに多く使用されるものではないが、全判模造紙の幅で拡大印刷が出来る。今回のガンダムとザクのためにはどのくらいの数が必要になるのかわからなかったので、事務職員のMさんにあらかじめ伝えておくことにした。日頃の使用量が大きく跳ね上がるに違いないのだから、知らせないままにはいかない。計算上ではロールがおそらく3本必要になるようだ。私は恐る恐る話を切り出したのだが、Mさんは逆に喜んだような表情になった。
「先生それラッキーだわ。ちょうどですね、今見本のロール紙が入ってるんですよ。今までのと違う紙質で表面がちょっと粗いみたいだけど、試用期間なんでタダで使えるんです。どんどん使ってください。今のうちですよ!」
「ホントに! ちなみにさ、普通はいくらぐらいかかるのこれ?」
「これは、白黒しかできないタイプだから、たしか、インク代と併せて40、50円くらいだと思いますよ」
「50、60枚になるけど……、いいの?」
一枚50円だとすると、3000円以上にもなってしまう。学校祭用に学級で使える予算は、段ボールと接着剤などの代金でもうギリギリのところだった。
「大丈夫。他に使う人あまりいないから」
なんとも、これこそ渡りに船、というよりタイミングが良すぎて、ちょっと怖いくらいだ。
こうして、拡大印刷をすることになったのだが、学校祭のために休日出勤をするのはずいぶんと久しぶりのことだった。ただ、以前はまだ土曜日が半日授業の頃だったので、休日出勤は唯一の休みの日がなくなることになってしまった。学校も週休二日制になった今は、二日休めるからちょっとだけ余裕がある。それに、いままでも部活の指導や他のことで土曜日に出勤することは珍しいことではなかった。こんなことには慣れていた。それに我が家の子供たちは、休日を一緒に行動しなければならない年齢はとうに過ぎてしまっていた。
子供たちが小さいころには、部活動の指導やらテストづくりやら、唯一の休日にも頻繁に出勤しなければならないことで、家族の不満は小さくはなかった。休日が二日になり、部活動の指導も中心にやらなくて済む年齢になってしまったので、やっと家族との時間を過ごすゆとりができた。だが、その時にはもう休日出勤をさほど気にする必要性が少なくなってしまっていたのだ。それは子供のころのあこがれが、大人になって実現可能なころになると、そのあこがれがもうそれほど必要でもなくなっていたり、その気持ち自体が薄れてしまったりしていることに気づくのと似ていた。
結局、休日出勤一日ではすべての展開図を印刷することが出来ず、二日がかりになってしまった。そうやって二日間の休日は拡大作業で消えてしまっても、何とかガンダムとザクの展開図を刷り上げることはできた。休日がなくなってしまったことよりも、少しずつでも準備が整っていくことの充実感のほうが勝っていた。
印刷室の拡大印刷機には大きなロール紙がセットされている。日頃そんなに多く使用されるものではないが、全判模造紙の幅で拡大印刷が出来る。今回のガンダムとザクのためにはどのくらいの数が必要になるのかわからなかったので、事務職員のMさんにあらかじめ伝えておくことにした。日頃の使用量が大きく跳ね上がるに違いないのだから、知らせないままにはいかない。計算上ではロールがおそらく3本必要になるようだ。私は恐る恐る話を切り出したのだが、Mさんは逆に喜んだような表情になった。
「先生それラッキーだわ。ちょうどですね、今見本のロール紙が入ってるんですよ。今までのと違う紙質で表面がちょっと粗いみたいだけど、試用期間なんでタダで使えるんです。どんどん使ってください。今のうちですよ!」
「ホントに! ちなみにさ、普通はいくらぐらいかかるのこれ?」
「これは、白黒しかできないタイプだから、たしか、インク代と併せて40、50円くらいだと思いますよ」
「50、60枚になるけど……、いいの?」
一枚50円だとすると、3000円以上にもなってしまう。学校祭用に学級で使える予算は、段ボールと接着剤などの代金でもうギリギリのところだった。
「大丈夫。他に使う人あまりいないから」
なんとも、これこそ渡りに船、というよりタイミングが良すぎて、ちょっと怖いくらいだ。
こうして、拡大印刷をすることになったのだが、学校祭のために休日出勤をするのはずいぶんと久しぶりのことだった。ただ、以前はまだ土曜日が半日授業の頃だったので、休日出勤は唯一の休みの日がなくなることになってしまった。学校も週休二日制になった今は、二日休めるからちょっとだけ余裕がある。それに、いままでも部活の指導や他のことで土曜日に出勤することは珍しいことではなかった。こんなことには慣れていた。それに我が家の子供たちは、休日を一緒に行動しなければならない年齢はとうに過ぎてしまっていた。
子供たちが小さいころには、部活動の指導やらテストづくりやら、唯一の休日にも頻繁に出勤しなければならないことで、家族の不満は小さくはなかった。休日が二日になり、部活動の指導も中心にやらなくて済む年齢になってしまったので、やっと家族との時間を過ごすゆとりができた。だが、その時にはもう休日出勤をさほど気にする必要性が少なくなってしまっていたのだ。それは子供のころのあこがれが、大人になって実現可能なころになると、そのあこがれがもうそれほど必要でもなくなっていたり、その気持ち自体が薄れてしまったりしていることに気づくのと似ていた。
結局、休日出勤一日ではすべての展開図を印刷することが出来ず、二日がかりになってしまった。そうやって二日間の休日は拡大作業で消えてしまっても、何とかガンダムとザクの展開図を刷り上げることはできた。休日がなくなってしまったことよりも、少しずつでも準備が整っていくことの充実感のほうが勝っていた。
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