魔王でした!

藤白はる

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第一章 再びはじまりました。

11、アウトでしょうか、いいえ。

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 とまぁ、探し始めたが。ないな。
 やっぱり東ではないのか? だが魔物の動きに法則性はあるし、実際魔王をやっていた時、それを利用した経験もある。が、みあたらない。考えをもう一度整理しよう。
 例えばさっき倒したビーストが結界を破壊したと仮定して……いや、ビーストくらいでは二枚目の結界は破壊不可能だ。ゴブリンもしかり。ランクが高くてもっと大型の魔物じゃないと……

 ……大型の魔物?

 ピタリと動きを止めた俺に、前を見ていなかったのかエグさんがぶつかった。「ごめんなさい!」と謝るエグさんの声を遠くで聞く。

 まて、大型の魔物?
 ビーストは中型、スライムは小型に分類される。その中でも大型は本当に大きいとしか言えない魔物にしかつかない分類だ。それが、この結界の中に既に入っているとしたら?

 既に日没は過ぎ、闇が世界を覆っている。

 魔物の力が、一日の中で一番強くなる時間帯。


「マスター?」


 ノアールの声に、ハッと我に返る。
 いや、まずは結界を確認してからだ。偶々壊れていて入ってきたという可能性もあるし。最悪の事態は考えないようにしよう。第一そんな大型が入ってきていたら既に大騒ぎになってる筈だしな!

「マスター。また一人で考えてますね? 私に言いたいことは?」
「俺が町に戻ると叫んだら、全力で飛んでください」
「いいでしょう。その時は私の本気を見せてさしあげます」

 ふふん。という声から鳥胸を張っているであろうノアールの姿が想像できるが、残念ながら俺の肩に乗っているマリンの頭の上にいるという、謎の状況なのでみえませんよノアール様。

「あの、お取込み中、すみません」

 エグさんが躊躇いつつ話しかけてくれた。あ、そういえば突然立ち止まったこと謝ってねぇな。謝ろう。とエグさんの方を振り返れば、エグさんが、何かを見上げていた。

 え? なにを見上げていたかって。そりゃここまで俺が旗(フラグ)を立てて来たんだ。わかるっしょ。わかんべ? あ? わかんないって? そうだよな、俺も理解したくなかったよ!!

「ら、ライルさん。これ、」

 エグさんが茫然と見上げていたもの、町を守る二枚目の結界。

 だが、とてつもなく嬉しいことに、自然的な崩壊で、大きく穴が開いていた。

 町に張られている魔法はよくわからないが、強いものは弾き、弱いものは通す。という謎の柔軟性がある不思議な魔法。
 持続も数百年とあって、長いし、魔力さえ与え続ければ永久的に壊れないものだ。まぁそれだけ高度な魔法でも巨大すぎるものだから、ごくまれに破損個所ができる。今回は偶々自然的に穴が開いて、そこからゴブリンなどの魔物が入ってきたと考えていいだろう。

 嬉しい、めっちゃ嬉しい。これが物理的破壊だったら、さっき頭に過った最悪のパターンが発生だ。全力で町へ戻って対魔物の戦略会議をカロルさんに行ってもらうところだったぞ。
 
 しっかし、この穴の大きさ、結界の核である魔法石にまで影響してるんじゃないか。魔法石というのは水晶よりも貴重品だから替えが無い。が、魔力で修復は可能だ。ってことは穴があいた結界も修復は可能です。

「マスターこれはセーフですか? アウトですか?」
「超絶ラッキーセーフです!」

 「せ、せーふ?」と首を傾げるエグさんとマリンに「結界は自然的に壊れたみたいです」と簡潔に状況を伝えると、二人とも嬉しそうに「よかった!」と笑顔になった。お、笑顔もそっくりでなによりだよ。女の子は笑顔が一番だーねーおっさんとか言うな。

「それでも破損が結構大きいようですが、どうしましょうか?」
「うーん、エグさんは結界魔法は?」
「私攻撃魔法だけが得意でして……」
「お、おぉ、頼りになる。俺も結界魔法は初級ですら未習得なので、ノアールなんかいい手ない?」
「さっさとカロルさんに報告が手っ取り早いかと」
「それは考えた。が、その間にまた魔物が入ってきたら困る。あ、ノアールとマリンがカロルさん達呼んでくるという手はどうだ? その間結界は俺とエグさんでどうにかするよ」

 「それが一番手っ取り早いですね」とノアールが大きくなり、俺の肩の上に乗っていたマリンを嘴で掴んで、背に乗せて「少々お待ちください。死んだら呪いますよ」といって町の方へ飛んでいった。
 
「ノアールさんすごい使い魔ですね。マリンが騒ぐ暇もないなんて……」
「俺もよくあんな凄いのと契約できたなーと思います」

 「んじゃみんなを待つ間に、結界の周りだけでも守り固めちゃいましょう」と言って、自分の無駄に長い安物の杖で崩壊箇所を囲うように、地面に魔法陣を描いていく。

「あ、エグさん周囲の警戒をお願いします。魔法陣書いている時に襲われるとか馬鹿馬鹿しいので」
「了解です! それにしてもライルさんは魔法陣を描けるのですね、すごい」
「……エグさんは描けないんですか?」
「みんな描けないと思いますよ? 魔法は呪文を言えば勝手に魔法陣が出てくれるので覚えている方は少ないかと」

 「お、おぉ、そうですか……そうなんだ」と驚きつつもガリガリ描いていく。土属性の魔法で、魔法陣に触れれば≪アース・ニードル≫が出る寸法になっている。
 しっかし、魔法陣が描けないとかまじかよ。俺が封印されて千年もたっているのに生活水準も、魔法も進化があまりにも進んでいなさすぎじゃないか? あとでノアールに聞こう。ちょっとこれは可笑しい。

 千年もあったら国が一つ二つ滅ぶか、新興国が出来てたって不思議じゃないのに千年前からある八王国制はまだ続いているし、全くもってわからん。

「うっし、これで描き終わりっと。エグさん、魔法陣には触らないでくださいね」
「はい、わかりました!」

 そんなこんなで、エグさんが俺の背後から現れた魔物に右ストレートを喰らわせて一発KOしたり、崩壊箇所に仕掛けていた魔法陣が上手い事発動してくれて魔物が穴だらけになった様子を見物していたリ、エグさんの妹が可愛いんです自慢を聞きながら、結界の崩壊箇所を守ること数十分。
 ノアールの案内でカロルさん率いる、結界修復班が到着した。

 ちなみに魔法陣はカロルさん達が掲げていた魔法による光を見かけて、すぐに消した。いらん詮索は受けたくないしな。エグさんには「黙っていてくれ」と伝えたので、多分黙っていてくれるだろう。

 そうして、結界の崩壊問題は片付いた。かのように思えたが、後始末がまだ残っていた。


 結界内に入り込んだ、上級・中級の魔物の討伐である。

 
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