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18話 決着がつきました
しおりを挟む「試合始めっ!!!」
その声とともに地面に魔法陣が浮かび上がり、あたりに可視化された魔力が漂う。
「これが契約魔術か…」
予め説明されていたが実際に見るとなかなかに幻想的な光景だ。
契約魔術の効果はいたってシンプルで、今回は決闘において決められた事を確実に守らせるというもの。シンプルなだけに効果は絶大で、殺傷能力のある威力の魔法、魔術は撃てないし武器も使えない。もちろん対価を支払わずに逃げることもできない。
そんな事を考えていたら、前からファイアーボールが飛んできた。
「って、うわぁ!」
全く、人が考え事をしている時に、卑怯者め。
決闘中にぼーっとしていた事を棚に上げ内心で悪態をつきつつファイアーボールを避ける。
「随分せっかちなんですね、不意打ちをしなければ勝てませんか?」
「ぬかせ、お前がよそ見をしていたのが悪い」
全くもってその通りですはい。
だがそれを認めてやるのも癪なので返答の代わりにウィリアムに向かって駆け出す。
「くっ!【燃えよ、ファイアーボール】!」
詠唱短かっ!これが魔術と魔法の差か。だが私はミリックさんから教えてもらった魔法使いの弱点その1を思い出す。
その1。
「未熟な魔法使いは手を起点にないと命中率が下がる!!」
「なんだとっ!誰が未熟だ!」
ウィリアムが吠えてるが無視。
ミリックさんによると魔法使いは未熟な者に限らず手を使わないと標準がつけにくいそうだ。そして手で標準を合わせるなら射線はわかりやすい。
もちろん熟練の魔法使いになれば手を使う必要も無くなってくるし、多少なら曲げることもできるそうだ。だが、いくら才能があってもおのれの才に胡座をかき慢心に慢心を重ねたウィリアムがその領域に到達しているわけもない。その結果。
「くっ!当たんねぇ!」
そうして躱しているうちに私はウィリアムの元へたどり着いた。
「くそが!近接戦なら勝てるとでも思ってるのか!」
そう言いながら馬鹿正直な右のストレートを放ってくるウィリアム。稚拙だ。あまりにも稚拙に過ぎる。
「どうせ魔法の才に慢心して接近戦の鍛錬などしてこなかったのでしょう?その結果がこれです」
そして私は放たれた右のストレートを受け流し搦めとる。そのまま勢いを利用し地面に叩きつける。本当はその勢いで関節の一つでも外してやろうかと思ったのだが。
「っ!?がはっ!ふ、【吹き荒れろ、テンペスト】!」
ウィリアムを覆う暴風に吹き飛ばされてしまった。
「ふぅ、そう簡単にはいきませんか」
やはり魔法の才能だけは一人前のようだ。それで人格が破綻していたら世話ないが。
「偉そうに説教しやがって!お前ごとき俺の魔法だけで十分なんだよ」
「なるほど、接近戦では敵わないとみてとっさに言い訳を考えましたか。あさはかですね」
「は!負け惜しみを!俺がこのテンペストを纏っている間はお前は俺に攻撃できねーだろーが」
そして1人で笑い出すバカ。何を言っているんだこいつは。
「それでは貴方も攻撃できないのでは?そして魔力が尽きたところを私が小突いて私の勝ちですね」
「…?な、あっ!」
今更ながら気づいたのか慌ててテンペストを消す。あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になっている。
「とにかく!お前ごとき魔法だけで十分だ!」
「誤魔化しましたね」
「誤魔化したね」
「う、うるさい!」
一緒になってシオルお兄様も茶化す。それにしてもウィリアムはバカで直情的でプライドが無駄に高過ぎるだけで、根はそんなに悪いやつではないのかもしれない。と、ふとそんな事を思った。
「続きをやるぞ!おかげでいい魔法を思いついた」
ん?思いついた、だと…?
「【散れ、ファイアーバレット】!」
「んなぁ!?」
ウィリアムの右手にファイアーボールが現れる。ここまでは普通のファイアーボールと同じだが、ウィリアムが無造作に右手を振るとファイアーボールが弾け、散弾のように飛んできた。
さすがに避けきれない!
「ふむ、さすがに威力が低いか。これ一撃では勝てないな」
その言葉通り、被弾はいくつかしたが服が燃えるだけで致命的な威力はない。だがそれも、何発も続いたらどうなるかわからない。
それにこの世界の魔法は一通り名前だけは覚えたがこんな魔法は存在しなかったのだ。複数のファイアーボールを同時に放つ魔法ならあるが、それは消費魔力も大きい上に扱いも難しい。ファイアーボールを散らし、同じ消費魔力で範囲攻撃を可能にする魔法など私は知らない。本当に知らないだけならいいのだがさっきウィリアムは言ったのだ。思いついた、と。
「兄さんは本当に魔法に関しては天才でね。ごく稀にだけど新しい魔法を思いついたりするんだよ」
相変わらずタイミングばっちしで答えてくれるシオルお兄様。
はぁ、それにしても転生者の私は魔力が少ない低スペックなのに新しい魔法を創り出すなて、とんだチート野郎だ。そしてそのチート野郎は次の魔法を準備していた。
「【散れ、ファイアーバレット】」
「くっ!避けれない!!」
あまりにも広範囲に広がる為に今の私の体のスペックでは発動してから避けるのは至難だ。
ちらりと観客席を見上げる。その視線の先にいるミーナさんは隠してはいるがとても不安そうだ。だが、それでも何も言わないのは私が勝つと信じてくれているのだろう。ならば!
「その期待に応えなくてはなりませんね!」
そう言いながら一息で相手の懐へと潜り込む。
「?!?なんだと!?」
慌てながらも次の魔法の準備をするウィリアム。だが一歩遅い!相手の魔法が発動するよりも早く私は手をウィリアムの心臓のあたりにそっと置く。とてもダメージがあるような威力ではない。
だが。
「何故魔法が発動しない!?」
「魔力コントロールを極めれば色々できるんですよ?師匠の受け売りですけどね」
言葉の途中でドサッ、っと音が聞こえる。ウィリアムが倒れた音だ。
「って、もう聞こえていませんか」
最後に倒れたウィリアムへそう声をかけシオルお兄様の方へ目線を向ける。
シオルお兄様は特に驚いた様子も見せずいつも通りの笑みを浮かべ、私の勝利を宣言する。
全く、喰えない人だ。
「勝者リリィ!」
できれば前世の技術は使いたくなかったんだが…。
何はともあれ決闘は私の勝ちで終わった。そして地面に浮かぶ魔法陣はそれを祝福するかのように空気に溶けていった。
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