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17お風呂に入っても落ちつかない

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 お風呂に入り、寝間着に着替えて私はまた食堂へと向かう。
 お茶いれて、部屋に持っていって。本の続き読もう。
 落ち着かない夜でも、毎晩の習慣は変えられない。
 食堂にはいると、マティアス様がポットを手に立っていた。
 私に気がつくと微笑み、

「お茶、淹れるよ」

 と言い、用意してあるふたつのカップにお茶を注いだ。

「今日は赤い入れ物のでいいのかなと思ったんだけれど、あってる?」

「あ、はい」

 どうやら私が日替わりで順番にお茶を飲んでいることにきがついたらしい。
 たしかに、今日は赤い入れ物のお茶の日だ。

「よくわかりましたね」

「二ヶ月あれば気がつくよ」

 そしてマティアス様は、どうぞ、と言ってカップを私に差し出した。

「ありがとうございます」

「明日の朝食なんだけれど」

 はっ。
 言われるまで忘れていた。
 朝食はユリアンが作る。そのユリアンがいないということは私が作らないとだろうか?
 お、起きられるかな?
 でも私、そんな時間に起きられない。どうしよう。
 変な汗が背中を流れていく。
 あせる私にマティアス様は言った。

「リュシーさんがいらっしゃるそうだよ」

「え、ほんとうですか?」

 マティアス様は頷いて、

「うん、ユリアンが頼んであると言っていたよ」

 と言って、湯気のたつカップを手に取った。
 ユリアンえらい。
 よかった、早起きしなくて済む。
 リュシー、ありがとう。
 本当なら私が朝食の支度をしないとなのに。彼女には甘えてばかりだ。
 ほんと、朝は苦手なんだ。
 どんなに早く寝てもある時間にならないと起きられない。

「エステルさん」

「あ、はい、なんでしょうか?」

「また、遠出できたらいいなって、ユリアンと話していたんだけれど、どうかな」

 マティアス様、こちらのようすをうかがうような感じがするのだけれど、気のせいだろうか?
 ちょっと不思議に感じながら、私は言った。

「遠出、ですか?」

 私はここに来てからお出掛けをあまりしていない。
 というか、公女であるけれど国内に行ったことがない場所が多数ある。
 この町、プレリーもその一つだった。
 せっかく家を離れているのに、自由にお出掛けしないのは勿体ないかな。
 プレリー界隈には観光地がいくつかあるし。

「そうですねぇ、またお出掛けしたいですね」

 私が笑ってそう答えると、マティアス様の表情がぱっと明るくなった。
 なに、その顔。

「じゃあまた、休みがあった日に」

「あの、早めに日にちを決めておけばお休みできますよ。休日はむりですが、マティアス様は平日の一日がお休みですよね。それなら私が事前に休みを申し出れば大丈夫ですよ」

 すると、マティアス様はほっとしたような顔をした。

「よかった、それなら休みを合わせられるね」

 マティアス様はとても嬉しそうだった。
 人が喜ぶ姿を見ると、私も嬉しく思う。
 それならどこにいくか考えないと。

「少し先になってしまいますが、明日神官のアンヌ様に伝えておきます」

「わかった。どこにいくか考えないとね。
 職場で色々勧められたんだけれど、どこがいいのかよくわからなくて」

 なんだかとても和気あいあいとして楽しそうな職場だな。

「全部はむりでしょうけれど、片っ端から行くのもありかと思いますが。別に一日で色々といく必要はないですし、時間はありますから」

「じゃあ、月に一度、皆で出掛ける日を作ってもいいかな?」

 それくらいなら大丈夫だろう。
 私が頷くと、マティアス様はにこっと笑い、

「楽しみだな」

 と呟いた。
 お出掛けかあ。
 正式に神官になったらそうそう出掛けられないだろうし、今のうちにいろんなところへ行くのはいいかもしれない。

「ユリアンとも相談して、次はどこにいくか決めよう」

「そうですね」

 ユリアン、この間出掛けたのが嬉しかったみたいだし。
 そういえばリーズちゃんを誘えたのだろうか?
 その後の話を聞かないから、まだ誘えてないのかなあ。

「言えてよかった」

 そう呟くのが聞こえ、私はマティアス様を見た。彼はカップに口をつけてお茶を飲んでいる。
 気のせいだろうか?
 私の視線にきがついたらしいマティアス様は、微笑みを浮かべて私を見つめた。

「どうかした?」

「いえ、何か聞こえたきがしたのですが……気のせいだったみたいです。私、お部屋に戻ります。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 私はお茶の入ったカップを持ち、彼に背を向けて食堂を出て二階へと上がっていった。
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