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15 本当に現れた
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九月二十八日土曜日。
朝食の後、今日は観光に出ようと思いワンピースに着替えてジャケットを羽織る。それに帽子を被ってショルダーバッグに財布と本を一冊詰めた。今日の本は、普段読まない恋愛ものだ。
アルフォンソ様に言われた付き合う、っていったい何するのかよくわからなくて、私は本を頼ることにした。
恋愛ものの小説に何かヒントがあるかもしれないから。まだ一ページも読めていないけど。
カフェにでも行ったときに読めたらいいなあ。
鏡の前で服装をチェックして、くるり、と一回転する。
よし、問題なし。
部屋を出て、すっかり顔なじみになったスタッフさんと挨拶を交わし、意気揚々と外に出ると、アルフォンソ様がホテルの玄関横で当たり前のように待っていた。
私は彼を見つけ、歩く姿勢のまま固まってしまう。
えーと、これはどういうことなの? なんでアルフォンソ様がいるのよ?
黒の上下のアルフォンソ様は、今着きましたというていで私を見つめてにっこりと笑って言った。
「おはようございます、パトリシア」
「え、あ、あの、おはようございます」
戸惑いつつも私は姿勢を正して彼に頭を下げる。
何でいるのよアルフォンソ様……
そう思いつつ笑顔を作り私は尋ねた。
「こんな朝早くにどうされたのですか、アルフォンソ様」
「貴方に会いにちょうどこちらに着いたところです。今日の予定は?」
まあそうですよね。でもせめて約束をとりつけませんかね。
そう思いつつも、私は笑顔を崩さず答えた。
「今日は、町や周辺の散策に」
ここに来て二週間、実は私、まだ町の観光をちゃんとしていない。
毎日図書館と温泉と本屋に行く日々で、どんどん蔵書が増えている。
私、観光でここに来てるのに。
だから今日は観光をしよう、と思ったんだけど。
……今日の夕方、アルフォンソ様のお宅に招待されてますよね、私。
これってつまり今日は一日中、アルフォンソ様と一緒、てこと?
やだ、背中を変な汗が流れていく。
「ご一緒してもよろしいですか?」
そんな事言われて断れるわけないでしょうに。
私は商人の子、貴方は貴族ですよ? 貴族の申し出を断れるわけがない。
「わかりました。ただあの、夕方からアルフォンソ様のお屋敷にお伺いするわけですよね?」
「そうですね、ならちょうどいいかなと思ったのです」
何がちょうどいいんですか?
さすがに一日歩き回った格好でお伺いする気はないんですけど?
「……私、一度帰ってきて着替えたいんですが……」
遠慮がちにそう私がそう主張すると、アルフォンソ様は頷いて答えた。
「わかりました。その事も考えて観光をしましょう」
どうしても一緒に来たいのかな? どうもアルフォンソ様という人が掴めない。
こういう人、初めてだ。そう思いつつも私は頷いて言った。
「それではお願いいたします」
もう、なるようになーれ。
そしてアルフォンソ様が私に手を差し出してくる。
これは、手を取れってことよね。
私は笑顔のまま差し出された手に自分の手を添える。するとアルフォンソ様は微笑んで言った。
「では参りましょう」
そして私の手をぎゅっと握りしめた。
人と手を繋いで歩くの、初めてだな。ダニエルとは手を繋いだことなかったし、キスもした事ないし。そういうのは結婚してからするものだと思っていたから。
手を繋いで歩くの、なんだか緊張するな。それに、手を繋いでるとどうしてもアルフォンソ様の距離が近い。
香水つけてるのかな。花みたいな、甘い感じの匂いがする。
アルフォンソ様、けっこう顔立ち整ってるよね。性格面はまだよくわかんないけど……
どうして彼女は浮気に走ったんだろうな……
その思いは自分に返ってきてしまう。
……なんでダニエルは浮気したんだろうか。相手が貴族だったからかな。本人は真実の愛に目覚めたとか言っていたけど……
あー、やめよう。心がずん、と重くなってしまうから。
私はアルフォンソ様から視線を外し、辺りを見回した。
休みの日、ということもあり通りを歩く人の姿は多かった。
観光と思われる人たち、呼び込みをする商人たち、楽しそうに談笑するご婦人たちの姿が目に映る。
九月の末、ということもあり吹く風は冷たさをまし、木々の葉の色を変えている。
冬の訪れが近いのね。収穫祭があるって言っていたけれど、それを過ぎたら一気に冬に突入するらしい。
歩きながらアルフォンソ様は口を開いた。
「図書館はもうご存知ですよね。博物館はご覧になりましたか?」
そう問われて私は首を横に振る。
「いいえ、図書館と本屋さんとカフェにしか足を運んでいないんです」
「そうなんですか。パトリシアはほんとうに本がお好きなんですね」
はい、好きです。
特にミステリーが。
「本は現実では経験できないことを疑似体験させてくれますからね」
殺人事件の推理なんて、現実では絶対にできないもの。
というか殺人事件がそうしょっちゅう起きるわけでもないし。
そう考えると推理小説のキャラクターってすごいなぁ。しょっちゅう殺人や盗難事件に巻き込まれるんだもの。羨ましいな……
「疑似体験、とは考えたことなかったです。確かに本は知らない世界を見せてくれますね」
「そうなんですよ。私は推理小説が好きなんですけど、現実にはそうそう殺人事件なんておきないですし、探偵が居合わせるなんてこと、ないですもん」
「殺人事件の現場に呼ばれたことは何回かありすよ」
さらっとアルフォンソ様が言い、私は思わずばっと、彼の方を見る。
きっと今私の目はこれでもかっていうくらい輝いていると思う。
「え? 本当ですか? どういう現場ですか?」
言いながらアルフォンソ様に迫ると、彼は微笑んで言った。
「殺人事件の捜査は俺たち騎士の仕事ではありませんが、貴族が絡むと呼ばれるんですよ。愛人を殺したり、愛人に殺されたり、というのはまれにですがありますし」
「本当ですか? 小説の中みたい!」
やっぱり事件の背後には愛憎があるものなのね。そう思うとときめいてしまう。
「凶器はやはりナイフですか? 毒殺ってあるんですか?」
「そうですねぇ、計画的なものであれば毒殺でしょうか。ナイフとか置物は血が流れますし、そういうものが使われる場面は衝動的な場合が多いですよ」
そうなんだ。貴族は騎士の経験もある人、多いはずだけど血が流れるのは嫌なのかなぁ。いいなぁ、現場に遭遇できるなんて。いやよくはないけど。人、死んでいるし。
ほんとうにそういう現場あるんだなぁ。考えてみたらパーティーで誰が不倫したとかっていう話は耳にしたけれど、殺されたとかっていう話は殆ど聞いたことがない。
まるで箝口令でも出ているかのように。
私が知らないだけなのかもしれないけど。
すごいなぁ、事件って本当にあるんだなぁ。
ひとり感心していると、アルフォンソ様が口もとに手を当てて笑って言った。
「パトリシアが、事件の話にそこまで興味をいだくとは思いませんでした」
「事件なんて小説の中だけの話ですからね。身近では起こりにくい話ですし、そうそうあっても困りますから」
「確かにそうですね。俺も現場に行ったのは数回ですが、現実の事件は小説のようにドラマティックではないですよ」
でしょうね。
そんなことはわかっている。
結局私もパーティーで出会う人たちと一緒なのよね。
退屈な日常に刺激を求めているのかも。だから私、ミステリーが好きなのかな。
なんだか複雑な気持ちになってしまった。
嫌だと思った、パーティーで皆から向けられる奇異の瞳。嫌でも耳に入ってくる噂話たち。私も同じなのよね。
なんだか自己嫌悪。
いいや、忘れよう。だって私、ここに休みに来ているんだもの。
楽しまなくちゃ損だよね。
「それよりアルフォンソ様、私、巨大な岩をくりぬいて造られたという教会を見に行きたいのですが」
「あぁ、岩の教会ネローチェですね。教会に併設された博物館の話はご存知ですか?」
博物館? そんな話あったっけ?
不思議に思いつつ首を傾げて、私は顎に指を当てる。
巨大な岩をくりぬいて作られた教会がある、っていうところしか記憶にないのよね。
「博物館、ですか?」
「えぇ、少し変わった博物館なんですよ。呪いの遺物を集めているんです」
……呪い、ですって?
それってサスペンス小説のよくある設定ですよね。とても心惹かれるんですけど?
きっと今、私は目を輝かせてアルフォンソ様を見ているだろう。
「そんな素敵な展示物があるんですか? 呪いの遺物っていうと、動く人形とか持ち主を不幸にする宝石とか悪夢が詰まった箱とかあるんですか?」
早口で私が言うと、アルフォンソ様は頷き答えた。
「それに近い展示物がありますよ。おばあ様が昔、持ち主が次々と殺されていく宝石を手に入れて、それを教会に寄付したところからそういった遺物を集めるようになったんです」
「なんですかその宝石。そんな宝石があるなんて初めて知りました」
貴族たちの噂話は嫌と言うほど耳にしてきたはずなのに、そんな宝石の話を聞いたのは初めてだ。
呪いかあ、そんなもの本当にあるのだろうか?
物語の中では定番だけど。
「俺が生まれる前の話なので……ずいぶんと古い話ですよ。当時の司祭がその宝石を封印したところからそういった遺物が集まるようになって、いっそのこと展示してしまおう、と思ったそうです」
「なかなか変わった司祭様ですね」
呪いの遺物を展示しようってなかなか変わった発想よね。まあ人は集まるでしょうけど、私みたいな人が。
「ということは呪いの遺物をいろいろと拝見することができる、ということですよね。すごく楽しみです!」
私の声は自然と弾み、心はうきうきとしてくる。
そんな私を見て、アルフォンソ様は柔らかな笑みを浮かべていた。というか、なんだか楽しそうだ。
「では教会と博物館を見学した後、お昼を食べに行きますか?」
と提案をしてくる。
そうね、時間的にはそうなりそうね。異論はないので私は頷き、人の波をかき分けつつ通りを歩いていった。
朝食の後、今日は観光に出ようと思いワンピースに着替えてジャケットを羽織る。それに帽子を被ってショルダーバッグに財布と本を一冊詰めた。今日の本は、普段読まない恋愛ものだ。
アルフォンソ様に言われた付き合う、っていったい何するのかよくわからなくて、私は本を頼ることにした。
恋愛ものの小説に何かヒントがあるかもしれないから。まだ一ページも読めていないけど。
カフェにでも行ったときに読めたらいいなあ。
鏡の前で服装をチェックして、くるり、と一回転する。
よし、問題なし。
部屋を出て、すっかり顔なじみになったスタッフさんと挨拶を交わし、意気揚々と外に出ると、アルフォンソ様がホテルの玄関横で当たり前のように待っていた。
私は彼を見つけ、歩く姿勢のまま固まってしまう。
えーと、これはどういうことなの? なんでアルフォンソ様がいるのよ?
黒の上下のアルフォンソ様は、今着きましたというていで私を見つめてにっこりと笑って言った。
「おはようございます、パトリシア」
「え、あ、あの、おはようございます」
戸惑いつつも私は姿勢を正して彼に頭を下げる。
何でいるのよアルフォンソ様……
そう思いつつ笑顔を作り私は尋ねた。
「こんな朝早くにどうされたのですか、アルフォンソ様」
「貴方に会いにちょうどこちらに着いたところです。今日の予定は?」
まあそうですよね。でもせめて約束をとりつけませんかね。
そう思いつつも、私は笑顔を崩さず答えた。
「今日は、町や周辺の散策に」
ここに来て二週間、実は私、まだ町の観光をちゃんとしていない。
毎日図書館と温泉と本屋に行く日々で、どんどん蔵書が増えている。
私、観光でここに来てるのに。
だから今日は観光をしよう、と思ったんだけど。
……今日の夕方、アルフォンソ様のお宅に招待されてますよね、私。
これってつまり今日は一日中、アルフォンソ様と一緒、てこと?
やだ、背中を変な汗が流れていく。
「ご一緒してもよろしいですか?」
そんな事言われて断れるわけないでしょうに。
私は商人の子、貴方は貴族ですよ? 貴族の申し出を断れるわけがない。
「わかりました。ただあの、夕方からアルフォンソ様のお屋敷にお伺いするわけですよね?」
「そうですね、ならちょうどいいかなと思ったのです」
何がちょうどいいんですか?
さすがに一日歩き回った格好でお伺いする気はないんですけど?
「……私、一度帰ってきて着替えたいんですが……」
遠慮がちにそう私がそう主張すると、アルフォンソ様は頷いて答えた。
「わかりました。その事も考えて観光をしましょう」
どうしても一緒に来たいのかな? どうもアルフォンソ様という人が掴めない。
こういう人、初めてだ。そう思いつつも私は頷いて言った。
「それではお願いいたします」
もう、なるようになーれ。
そしてアルフォンソ様が私に手を差し出してくる。
これは、手を取れってことよね。
私は笑顔のまま差し出された手に自分の手を添える。するとアルフォンソ様は微笑んで言った。
「では参りましょう」
そして私の手をぎゅっと握りしめた。
人と手を繋いで歩くの、初めてだな。ダニエルとは手を繋いだことなかったし、キスもした事ないし。そういうのは結婚してからするものだと思っていたから。
手を繋いで歩くの、なんだか緊張するな。それに、手を繋いでるとどうしてもアルフォンソ様の距離が近い。
香水つけてるのかな。花みたいな、甘い感じの匂いがする。
アルフォンソ様、けっこう顔立ち整ってるよね。性格面はまだよくわかんないけど……
どうして彼女は浮気に走ったんだろうな……
その思いは自分に返ってきてしまう。
……なんでダニエルは浮気したんだろうか。相手が貴族だったからかな。本人は真実の愛に目覚めたとか言っていたけど……
あー、やめよう。心がずん、と重くなってしまうから。
私はアルフォンソ様から視線を外し、辺りを見回した。
休みの日、ということもあり通りを歩く人の姿は多かった。
観光と思われる人たち、呼び込みをする商人たち、楽しそうに談笑するご婦人たちの姿が目に映る。
九月の末、ということもあり吹く風は冷たさをまし、木々の葉の色を変えている。
冬の訪れが近いのね。収穫祭があるって言っていたけれど、それを過ぎたら一気に冬に突入するらしい。
歩きながらアルフォンソ様は口を開いた。
「図書館はもうご存知ですよね。博物館はご覧になりましたか?」
そう問われて私は首を横に振る。
「いいえ、図書館と本屋さんとカフェにしか足を運んでいないんです」
「そうなんですか。パトリシアはほんとうに本がお好きなんですね」
はい、好きです。
特にミステリーが。
「本は現実では経験できないことを疑似体験させてくれますからね」
殺人事件の推理なんて、現実では絶対にできないもの。
というか殺人事件がそうしょっちゅう起きるわけでもないし。
そう考えると推理小説のキャラクターってすごいなぁ。しょっちゅう殺人や盗難事件に巻き込まれるんだもの。羨ましいな……
「疑似体験、とは考えたことなかったです。確かに本は知らない世界を見せてくれますね」
「そうなんですよ。私は推理小説が好きなんですけど、現実にはそうそう殺人事件なんておきないですし、探偵が居合わせるなんてこと、ないですもん」
「殺人事件の現場に呼ばれたことは何回かありすよ」
さらっとアルフォンソ様が言い、私は思わずばっと、彼の方を見る。
きっと今私の目はこれでもかっていうくらい輝いていると思う。
「え? 本当ですか? どういう現場ですか?」
言いながらアルフォンソ様に迫ると、彼は微笑んで言った。
「殺人事件の捜査は俺たち騎士の仕事ではありませんが、貴族が絡むと呼ばれるんですよ。愛人を殺したり、愛人に殺されたり、というのはまれにですがありますし」
「本当ですか? 小説の中みたい!」
やっぱり事件の背後には愛憎があるものなのね。そう思うとときめいてしまう。
「凶器はやはりナイフですか? 毒殺ってあるんですか?」
「そうですねぇ、計画的なものであれば毒殺でしょうか。ナイフとか置物は血が流れますし、そういうものが使われる場面は衝動的な場合が多いですよ」
そうなんだ。貴族は騎士の経験もある人、多いはずだけど血が流れるのは嫌なのかなぁ。いいなぁ、現場に遭遇できるなんて。いやよくはないけど。人、死んでいるし。
ほんとうにそういう現場あるんだなぁ。考えてみたらパーティーで誰が不倫したとかっていう話は耳にしたけれど、殺されたとかっていう話は殆ど聞いたことがない。
まるで箝口令でも出ているかのように。
私が知らないだけなのかもしれないけど。
すごいなぁ、事件って本当にあるんだなぁ。
ひとり感心していると、アルフォンソ様が口もとに手を当てて笑って言った。
「パトリシアが、事件の話にそこまで興味をいだくとは思いませんでした」
「事件なんて小説の中だけの話ですからね。身近では起こりにくい話ですし、そうそうあっても困りますから」
「確かにそうですね。俺も現場に行ったのは数回ですが、現実の事件は小説のようにドラマティックではないですよ」
でしょうね。
そんなことはわかっている。
結局私もパーティーで出会う人たちと一緒なのよね。
退屈な日常に刺激を求めているのかも。だから私、ミステリーが好きなのかな。
なんだか複雑な気持ちになってしまった。
嫌だと思った、パーティーで皆から向けられる奇異の瞳。嫌でも耳に入ってくる噂話たち。私も同じなのよね。
なんだか自己嫌悪。
いいや、忘れよう。だって私、ここに休みに来ているんだもの。
楽しまなくちゃ損だよね。
「それよりアルフォンソ様、私、巨大な岩をくりぬいて造られたという教会を見に行きたいのですが」
「あぁ、岩の教会ネローチェですね。教会に併設された博物館の話はご存知ですか?」
博物館? そんな話あったっけ?
不思議に思いつつ首を傾げて、私は顎に指を当てる。
巨大な岩をくりぬいて作られた教会がある、っていうところしか記憶にないのよね。
「博物館、ですか?」
「えぇ、少し変わった博物館なんですよ。呪いの遺物を集めているんです」
……呪い、ですって?
それってサスペンス小説のよくある設定ですよね。とても心惹かれるんですけど?
きっと今、私は目を輝かせてアルフォンソ様を見ているだろう。
「そんな素敵な展示物があるんですか? 呪いの遺物っていうと、動く人形とか持ち主を不幸にする宝石とか悪夢が詰まった箱とかあるんですか?」
早口で私が言うと、アルフォンソ様は頷き答えた。
「それに近い展示物がありますよ。おばあ様が昔、持ち主が次々と殺されていく宝石を手に入れて、それを教会に寄付したところからそういった遺物を集めるようになったんです」
「なんですかその宝石。そんな宝石があるなんて初めて知りました」
貴族たちの噂話は嫌と言うほど耳にしてきたはずなのに、そんな宝石の話を聞いたのは初めてだ。
呪いかあ、そんなもの本当にあるのだろうか?
物語の中では定番だけど。
「俺が生まれる前の話なので……ずいぶんと古い話ですよ。当時の司祭がその宝石を封印したところからそういった遺物が集まるようになって、いっそのこと展示してしまおう、と思ったそうです」
「なかなか変わった司祭様ですね」
呪いの遺物を展示しようってなかなか変わった発想よね。まあ人は集まるでしょうけど、私みたいな人が。
「ということは呪いの遺物をいろいろと拝見することができる、ということですよね。すごく楽しみです!」
私の声は自然と弾み、心はうきうきとしてくる。
そんな私を見て、アルフォンソ様は柔らかな笑みを浮かべていた。というか、なんだか楽しそうだ。
「では教会と博物館を見学した後、お昼を食べに行きますか?」
と提案をしてくる。
そうね、時間的にはそうなりそうね。異論はないので私は頷き、人の波をかき分けつつ通りを歩いていった。
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