捨てられた者同士、婚約するのはありですか?

あさじなぎ@小説&漫画配信

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7 なんで?

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 翌日から不思議な事が起き始めた。
 アルフォンソ様が午前中、うちに来るようになった。理由はもちろん私に会いにだ。
 何をするわけでもない、ただ一時間ほど話をして帰っていく。
 付き合う、というものがどういうことなのか理解していない私は、相手が伯爵家のご令息、ということもありむげにもできずお相手をしていた。
 話題の中心は、演劇や音楽、本のことだった。

「図書館で働いていたと聞きましたけど」

「あ、はい。そうです。あの……結婚するのでやめたんですよね」

 あはは、と笑いながら言うと、彼の目がすっと細くなる。
 ちょっとその目、怖いんですけど?
 でもすぐに笑顔になり、彼は言った。

「そうだったんですね。それで『猫探偵ルミィシリーズ』はご存知ですか?」

「は、はい、知っています。私も読んでいます」

「人気ですよね。猫が探偵、という設定が珍しくて」

 『猫探偵ルミィシリーズ』は、探偵が飼っている猫と犬が主人公の小説で、今人気があがっている作品だ。
 確か五巻まで出ているはず。

「お読みになられているんですか?」

 内心驚きながら尋ねると、彼はにこっと笑い頷く。

「えぇ。何せ二週間の休みをいただいますからね。先週から今週の終わりまでは休みなんですよ。それで基礎訓練が終われば暇だから毎日本を読んでいて。図書館にも毎日行っているんです」

「基礎訓練……ですか?」

「えぇ、走ったり腕立てをしたり、そういう基礎訓練ですよ。その間は何も考えなくて済むので」

 う……互いになんか触れずらい話あるわよね。当たり前なんだけど。
 どんな顔をしていいのかわからずにいると、彼は笑顔で話を続けた。

「ルミィシリーズは図書館の方のおすすめで読み始めました。貴方もご存知で嬉しいです」

 それは私も嬉しい。共通の話題があるってことだし。
 私は図書館で働いていたくらい本が好きだ。
 子供の頃から絵本や本をたくさん読んできた。物語を書くのは無理だけど、本に囲まれて生きることはできるから私は図書館で働いていたのよね。
 両親には働かなくていい、って言われたけど自分で稼いで自分で本を買いたかったのよね。
 だから学校を卒業してすぐ私は図書館に就職した。一年ちょっとで辞めちゃったけど。今度働くときはどうしようかなぁ。

「パトリシア」

「あ、はい、なんでしょうか?」

「今後はどうする予定なんですか?」

「今後……」

 そんなのちゃんと考えていない。

「そうですねぇ……遊ぶのに飽きたらとりあえずまた働こうかなと。ほら、パーティーに行っても皆、好奇心から噂話ばかりしていて全然いい出会いないですし」

 苦笑して言うと、ピキーン、と空気が張りつめる感じがした。
 な、何今の。
 目を見開いてアルフォンソ様を見るけど、彼は微笑んでこちらを見ている。でも……目は笑っていない。

「そうですね。いい出会いがなかったのならよかったです」

 よかったのかな……? それってどういう意味だろう……
 とりあえず私は苦笑いを浮かべてクッキーをひたすら食べた。
 一時間ほどすればアルフォンソ様が帰る時間になる。
 彼は、応接室にある置時計で時間を確認すると、立ち上がりながら言った。

「では、俺はこれで帰りますね。また明日……」

「あ、あの、アルフォンソ様」

 声をかけると中腰で止まり、彼は私を見つめる。

「なんでしょう?」

「私、明日からしばらくこちらを留守にするんです」

 そう告げると、彼はすっと背を伸ばして首を傾げて言った。

「どちらに行かれるんですか?」

「ルミルア地方の温泉宿に一か月ほど滞在しようかと……ほら、こちらにいても皆私に好奇の目を向けてくるし。パーティーに行くのも疲れたから温泉でゆっくりしようと思って宿を押さえているんです」

 言いながら私も立ち上がる。

「なのでしばらくお会いできなくなります」

「そうなんですか。わかりました。次にお会いできるのを楽しみにしています」

 彼は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。

 
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