7 / 28
7 なんで?
しおりを挟む
翌日から不思議な事が起き始めた。
アルフォンソ様が午前中、うちに来るようになった。理由はもちろん私に会いにだ。
何をするわけでもない、ただ一時間ほど話をして帰っていく。
付き合う、というものがどういうことなのか理解していない私は、相手が伯爵家のご令息、ということもありむげにもできずお相手をしていた。
話題の中心は、演劇や音楽、本のことだった。
「図書館で働いていたと聞きましたけど」
「あ、はい。そうです。あの……結婚するのでやめたんですよね」
あはは、と笑いながら言うと、彼の目がすっと細くなる。
ちょっとその目、怖いんですけど?
でもすぐに笑顔になり、彼は言った。
「そうだったんですね。それで『猫探偵ルミィシリーズ』はご存知ですか?」
「は、はい、知っています。私も読んでいます」
「人気ですよね。猫が探偵、という設定が珍しくて」
『猫探偵ルミィシリーズ』は、探偵が飼っている猫と犬が主人公の小説で、今人気があがっている作品だ。
確か五巻まで出ているはず。
「お読みになられているんですか?」
内心驚きながら尋ねると、彼はにこっと笑い頷く。
「えぇ。何せ二週間の休みをいただいますからね。先週から今週の終わりまでは休みなんですよ。それで基礎訓練が終われば暇だから毎日本を読んでいて。図書館にも毎日行っているんです」
「基礎訓練……ですか?」
「えぇ、走ったり腕立てをしたり、そういう基礎訓練ですよ。その間は何も考えなくて済むので」
う……互いになんか触れずらい話あるわよね。当たり前なんだけど。
どんな顔をしていいのかわからずにいると、彼は笑顔で話を続けた。
「ルミィシリーズは図書館の方のおすすめで読み始めました。貴方もご存知で嬉しいです」
それは私も嬉しい。共通の話題があるってことだし。
私は図書館で働いていたくらい本が好きだ。
子供の頃から絵本や本をたくさん読んできた。物語を書くのは無理だけど、本に囲まれて生きることはできるから私は図書館で働いていたのよね。
両親には働かなくていい、って言われたけど自分で稼いで自分で本を買いたかったのよね。
だから学校を卒業してすぐ私は図書館に就職した。一年ちょっとで辞めちゃったけど。今度働くときはどうしようかなぁ。
「パトリシア」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「今後はどうする予定なんですか?」
「今後……」
そんなのちゃんと考えていない。
「そうですねぇ……遊ぶのに飽きたらとりあえずまた働こうかなと。ほら、パーティーに行っても皆、好奇心から噂話ばかりしていて全然いい出会いないですし」
苦笑して言うと、ピキーン、と空気が張りつめる感じがした。
な、何今の。
目を見開いてアルフォンソ様を見るけど、彼は微笑んでこちらを見ている。でも……目は笑っていない。
「そうですね。いい出会いがなかったのならよかったです」
よかったのかな……? それってどういう意味だろう……
とりあえず私は苦笑いを浮かべてクッキーをひたすら食べた。
一時間ほどすればアルフォンソ様が帰る時間になる。
彼は、応接室にある置時計で時間を確認すると、立ち上がりながら言った。
「では、俺はこれで帰りますね。また明日……」
「あ、あの、アルフォンソ様」
声をかけると中腰で止まり、彼は私を見つめる。
「なんでしょう?」
「私、明日からしばらくこちらを留守にするんです」
そう告げると、彼はすっと背を伸ばして首を傾げて言った。
「どちらに行かれるんですか?」
「ルミルア地方の温泉宿に一か月ほど滞在しようかと……ほら、こちらにいても皆私に好奇の目を向けてくるし。パーティーに行くのも疲れたから温泉でゆっくりしようと思って宿を押さえているんです」
言いながら私も立ち上がる。
「なのでしばらくお会いできなくなります」
「そうなんですか。わかりました。次にお会いできるのを楽しみにしています」
彼は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。
アルフォンソ様が午前中、うちに来るようになった。理由はもちろん私に会いにだ。
何をするわけでもない、ただ一時間ほど話をして帰っていく。
付き合う、というものがどういうことなのか理解していない私は、相手が伯爵家のご令息、ということもありむげにもできずお相手をしていた。
話題の中心は、演劇や音楽、本のことだった。
「図書館で働いていたと聞きましたけど」
「あ、はい。そうです。あの……結婚するのでやめたんですよね」
あはは、と笑いながら言うと、彼の目がすっと細くなる。
ちょっとその目、怖いんですけど?
でもすぐに笑顔になり、彼は言った。
「そうだったんですね。それで『猫探偵ルミィシリーズ』はご存知ですか?」
「は、はい、知っています。私も読んでいます」
「人気ですよね。猫が探偵、という設定が珍しくて」
『猫探偵ルミィシリーズ』は、探偵が飼っている猫と犬が主人公の小説で、今人気があがっている作品だ。
確か五巻まで出ているはず。
「お読みになられているんですか?」
内心驚きながら尋ねると、彼はにこっと笑い頷く。
「えぇ。何せ二週間の休みをいただいますからね。先週から今週の終わりまでは休みなんですよ。それで基礎訓練が終われば暇だから毎日本を読んでいて。図書館にも毎日行っているんです」
「基礎訓練……ですか?」
「えぇ、走ったり腕立てをしたり、そういう基礎訓練ですよ。その間は何も考えなくて済むので」
う……互いになんか触れずらい話あるわよね。当たり前なんだけど。
どんな顔をしていいのかわからずにいると、彼は笑顔で話を続けた。
「ルミィシリーズは図書館の方のおすすめで読み始めました。貴方もご存知で嬉しいです」
それは私も嬉しい。共通の話題があるってことだし。
私は図書館で働いていたくらい本が好きだ。
子供の頃から絵本や本をたくさん読んできた。物語を書くのは無理だけど、本に囲まれて生きることはできるから私は図書館で働いていたのよね。
両親には働かなくていい、って言われたけど自分で稼いで自分で本を買いたかったのよね。
だから学校を卒業してすぐ私は図書館に就職した。一年ちょっとで辞めちゃったけど。今度働くときはどうしようかなぁ。
「パトリシア」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「今後はどうする予定なんですか?」
「今後……」
そんなのちゃんと考えていない。
「そうですねぇ……遊ぶのに飽きたらとりあえずまた働こうかなと。ほら、パーティーに行っても皆、好奇心から噂話ばかりしていて全然いい出会いないですし」
苦笑して言うと、ピキーン、と空気が張りつめる感じがした。
な、何今の。
目を見開いてアルフォンソ様を見るけど、彼は微笑んでこちらを見ている。でも……目は笑っていない。
「そうですね。いい出会いがなかったのならよかったです」
よかったのかな……? それってどういう意味だろう……
とりあえず私は苦笑いを浮かべてクッキーをひたすら食べた。
一時間ほどすればアルフォンソ様が帰る時間になる。
彼は、応接室にある置時計で時間を確認すると、立ち上がりながら言った。
「では、俺はこれで帰りますね。また明日……」
「あ、あの、アルフォンソ様」
声をかけると中腰で止まり、彼は私を見つめる。
「なんでしょう?」
「私、明日からしばらくこちらを留守にするんです」
そう告げると、彼はすっと背を伸ばして首を傾げて言った。
「どちらに行かれるんですか?」
「ルミルア地方の温泉宿に一か月ほど滞在しようかと……ほら、こちらにいても皆私に好奇の目を向けてくるし。パーティーに行くのも疲れたから温泉でゆっくりしようと思って宿を押さえているんです」
言いながら私も立ち上がる。
「なのでしばらくお会いできなくなります」
「そうなんですか。わかりました。次にお会いできるのを楽しみにしています」
彼は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。
130
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です

人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる