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5 確認しなくちゃ
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「いや、でもあの、付き合うってどういうことですか?」
頷いては見たものの、言われたことの意味が分からず私は戸惑いを隠せず尋ねた。
「付き合うって、そのままの意味ですよ。幸い俺たちは互いに婚約者もいませんし、恋人もいないでしょう?」
「そ、そうですけど……」
「結婚前に恋人として付き合うのは、庶民では普通であることはご存じでしょう。うちの騎士団でも多いですよ。恋人がいる者は」
それはもちろん知っている。
私だって庶民だもの。周りではそれなりに恋人を作って付き合っている人たちはいた。私はそういうことなかったけど。
適齢期になって、結婚をどうしようかって話になった時にタイミングがあったから、ダニエルとの結婚の話が進んだのよね。
だから恋人に、とか言われてもなにするのかわかんないしどうしたらいいのかもわからないんだけど?
でもあんなことをしてしまったみたいだし、断るわけにもいかないしなぁ。
あーなんで私、何にも思い出せないんだろう。飲み過ぎたからか……そうか……
あとでクリスティに聞いてみよう。何かわかるかもしれないし。
そう頭の中で決めて、私はひきつった笑いを浮かべながら頷き言った。
「わ、わかりました。つ、付き合いますからあの、そろそろ顔を離してくださいませんか?」
じーっと目の前で見つめられたままはちょっときつい。
私の言葉にアルフォンソ様は、
「わかりました」
と告げてソファーに戻り、クッキーを摘まんで食べた。
「では、よろしくお願いしますね、パトリシア」
そう言って笑うアルフォンソ様の笑顔にひきつった笑いを浮かべながら、私はぬるくなったお茶を口にした。
午後に私はクリスティと会う約束を取り付けて、さっそく手土産を持って訪れた。
通された場所はお庭にある東屋だった。
テーブルに淡いピンク色のテーブルクロスがかけられていて、メイドさんがお茶とお菓子を用意してくれた。
「お土産のケーキ、ありがとう。さっそく用意させたんだけど……急にどうしたの、パティ。昨日も会っているのに」
不思議そうに言い、クリスティは私の向かい側に腰かけた。
そこにメイドがお茶とケーキをさっと置く。
ケーキはチョコレートのケーキだ。それにクッキーもたくさん買って家政婦長に預けた。
「昨日のことで聞きたいことがあるの」
そう言った私の顔はきっと必死なものだったんだろう。
クリスティは驚いた顔をして、ティーカップを手にした。
メイドたちが下がり私たちふたりきりになったのを確認してから、私は彼女に言った。
「昨日、急に帰ってごめんなさい」
そして私は頭を下げた。
「あぁ、昨日のことね。パティ、ずい分と酔っていたようだけれど大丈夫だったの?」
大丈夫じゃない、大丈夫じゃないから聞きたいのよ。
「そうなの、それで聞きたいことがあるんだけど……ねえ私、昨日、アルフォンソ様と話していたと思うんだけど……その後何があったか知ってる……?」
クリスティの様子をうかがいながら私は言った。
すると彼女は小さく首をかしげた。
「あぁ、それね。貴方がずい分とお酒を飲んだみたいで、アルフォンソが介抱していてそれで、部屋を貸してほしい、と言い出したの。侍女に面倒を見させると言ったんだけど、アルフォンソが自分で連れて行く、と言いだして。だから侍女に行って、あいているお部屋に案内させたのよ」
「そ、そうなの……そ、それでアルフォンソ様はそのあと……?」
おそるおそる尋ねると、クリスティはカップを置き、フォークを手にした。
「九時近くでしたかしら。アルフォンソだけが戻ってきて、貴方の事を言われたのよ。帰ったみたいだって言って。なんだか楽しそうに笑っていて。ほら、パーティーの最中はずっと落ち込んでいらしたから心配していたんだけど、ちょっとは気が晴れたのかと思っていたのだけれど、彼と何かありましたの?」
何かあっただろうか。
たぶん何かあったのよ。でもそんなの言えるわけがない。
私は必死に首を横に振った。
「な、何でもないわよ。ただ、気になったから確認したくて……」
「そう、ならいけど。パティ、アルフォンソと話している間、とても楽しそうでしたわよ?」
そう、だったのかな。あんまり思い出せないのよね。ただ、すごく絡んだ、とは思うのよ。
しかも彼とあんなことするなんて私、そうとう酔っていた、ということよね。あー、どうしよう私。
さすがに何があったのかなんて言えないから、私はただ苦笑いをしてケーキを食べるためにフォークを手に持つ。
ケーキ、おいしいなぁ……
頷いては見たものの、言われたことの意味が分からず私は戸惑いを隠せず尋ねた。
「付き合うって、そのままの意味ですよ。幸い俺たちは互いに婚約者もいませんし、恋人もいないでしょう?」
「そ、そうですけど……」
「結婚前に恋人として付き合うのは、庶民では普通であることはご存じでしょう。うちの騎士団でも多いですよ。恋人がいる者は」
それはもちろん知っている。
私だって庶民だもの。周りではそれなりに恋人を作って付き合っている人たちはいた。私はそういうことなかったけど。
適齢期になって、結婚をどうしようかって話になった時にタイミングがあったから、ダニエルとの結婚の話が進んだのよね。
だから恋人に、とか言われてもなにするのかわかんないしどうしたらいいのかもわからないんだけど?
でもあんなことをしてしまったみたいだし、断るわけにもいかないしなぁ。
あーなんで私、何にも思い出せないんだろう。飲み過ぎたからか……そうか……
あとでクリスティに聞いてみよう。何かわかるかもしれないし。
そう頭の中で決めて、私はひきつった笑いを浮かべながら頷き言った。
「わ、わかりました。つ、付き合いますからあの、そろそろ顔を離してくださいませんか?」
じーっと目の前で見つめられたままはちょっときつい。
私の言葉にアルフォンソ様は、
「わかりました」
と告げてソファーに戻り、クッキーを摘まんで食べた。
「では、よろしくお願いしますね、パトリシア」
そう言って笑うアルフォンソ様の笑顔にひきつった笑いを浮かべながら、私はぬるくなったお茶を口にした。
午後に私はクリスティと会う約束を取り付けて、さっそく手土産を持って訪れた。
通された場所はお庭にある東屋だった。
テーブルに淡いピンク色のテーブルクロスがかけられていて、メイドさんがお茶とお菓子を用意してくれた。
「お土産のケーキ、ありがとう。さっそく用意させたんだけど……急にどうしたの、パティ。昨日も会っているのに」
不思議そうに言い、クリスティは私の向かい側に腰かけた。
そこにメイドがお茶とケーキをさっと置く。
ケーキはチョコレートのケーキだ。それにクッキーもたくさん買って家政婦長に預けた。
「昨日のことで聞きたいことがあるの」
そう言った私の顔はきっと必死なものだったんだろう。
クリスティは驚いた顔をして、ティーカップを手にした。
メイドたちが下がり私たちふたりきりになったのを確認してから、私は彼女に言った。
「昨日、急に帰ってごめんなさい」
そして私は頭を下げた。
「あぁ、昨日のことね。パティ、ずい分と酔っていたようだけれど大丈夫だったの?」
大丈夫じゃない、大丈夫じゃないから聞きたいのよ。
「そうなの、それで聞きたいことがあるんだけど……ねえ私、昨日、アルフォンソ様と話していたと思うんだけど……その後何があったか知ってる……?」
クリスティの様子をうかがいながら私は言った。
すると彼女は小さく首をかしげた。
「あぁ、それね。貴方がずい分とお酒を飲んだみたいで、アルフォンソが介抱していてそれで、部屋を貸してほしい、と言い出したの。侍女に面倒を見させると言ったんだけど、アルフォンソが自分で連れて行く、と言いだして。だから侍女に行って、あいているお部屋に案内させたのよ」
「そ、そうなの……そ、それでアルフォンソ様はそのあと……?」
おそるおそる尋ねると、クリスティはカップを置き、フォークを手にした。
「九時近くでしたかしら。アルフォンソだけが戻ってきて、貴方の事を言われたのよ。帰ったみたいだって言って。なんだか楽しそうに笑っていて。ほら、パーティーの最中はずっと落ち込んでいらしたから心配していたんだけど、ちょっとは気が晴れたのかと思っていたのだけれど、彼と何かありましたの?」
何かあっただろうか。
たぶん何かあったのよ。でもそんなの言えるわけがない。
私は必死に首を横に振った。
「な、何でもないわよ。ただ、気になったから確認したくて……」
「そう、ならいけど。パティ、アルフォンソと話している間、とても楽しそうでしたわよ?」
そう、だったのかな。あんまり思い出せないのよね。ただ、すごく絡んだ、とは思うのよ。
しかも彼とあんなことするなんて私、そうとう酔っていた、ということよね。あー、どうしよう私。
さすがに何があったのかなんて言えないから、私はただ苦笑いをしてケーキを食べるためにフォークを手に持つ。
ケーキ、おいしいなぁ……
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