政略結婚の相手が白い狼だなんて聞いてない

あさじなぎ@小説&漫画配信

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9 いろいろと決めなくちゃ

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 狼、もといノエル大公が去った室内で、私はさっきの出来事を考えていた。
 政略結婚の相手が白い狼だなんて……そんなの誰が想像できるだろうか。
 触ったらどんな感じなんだろう。
 ふわふわなのかな、硬いのかな。あー、気になるなぁ。
 ノエル大公の秘密が狼になってしまう程度でよかった。
 じつは愛人がいるとかだったらどうしようって考えちゃったし。
 狼姿でしょんぼりする姿は正直可愛かったな。
 思い出して私はつい吹き出してしまう。
 真っ白な狼で大きくてきれいなのに、すごく縮こまってソファーに座った姿は可愛い以外に表現のしようもない。
 異国に来て不安は色々あるけれど、何とかやっていけるかな。外に出られるのは大きい。
 何で国王は私を閉じ込めていたんだろう。なんて言うか……私を隠そうとしていたような気がする。何かちゃんとした理由、あったのかな。
 今さらだけど、国王ともっと話をしておけばよかったな……


 翌日。
 朝食の後、私は予定がびっしりだった。
 結婚式用のドレスを決めて、宝飾品と靴を決める。

「ウェディングドレスは白でお願いいたします。お色直しにはお好きなお色のドレスにいたしましょう。形はどういたしましょう。Aラインやプリンセスラインが一般的ですが、マーメイドラインが最近の流行ですね。スレンダーラインもよろしいですが……」

 仕立て屋さんが早口で説明してくれるけれど、後半は何が何やらよくわからない。
 だって、ドレスの形なんて気にしたことないんだもの……
 Aラインとプリンセスラインはかろうじてわかったけれど、その後はもうわからな過ぎてぽかん、となってしまった。
 私は訴える様な目でレーナさんとメロディを見つめる。
 助け船を出してくれたのはレーナさんだった。

「Aラインかプリンセスラインがよろしいかと思います。ウェディングドレスとお色直しで形を変えるのもよろしいかと?」

「プリンセスラインはスカートをふんわりと膨らませるものになります。先日のパーティーで殿下が着用されたのがプリンセスラインのドレスですね」

 メロディに説明されてやっとぴん、ときた。

「えーと……じゃあ、ウェディングドレスはプリンセスラインで。色ドレスはえーと、Aラインで、生地は……」

 生地見本、すごい量。
 仕立て屋さんとあーでもない、こーでもないと話しながら、午前中かけてなんとかドレスの形や生地を決め、採寸をしてもらった。
 Aラインでも肩だすか袖をつけるか、色々あるんだもの……
 ドレスを決めるのって大変なのね。
 それだけでも浸かれたんだけど、昼食の後は装飾品を決める。
 ドレスの生地見本をいただいたので、その生地と合わせてあれこれ決めて、靴を決めたら一日があっという間に終わってしまった。
 夕食の後、私は部屋でぐったりとしてベッドに横たわった。
 あー……温泉に入らないとなんだけど……無理。
 このまま寝たい。だけどお風呂はちゃんと入らないと……
 そう思うけれど思った以上に疲れているらしく、全然動けなかった。
 ノエル大公と今日は話、殆どできなかったな……
 色々と聞きたいし、話をしたいんだけど。
 明日も予定があるのよね。
 式で使うブーケの色を決めて、飾るお花のことも決めるのよね。
 ……これも全部私ひとりで決めるのかな。
 ドレスや装飾品をひとりで決めるのはわかるんだけど、飾るお花とかは一緒に決めてもいいんじゃないかな……
 そう思った時、扉を叩く音が響いた。
 きっと今日も大公がいらしたのだろう。
 そう思って重い身体を起こして私はゆっくりと扉に近づいてそれを開けた。
 すると思った通り、ノエル大公がそこにいた。
 彼は微笑み言った。

「こんばんは。今日はドレスなどを決めたとうかがいましたが」

「あ、はい。ドレスと、ネックレスなども決めました」

「決めることが多く大変でしょう」

 確かに大変でした。
 私、ドレスの知識、あんまりないんだもの。
 だから私は頷いて苦笑する。

「そう……ですね」

「私の方は正装が決まっていますので、衣装を選ぶ必要がないのですよね」

 あぁ、そうなのか。そういうものなのね。

「あ、あの」

「はい」

 私はじっと、ノエル大公を見つめる。
 大丈夫かな、言って。お花、一緒に決めませんか? って。大公、断りはしないだろうけれど。
 いざそれを口にしようとすると緊張で変な汗が出てくる。

「あの……その……」

 しどろもどろになる私の言葉を、ノエル大公はじっと待っている。
 あぁ、早く言わないと。

「え、あ、あの……一緒に、あの……お花、決めませんか?」

「花……ですか?」

 ノエル大公は不思議そうな顔をする。

「はい、あの……明日、ブーケにつかうお花のお色を決めるんです。それに会場に飾るお花も。私だけではその……よくわからないからだから……」

 しどろもどろになりながら言い、私は下を俯いてしまう。
 あー、貴族とか王族ってこういうのはどうするものなのかな。私、そこまでわからない。
 私が身に着ける物だから、私が決めるのはわかる。だけど……会場に飾るお花は私だけが決めていいものじゃないと思うのよ。
 っていうか決められない。

「わかりました、ミレイユさん。花屋がくる時間に、私もお伺いしますね」

 その言葉に私はばっと、顔を上げる。

「あ、ありがとうございます!」

 礼を言い、私は頭を下げた。
 よかった。今日のドレスを決めるのも大変だった。お花を決めるだけとはいえきっと、今日と同じように悩んで悩んで、メイドたちに意見を求めるだろう。
 それはそれで彼女たちの負担になってしまうかもだし、それは嫌だから。
 私がすごく嬉しそうな顔をしたためか、ノエル大公はちょっと首を傾げる。だけど何も聞かず微笑んで言った。

「では明日、楽しみにしています」

「はい。また明日」

 そしてノエル大公は背を向けた。
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