政略結婚の相手が白い狼だなんて聞いてない

あさじなぎ@小説&漫画配信

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8 現れたのは

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 人間、驚くと声も出ないと言うけれど、私はその場で完全に固まって白い狼を見つめた。
 ……えーと……どういうことなの。
 この国には獣人がいる。それはよくわかっている。だって今日の昼間、何人も見かけたもの。
 そして、目の前には大公だった白い狼……
 って、ことはこの白い狼は大公だって事よね?
 大公が着ていた服、狼の足元に落ちてるし……
 ……訳が分からないんだけど?
 え、なんで狼になるの?
 どういうことよ?
 呆然としていると、その場に座り込んでいる狼が言った。

「話さなければと思っていたのですが……すみません」

 そして、狼は頭を下げる。

「しゃ、喋った?」

 喋れるんだ、狼の姿で。

「すみません、とりあえず、中に入れていただいていいですか」

 大公は廊下で、私は部屋の中で話をしていた。
 だから狼は廊下にいる。
 もしかしてこの姿を見られるとまずい?

「えーと……どうぞ」

 と言い、私は狼を招き入れ、その足元にあった大公の服を回収して扉を閉じた。
 私は、室内を歩く狼をまじまじと見つめる。狼って大きい。いや、実物の狼を見たことはないけど。
 大型犬より大きいかも。
 とりあえず私は大公の服を抱えたまま長椅子に腰かける。狼は向かいにある椅子にちょこん、と乗った。
 ……やばい、かわいいかもしれない。
 三角形の耳、ふさふさの尻尾。毛、硬いのかなあ。そんなことを考えていると、狼が喋った。

「ミレイユさん」

「え? あ、は、はい」

「私は、感情が昂ると狼になってしまうんです。もともと獣の血が濃く、幼少期は獣の姿で過ごすことも多かったのですが」

 まじですか。それって結構重要な話じゃないの?

「獣人が多くいるわが国でも、完全に獣の姿になってしまうのは珍しくて。ですので我が家系では通常、遠縁から妻をめとって参りました。この国の住人であれば私を見てもそこまで驚きはしませんから」

「でしょうね」

 獣人が当たり前にいる国だもん。
 でも私は違う。
 外国人で、獣人を生まれて初めて見て、テンションあがっている。
 しかも今目の前にいるのは狼……
 ちょっと触ってみたいんだけど……駄目かな?
 昔、犬を飼っていた。
 お母さんが亡くなる前に死んじゃったけど。
 硬いのかな。柔らかいのかな。
 すっごく気になる。
 でもさすがに触ったら失礼だよなあ……

「お気づきかと思いますが、この結婚は政治的な意味合いが強いです。長く戦争を続けていたため、国民にも対外的にも友好を示すため、結婚はわかりやすいですからね」

 まあ、上流階級の結婚なんてそんなもんよね。
 でも私、友好の証として役に立つかなあ。国王にはたぶん疎まれてるし。
 だから追い出されたと思ってるんだけどな……

「……ミレイユさん?」

 いつの間にか私は俯いてしまっていたらしい。
 はっとして顔を上げると、目の前には白い狼が首を傾げて私を見つめている。
 私は首をぶんぶんと横に振っていった。

「あ、す、すみません。ちょっといろいろ考えちゃって……」

 国王が何を考えているのか、私にはわからない。
 半分だけ血が繋がっている兄。
 同じ宮殿に住んでいてもあんまり話をしなかった。何考えて、私を嫁がせようと思ったのかなあ。
 
「私としても、このままではたぶん貴方に触れる事すらできないと思うのでどうにかしたいのですが……すみません、私はまだ未熟で」

 なんて言って、狼は俯いてしまう。
 未熟とかそう言う問題なんだろうか?
 触れる事すらできない……あ、ってことは……
 夫婦が何をするのか思い出し、私は顔中が紅くなるのを感じた。
 ……でも今のままだと無理じゃないのかな?
 え、どうなるんだろう。
 感情が昂ると狼になっちゃうって言ってたよねえ……?
 あー……やめよう、考えたら恥ずかしさで逃げ出したくなってしまう。
 とりあえず、話題を変えよう。

「えーと、だから私が触れようとすると避けていたんですか?」

 そう問いかけると、狼は小さく頷く。

「えぇ、貴方に触れられて平静でいられる自信がなかったので」

 しょんぼりした様子で狼は告げる。
 うーん……なんかすごいギャップだなあ……
 今の……狼の状態で触ったらどうなるのかなあ……
 気になるけど……今はやめたほうがいいか。
 
「とりあえず、触らないように気をつけますね」

 そう私が告げると、狼は深くうなだれ、

「申し訳ないです……」

 と、消え入る声で言った。
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