5 / 9
5 初めての朝
しおりを挟む
私は大公が去ったあと温泉入って爆睡して、朝、侍女に起こされるまで全然起きなかった。
「ミレイユ様、おはようございます」
起こしに来たのはメロディではなく、ここの王宮の侍女だった。
紅い瞳に、肩まで伸びた金色の髪……そして、髪の毛の間から生えた、焦げ茶色の三角形の耳……
獣人の女性だ。
目が覚めたら彼女の顔がすぐそこにあったから、私は驚き声を上げてしまった。
「うわぁ!」
お姫様らしくない悲鳴に、彼女は首を傾げて不思議そうな顔をする。
「まあ、起きたなら良かったです。おはようございます。朝から昼間まで、ミレイユ様のお世話を担当いたします、レーナ=ペトリスです。レーナとお呼び頂いて構いませんので」
言いながら、彼女は私の掛け布団を剥ぎ取った。
頭には白い三角巾をして、紺色のワンピースに白いエプロンをつけている。昨日、私がここに着いたときには見かけなかった人だ。
私は起き上がり、
「お、おはようございます」
と、慌てて頭を下げた。
レーナさんははぎ取った布団を畳み、
「大公様とお食事となりますので、準備が整い次第、食堂へとご案内いたします」
そう言って頭を下げたレーナさんは、顔を洗うための桶を用意してくれた。
紺色のワンピースに着替え、髪を整えたあと私はレーナさんに伴われて食堂へと向かう。
誰かと一緒に朝食を食べるのなんて、超久しぶりなんだけど。
ギュスターヴ王とご飯食べたこと、殆どないし。
案内された食堂は、昨日晩餐会があった広間に比べたらだいぶシンプルな部屋だった。
壁には絵画が一枚掛けられていて、棚に花が生けられている。
派手な装飾がない大人しめな部屋の中央にひとつ長いテーブルがあり、両端に黒い紺色の布地が張られた椅子が置かれている。
うーん、緊張するなあ。
ちゃんとご飯食べられるかな……
出されたものは全部食べろ。
王宮に連れてこられてからそう教えられた。
礼儀作法の先生ほんと、怖かったなあ……
ボロがでなければいいんだけど……
でも私の生い立ち、大公は知ってるのかな。
ギュスターヴ王がなぜ私をここに嫁入りさせることにしたのか全然わかんないんだよなあ。
最後、お別れもしなかったし。
……結婚式、来るのかな?
……来てほしいようなどうでもいいような。
私の気持ちは複雑だ。
もうちょっと話すようにしたら良かったなー、ギュスターヴ王と。まあ、今更だけど。
椅子に腰掛けてすぐ、大公が入ってくる。
長テーブルの端と端。
向かい合うとか緊張するなあ。
大公の姿を見て、私は立ち上がり、
「おはようございます、ノエル大公」
と告げ、頭を下げる。
紺のスーツを着た彼はにこっと微笑み、
「おはようございます、ミレイユ殿下。私のことは、ノエルでいいですよ」
と言い、椅子に座った。
それを見て私も椅子に戻り、
「では、私のこともミレイユとお呼びください」
と答える。
正直、殿下、と呼ばれるの苦手なのよ。
いや、合ってるんだけどさ、様付け呼ばれるのも苦手なのに殿下、なんて呼ばれるとむず痒くて仕方ない。
ノエル大公……じゃなくって、ノエル……さんは、一瞬戸惑った顔をしたあと、
「ミレイユ……さん」
と言い、顔を伏せてしまう。
……なんですかこの反応。
恥ずかしいの……?
んな馬鹿な。
……そういえば、大公って何歳だ。
年齢とか全然聞いてないや。
私より年上なのは確かだろうけど……それなら今時、女性と交際位あるでしょ?
私はいい感じの相手はいたけど、そうなる前に王宮に連れて行かれちゃったからなあ……付き合ったことは一度もない。
昨日もだけど、一定の距離以上近づいて来ようとしないよね?
なんでだろ?
不思議に思っていると、食事が運ばれてくる。
「えーと、式は一か月後に行われますので、それまでに必要な準備については侍女から説明がありますから……今日は、ゆっくりお過ごしください」
そういえば昨日の夜、そんなこと言ってましたね。
……結婚式って何やるのか全然わかってないけど、練習とかあるのかな?
ドレスとか選べるのかなあ。考えるだけで楽しくなってくる。
……でも、私、ノエルさんの事、よく知らないんだよな……
今は部屋、別々だけど……そのうち一緒の部屋で寝たりするのかなあ。
普通がわからないから想像もつかないや。
後で聞いてみよう。
「はい、わかりました」
微笑み答えると、ノエルさんは顔を上げて微笑み返してくる。
……目を、合わせないわけじゃないんだよねえ……
でも、さっきあからさまに視線、そらされたよねぇ……なんなんだろ?
不思議に思いつつ、私は用意された朝食に目を向けた。
丸いパンに、生ハム、サラダ、果物。それに、お茶……かな?
見知らぬ野菜とかあったけど残さず食べて、私は自室へと戻った。
しばらくしたら、獣人の侍女……レーナさんが色々と説明してくれるって言うから聞きたいこときいてみよ。
「ミレイユ様、おはようございます」
起こしに来たのはメロディではなく、ここの王宮の侍女だった。
紅い瞳に、肩まで伸びた金色の髪……そして、髪の毛の間から生えた、焦げ茶色の三角形の耳……
獣人の女性だ。
目が覚めたら彼女の顔がすぐそこにあったから、私は驚き声を上げてしまった。
「うわぁ!」
お姫様らしくない悲鳴に、彼女は首を傾げて不思議そうな顔をする。
「まあ、起きたなら良かったです。おはようございます。朝から昼間まで、ミレイユ様のお世話を担当いたします、レーナ=ペトリスです。レーナとお呼び頂いて構いませんので」
言いながら、彼女は私の掛け布団を剥ぎ取った。
頭には白い三角巾をして、紺色のワンピースに白いエプロンをつけている。昨日、私がここに着いたときには見かけなかった人だ。
私は起き上がり、
「お、おはようございます」
と、慌てて頭を下げた。
レーナさんははぎ取った布団を畳み、
「大公様とお食事となりますので、準備が整い次第、食堂へとご案内いたします」
そう言って頭を下げたレーナさんは、顔を洗うための桶を用意してくれた。
紺色のワンピースに着替え、髪を整えたあと私はレーナさんに伴われて食堂へと向かう。
誰かと一緒に朝食を食べるのなんて、超久しぶりなんだけど。
ギュスターヴ王とご飯食べたこと、殆どないし。
案内された食堂は、昨日晩餐会があった広間に比べたらだいぶシンプルな部屋だった。
壁には絵画が一枚掛けられていて、棚に花が生けられている。
派手な装飾がない大人しめな部屋の中央にひとつ長いテーブルがあり、両端に黒い紺色の布地が張られた椅子が置かれている。
うーん、緊張するなあ。
ちゃんとご飯食べられるかな……
出されたものは全部食べろ。
王宮に連れてこられてからそう教えられた。
礼儀作法の先生ほんと、怖かったなあ……
ボロがでなければいいんだけど……
でも私の生い立ち、大公は知ってるのかな。
ギュスターヴ王がなぜ私をここに嫁入りさせることにしたのか全然わかんないんだよなあ。
最後、お別れもしなかったし。
……結婚式、来るのかな?
……来てほしいようなどうでもいいような。
私の気持ちは複雑だ。
もうちょっと話すようにしたら良かったなー、ギュスターヴ王と。まあ、今更だけど。
椅子に腰掛けてすぐ、大公が入ってくる。
長テーブルの端と端。
向かい合うとか緊張するなあ。
大公の姿を見て、私は立ち上がり、
「おはようございます、ノエル大公」
と告げ、頭を下げる。
紺のスーツを着た彼はにこっと微笑み、
「おはようございます、ミレイユ殿下。私のことは、ノエルでいいですよ」
と言い、椅子に座った。
それを見て私も椅子に戻り、
「では、私のこともミレイユとお呼びください」
と答える。
正直、殿下、と呼ばれるの苦手なのよ。
いや、合ってるんだけどさ、様付け呼ばれるのも苦手なのに殿下、なんて呼ばれるとむず痒くて仕方ない。
ノエル大公……じゃなくって、ノエル……さんは、一瞬戸惑った顔をしたあと、
「ミレイユ……さん」
と言い、顔を伏せてしまう。
……なんですかこの反応。
恥ずかしいの……?
んな馬鹿な。
……そういえば、大公って何歳だ。
年齢とか全然聞いてないや。
私より年上なのは確かだろうけど……それなら今時、女性と交際位あるでしょ?
私はいい感じの相手はいたけど、そうなる前に王宮に連れて行かれちゃったからなあ……付き合ったことは一度もない。
昨日もだけど、一定の距離以上近づいて来ようとしないよね?
なんでだろ?
不思議に思っていると、食事が運ばれてくる。
「えーと、式は一か月後に行われますので、それまでに必要な準備については侍女から説明がありますから……今日は、ゆっくりお過ごしください」
そういえば昨日の夜、そんなこと言ってましたね。
……結婚式って何やるのか全然わかってないけど、練習とかあるのかな?
ドレスとか選べるのかなあ。考えるだけで楽しくなってくる。
……でも、私、ノエルさんの事、よく知らないんだよな……
今は部屋、別々だけど……そのうち一緒の部屋で寝たりするのかなあ。
普通がわからないから想像もつかないや。
後で聞いてみよう。
「はい、わかりました」
微笑み答えると、ノエルさんは顔を上げて微笑み返してくる。
……目を、合わせないわけじゃないんだよねえ……
でも、さっきあからさまに視線、そらされたよねぇ……なんなんだろ?
不思議に思いつつ、私は用意された朝食に目を向けた。
丸いパンに、生ハム、サラダ、果物。それに、お茶……かな?
見知らぬ野菜とかあったけど残さず食べて、私は自室へと戻った。
しばらくしたら、獣人の侍女……レーナさんが色々と説明してくれるって言うから聞きたいこときいてみよ。
7
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる