政略結婚の相手が白い狼だなんて聞いてない

あさじなぎ@小説&漫画配信

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 胸元が大きく開いた淡い緑色のドレス。ハート型のダイヤのついたネックレス。
 これらは私が持ってきたものじゃない。
 大公が私のために用意してくれたものらしい。
 サイズはぴったり、とはいかなかったけどちょっと大きいくらいだったので、すぐ手直ししてもらい合わせてもらった。
 髪を結われて私は、大公の私室へと案内された。
 開かれた扉の向こうに、さっきとは違う服装の大公が立っていた。
 黒地に金色の刺繍が入ったロング丈のジャケット。
 その下に濃い灰色のベスト着て、フリルのついたシャツを着ている。
 思わず見とれてしまうほど美しい青年だった。
 彼はにこっと笑い、

「ミレイユ殿下、とてもお似合いですよ」

 と言った。
 私は慌てて頭を下げ、彼に答えた。

「ありがとうございます。このドレス、大公がお選びになったと伺いましたが」

 緊張しつつ私が言うと、大公は頷いた。

「えぇ。以前あなたと一度すれ違ったとき、目の色がとても印象的でしたので」

 そして彼はにこっと笑う。
 あ、一瞬のことだったのに覚えていたんだ。
 私も覚えていたけど、まさかあの日すれ違った相手が大公閣下だったなんて……なんで国王陛下は教えてくれなかったんだろう。

「ノエル様、皆様お集まりです」

 そう外から声がかかり、大公は頷き私の方を見た。

「今日はお疲れでしょうが、少しだけお付き合いをお願いいたします。首相と、国務院議員への顔見せとなりますので」

 疲れている。
 それは確かだけど、これも王族の務めだ。
 私はできるだけ笑顔を作り、

「大丈夫ですわ」

 と答えた。
 そして大公に手を取られ……となると思ったらそうはならず、私は大公の後ろをついて広間へと向かった。
 ……こーゆーときって、寄り添ったりするものかと思ったけど違うのかな。
 いや、初めてだからよくわかんないけど。
 若干不思議に思いながら、私は大公の後ろを歩いた。



 広間の照明が眩しい。
 紅い絨毯に、壁に飾られた絵画たち。円形の白い天井が特徴的な広間に、知らない人たちがたくさんいた。
 首相と議員の代表と、大公の親族の代表と挨拶を交わし、緊張の中食べたご飯の味は全然覚えていない。
 今、私は大公の配慮で早々に部屋に戻ることが許され、ドレスを脱いで部屋着に着替えてぐったりしてる。
 王族は出されたものは全部食べなくてはいけない、と躾けられたためとりあえず食べたけど……見たことない料理を食べるのはなかなか勇気が必要だった。
 前菜にスープに、メインはお肉だったな。デザートのケーキ、タルトぽかったけど何のタルトだったんだろう?
 首相も議員の代表も、親戚の方も皆すごく喜んでたな……

「ノエル様がご結婚される日が来るなんて……てっきり一生独身で過ごされると思い心配しておりました!」

 なんて言いながら、首相、大泣きしてたもんな……
 それってどういうことよ……?
 大公、見た目はいいんだから結婚相手くらいすぐ見つかるでしょうに。
 なんか問題抱えてるのかな?
 財政難とか?
 そんなわけないか。
 性格に難ありとか?
 それはわからないしなあ。
 でも不思議だったのは……大公がある一定の距離以上、私に近づこうとしてこなかったことだ。
 すごく離れてるわけじゃないんだけど……近いわけでもなく。
 試しに私から近づいたら、私が近づいたぶん離れたしな……
 何なんだろ、あれ?
 ……まあいいか。
 気にしても仕方ない。
 明日はゆっくりしてていいと言われたし、のんびり過ごそう。
 そういえば、このお城には大きな浴場があるらしい。
 温泉がでるとかで、好きな時間に入れるとか。
 温泉かぁ。久しぶりだ。
 王宮にはなかったんだよな。
 国境近くの町には温泉があったけど。
 しばらくしたら侍女が迎えにくるので、それまで私はソファーで横になっていた。
 うとうとし始めた頃、扉を叩く音がして私は驚き、

「は、はーい!」

 と、裏返った声を出してしまう。
 がばっとソファーから起き上がると、扉が開く音が響いた。
 現れたのは大公だった。
 や、や、やばい。今の私の格好、やばい。
 うたた寝してたからぐしゃぐしゃだよ……!
 私は慌てて立ち上がり、扉に背を向けて身だしなみをなんとなく整えてから、扉の方を向いた。

「た、た、大公、なんのご用でしょうか?」

「くつろいでいたところ、申し訳ない。明日はゆっくりしていていいと伝えましたが、もし外に出たいようでしたら、侍女を通してマリウスにお伝え下さい」

 見ると、大公の後ろに黒髪の青年が立っている。
 前に見かけたことがあるし、今日もずっと大公のそばについていた、短い黒髪に金色の目をしたちょっと怖い雰囲気の人だ。
 黒いスーツ姿の彼は、無表情に頭を下げて言った。

「侍従のマリウスでございます」

「よ、よろしくお願いいたします」

 答えながら私は頭を下げる。
 ん? 待てよ?

「それってつまり、外に自由に出てもいいってことですか?」

 驚き私が言うと、大公は小さく首を傾げた。

「ええ……町の外と言われたら流石に準備が必要ですが、王宮周辺でしたら……」

 まじでいいの?
 ずっと外に出るのを禁止されていた私は、思わず大公に駆け寄り、その手を掴もうとし……空振った。
 ……そっと、逃げられたよ、今?
 まあいいや。
 気を取り直し、私は大公に向かって深々と頭を下げ、

「ありがとうございますありがとうございます!」

 と、繰り返し言った。
 久々に外を自由に歩ける……!
 嬉しすぎるんだけど!
 来てよかったー!
 あのまま王宮にいたら私、ずっと籠の鳥だったもん。

「……ミレイユ殿下?」

「あ、すみません、嬉しすぎて!」

 満面の笑顔で言うと、大公は驚いた顔をする。

「外に出られるのが、嬉しいと言う事ですか?」

「はい! だって、王宮の外に出してもらえなかったからすっごく嬉しくて嬉しくて……!」

 欲しいものがあったら侍女が買いに行き、服飾品は商人が王宮にきていろいろ見せてくれて。
 外に出るのだけは絶対に許してもらえなかったし、王宮内の行動も制限されていたな……

「あ……えーと……そうなんですか」

「そうなんです! だから嬉しくて……あー! 今から楽しみです! 馬車から見た街並み、とっても綺麗でしたから!」

 そう私が言うと、大公は驚いた顔から笑顔になり言った。

「それならよかったです。式は……一か月後になりますので、いろいろ見て回ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 結婚式は一か月後かぁ……準備とか考えたらそれくらいかかるか。
 ウェディングドレスとか、宝飾品とか選んだりするのかな? あ、考えたらドキドキしてきた。

「では、おやすみなさい、ミレイユ殿下」

 そして、大公は私に向かって軽く頭を下げ、部屋を後にした。
 ……近づこうとすると逃げる、よね? 大公。
 なんなんだろう、あれ。
 女性慣れしていないとか? そんな馬鹿な。あの見た目でそれはないだろう。
 じゃあ……なんでだろう?
 私は閉じた扉を見つめ、ひとり首を傾げた。
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