政略結婚の相手が白い狼だなんて聞いてない

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3 旅立ちの日

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 旅立つ日が来た。
 馬車で駅に行き、専用の汽車に乗り換えて国境近くの駅まで行って、そしてまた馬車に乗り国境まで行って、そこでラローシェの馬車に乗り換えて。
 という行程になっている。
 出発の時、少ない見送りの中にギュスターヴ王の姿はなかった。
 侍女や国務大臣、数人の貴族だけが私を見送りに来てくれた。
 大泣きする侍女に声をかけ、皆にお礼を伝えて私はラローシェに旅立つ。
 お姫様の輿入れにしては寂しい門出だけれど、二年前まで庶民だった私にはお似合いか。
 私は二年過ごした王宮を見上げる。
 ……あれ?
 窓際に人影を見たような……?
 まさか……ね?
 私は王宮に背を向けて馬車に乗りこんだ。


 夕暮れのラローシェの街は、とても綺麗だった。
 白い壁に尖った屋根がとても特徴的で、規則正しく並んでいる。
 白に金色の装飾が施された私が乗る馬車は、大公専用の馬車だそうで、とても人目を引くのか遠巻きに人々が集まってくる。
 その人々の見た目に私は驚いた。
 メロディに言われてはいたけど……獣の耳にふさふさの尻尾を持つ人の姿が目立つ。
 獣人がいるってホントなのね。
 王国がラローシェに勝てなかった理由のひとつがかれら獣人の存在だ。
 彼らは人よりも力が強く生命力もあり、魔法が使える者もいるらしい。
 だから私たちの国は勝てなかった。
 ……あ、獣人の子供可愛い……
 ふさふさの尻尾が生えてて、三角の耳があって……やだ、すごくかわいい……
 大公はどんな姿をしているんだろう?
 馬車の窓から丘の上にある白いお城が見る。
 あれが、大公が住むお城なんだろうな。
 真っ白な外壁に青い屋根。大きなお城だ。
 馬車は緩やかな坂を登り、お城へと向かっていく。
 やばい、心臓がバクバク言い出してる。
 もうすぐ、ラローシェ公国の大公、ノエル=エトワローシェ様に会えるんだ。
 どんな人かな。
 獣人、なのかな?
 緊張でお腹が痛くなり始めたころ、馬車がゆっくりになりそして止まった。
 あ、着いたんだ。
 馬車の扉が開かれて、私は緊張に震えながら侍従に手を差し伸べられ、馬車を降りた。
 大きな大きな白いお城の門が開き、沢山の人々が左右に並び頭を下げている。
 その真ん中を、紺色のスーツを纏った白金の髪の男性がこちらに向かって歩いてくる。
 ……て、あれ?
 この人知ってる。
 一ヶ月前、ギュスターヴ王に呼ばれたとき、すれ違った人だ。
 その後ろをついて歩いてくる人も……その時見かけた黒髪の青年。
 やっぱり王国の人じゃなかったんだ。
 じゃああの日、私が呼ばれる前までギュスターヴ王はラローシェ公国と秘密裏に話し合いをしてたのかな。
 呆然とする私の前で白金の髪の男性は立ち止まり、胸に手を当ててにこっと微笑んだ。

「はじめまして、ミレイユ殿下。ラローシェ公国大公、ノエル=エトワローシェです」

「あ、は、は、はじめまして……ミレイユ=リュシールと申します」

 震えながら私はなんとか片足を後ろにひいて、軽く膝を曲げて頭を下げる。
 何度も練習させられた挨拶をなんとかこなし、王宮内へと案内された。
 案内された部屋は王国で私が使っていた部屋よりも広かった。
 寝室と、衣装部屋と、テーブルやソファーが置かれた部屋と三つに分かれていて、衣装部屋には先に送った服が仕舞われている。
 その他に見覚えのないドレスもあった。
 これ、私ひとりで使う部屋……?
 ……寝室、別なのかな……?
 まあ、まだ式も上げてないしな……
 結婚式したら同じ部屋で寝るのかな?
 それとも別々のまま?
 わからない。
 王侯貴族の寝室事情なんて私にわかるわけがない。
 私を歓迎する晩餐会が開かれる、というので、しばらくしたら着替えて大広間に行かないといけない。
 とはいえ、長旅で疲れた私は少しひとりになりたくて、人払いをしてソファーに寝転がった。
 あー、疲れた。
 高い天井で、丸い形の電飾が淡い橙色の光を放っている。
 来ちゃった、ラローシェ公国に。
 ノエル大公……白金の、癖のある胸元まである髪に、金色の瞳をした、不思議な見た目の人だったな。
 とりあえず、獣耳は生えてなかった。
 第一印象は悪くない。
 ……どんな人なんだろうな。
 私、あの人の奥さんになるのか……なんか不思議だな。
 なんにも知らず、町で育った私がお姫様で、しかも元敵国の大公と結婚か。
 人生何があるかほんと、わからない。

「とりあえず疲れたから動きたくないなあ……」

 でも、晩餐会があるなら出ないといけないし、着替えもしないとだし、髪も整えないとだし。
 全部自分で出来るけど、やると怒られるんだよなあ……
 姫なんだからって。
 時間になったら侍女のメロディが声をかけてくれることになってる。
 私はそれまでソファーに寝転がり、だらだらしていた。 
 
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