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きまぐれSS
とある朝の光景―千早誕生日SS
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大学三年生の、七月の終わり。
もうすぐ試験期間と言う事もあり俺も琳太郎も忙しく過ごしていたが、それでも琳太郎はうちに来ていた。
今日は日曜日。
明日から試験になる。
試験の準備もあるが、レポートの提出もあり琳太郎はうちに泊まりに来たものの、レポートばかりやっていて俺は手出しできなかった。
日曜日の朝、目が覚めると琳太郎の姿がなかった。
琳太郎が、俺より早く起きる?
そんなこと今まであっただろうか。
……なくはないが、姿が見えないと不安になってしまう。
それに……何だろう、リビングの方から物音がする。
俺はベッドから起き、そのままリビングの方へと向かった。
琳太郎が泊まった日の朝は服を着ていることなんて滅多にないから、着替えを探す必要のないことに変な感じがする。
リビングへと向かうと、音の正体はキッチンにあった。
エプロンをつけた琳太郎が朝食を作っている。
珍しいこともあるものだ……
パンの焼ける匂いと、ソーセージでも焼いているのだろうか。
琳太郎は俺の存在に気が付くと、笑みを浮かべて言った。
「千早、おはよう!」
「あぁ……どうしたんだ、琳太郎」
言いながら近づくと、琳太郎は俺から視線を外して、えーと、と呻る。
しばらく沈黙してから顔をあげずに言った。
「ほら、火曜日……二十三日はお前誕生日じゃん? でも試験中だし、何あげたらいいかわかんなかったから朝食作ろうって思って」
そして顔をあげてはにかむ。
たしかに明後日は俺の誕生日だ。
試験期間中だし、会うにしても夜少し会うだけで何かする気はなかった。
「それにほら、なんか驚かせたかったからさー」
と言い、琳太郎は頭に手を当てた。
その様子を見て俺は、どうしたらいいかわからず手で口を押えて下を向く。
どうしよう、この……愛おしくてたまらない存在を。
出来ればここでしてしまいたい。だけどさすがに朝からそんなことする気はないし、そもそも琳太郎が俺の為にご飯を作っている、なんてレアイベントが起きているわけだし、それはそれで大事にしたい。
「琳太郎」
俺はキッチンの方に回り、そして彼が何を用意しているのか確認した。
お皿の上に目玉焼きとソーセージ、それにキャベツやキュウリなどがのったサラダが用意されている。
それに揚げ物用の鍋の中でポテトが躍っている。
「琳太郎」
「え、あ、何?」
菜箸でポテトを摘みながら琳太郎が言った。
「飲み物用意するよ」
「え? あ、お前は座ってろよ」
「飲み物位いいだろう。グラスに入れるだけだし」
「わ、わかったよ」
俺はグラスを食器棚から出し、冷蔵庫からアイスコーヒーの入ったペットボトルを取り出す。
ポテトを全部あげ終えたらしい琳太郎は、油を処理してお盆にお皿をのせている。
さっきの様子だと箸の用意も怒られそうだな、と思い、俺はアイスコーヒーの入ったグラスだけをテーブルに運んだ。
テーブルに、トーストとバター、それにサラダなどの皿が並び、琳太郎はエプロンを外しやってくる。
そんな彼を背中から抱きしめて、俺は言った。
「ありがとう、琳太郎」
「え、あ……こ、こんなことしかできないけど……ほら、誕生日当日はケーキ予約してるから」
と、恥ずかしそうな声で琳太郎が言う。
「あぁ、楽しみにしてるよ」
「ほら、さっさと食おうぜ! 冷めるからさ」
言いながら琳太郎は俺の腕を振りほどいてしまう。
その背中を見つめながら、俺は考えていた。
……朝食の後、抱きたい、と言ったら怒るだろうか。
たぶん怒るだろうな。
何なら許してくれるだろうか。
そんなことを思いながら俺は椅子に腰かけた。
もうすぐ試験期間と言う事もあり俺も琳太郎も忙しく過ごしていたが、それでも琳太郎はうちに来ていた。
今日は日曜日。
明日から試験になる。
試験の準備もあるが、レポートの提出もあり琳太郎はうちに泊まりに来たものの、レポートばかりやっていて俺は手出しできなかった。
日曜日の朝、目が覚めると琳太郎の姿がなかった。
琳太郎が、俺より早く起きる?
そんなこと今まであっただろうか。
……なくはないが、姿が見えないと不安になってしまう。
それに……何だろう、リビングの方から物音がする。
俺はベッドから起き、そのままリビングの方へと向かった。
琳太郎が泊まった日の朝は服を着ていることなんて滅多にないから、着替えを探す必要のないことに変な感じがする。
リビングへと向かうと、音の正体はキッチンにあった。
エプロンをつけた琳太郎が朝食を作っている。
珍しいこともあるものだ……
パンの焼ける匂いと、ソーセージでも焼いているのだろうか。
琳太郎は俺の存在に気が付くと、笑みを浮かべて言った。
「千早、おはよう!」
「あぁ……どうしたんだ、琳太郎」
言いながら近づくと、琳太郎は俺から視線を外して、えーと、と呻る。
しばらく沈黙してから顔をあげずに言った。
「ほら、火曜日……二十三日はお前誕生日じゃん? でも試験中だし、何あげたらいいかわかんなかったから朝食作ろうって思って」
そして顔をあげてはにかむ。
たしかに明後日は俺の誕生日だ。
試験期間中だし、会うにしても夜少し会うだけで何かする気はなかった。
「それにほら、なんか驚かせたかったからさー」
と言い、琳太郎は頭に手を当てた。
その様子を見て俺は、どうしたらいいかわからず手で口を押えて下を向く。
どうしよう、この……愛おしくてたまらない存在を。
出来ればここでしてしまいたい。だけどさすがに朝からそんなことする気はないし、そもそも琳太郎が俺の為にご飯を作っている、なんてレアイベントが起きているわけだし、それはそれで大事にしたい。
「琳太郎」
俺はキッチンの方に回り、そして彼が何を用意しているのか確認した。
お皿の上に目玉焼きとソーセージ、それにキャベツやキュウリなどがのったサラダが用意されている。
それに揚げ物用の鍋の中でポテトが躍っている。
「琳太郎」
「え、あ、何?」
菜箸でポテトを摘みながら琳太郎が言った。
「飲み物用意するよ」
「え? あ、お前は座ってろよ」
「飲み物位いいだろう。グラスに入れるだけだし」
「わ、わかったよ」
俺はグラスを食器棚から出し、冷蔵庫からアイスコーヒーの入ったペットボトルを取り出す。
ポテトを全部あげ終えたらしい琳太郎は、油を処理してお盆にお皿をのせている。
さっきの様子だと箸の用意も怒られそうだな、と思い、俺はアイスコーヒーの入ったグラスだけをテーブルに運んだ。
テーブルに、トーストとバター、それにサラダなどの皿が並び、琳太郎はエプロンを外しやってくる。
そんな彼を背中から抱きしめて、俺は言った。
「ありがとう、琳太郎」
「え、あ……こ、こんなことしかできないけど……ほら、誕生日当日はケーキ予約してるから」
と、恥ずかしそうな声で琳太郎が言う。
「あぁ、楽しみにしてるよ」
「ほら、さっさと食おうぜ! 冷めるからさ」
言いながら琳太郎は俺の腕を振りほどいてしまう。
その背中を見つめながら、俺は考えていた。
……朝食の後、抱きたい、と言ったら怒るだろうか。
たぶん怒るだろうな。
何なら許してくれるだろうか。
そんなことを思いながら俺は椅子に腰かけた。
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