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ハタチの誕生日―琳太郎
琥珀色の夢2
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十二月四日月曜日。
俺は五限まで講義があるため終わるのは十八時すぎとなる。
講義が終わり廊下に出て外を見ると、暗闇が包んでいて空には下弦の月が輝いている。
先に講義が終わっているはずの琳太郎は食堂で待っているはずだ。
俺は友人と別れて足早に食堂へと向かった。
時間も時間なので構内は静まり返り、すれ違う学生の数も少なかった。
食堂に着くとさすがに人影はなく、窓際に琳太郎がテーブルに突っ伏しているのが見えた。
そんな彼に近づくと、文庫本を手に持ったまま寝息を立てている。
二時間近く待たせる形になってしまっているから寝るのも仕方ないだろうが早くしないとこの鍵を閉められてしまう。
そう思い俺は、琳太郎の背に触れ声をかけた。
「琳」
「……ン……」
妙に色っぽい声を出したかと思うと琳太郎は顔をゆっくりとあげて辺りを見回し、大きく欠伸をした。
そして俺の方を振り返り、目を瞬かせて言った。
「あ……れ? 千早……」
眠そうな声で言ったあと、目をこすり琳太郎はスマホで時間を確認する。
「え、もうこんな時間?」
「あぁ、だから夕飯が届く前に帰るぞ」
料理が届くのは十九時半ごろの予定なのでまだ少し余裕があるから遅れることはないだろうが、今夜は他に目的がある為そろそろここを出たい。
琳太郎は大きく腕を上に伸ばして欠伸をした後、本をバッグにしまい立ち上がった。
「今日は歩いて帰るぞ」
「……え、まじ? 車じゃねえの?」
「あぁ」
答えながら俺は琳太郎に手を差し出す。
辺りには人影はない。
時間も時間なので学生の大半は帰っているだろうし、教授たちはこんなところうろついてはいないだろう。
琳太郎は一瞬迷った顔をしたあと、頬を紅くして迷った様子で手を伸ばしてきて、俺の手を握りしめてきた。
「じゃあ行こうか」
「あ、あぁ」
もう一年半付き合っていると言うのに琳太郎は外でこうして触れ合うことを恥ずかしがる。
けれど夜ならば大丈夫だろうと思ったけれど、やはり気になるのか。
外に出れば闇がすべてを覆い隠すし、町を歩けばきっと人々は周りの人に視線など向けはしないだろう。
「お前何で車で来なかったんだよ?」
「お前と歩きたかったからだよ。それに、イルミネーションやってるだろ?」
「あぁ、そう言えばそうだけど」
大学から駅の道から少し外れた場所になるが、市役所前の広場周辺から駅前までイルミネーションをやっている。
市役所前の広場には光のツリーやトナカイなどのオブジェ、幼稚園や保育園の子供たちがデザインしたイルミネーションの看板などが設置されていて多くの人で毎年賑わっている。
正直人の多い所はあまり好きではないからあまり行ったことはないけれど、琳太郎と一緒なら見に行きたいと思った。
去年、琳太郎の誕生日は日曜日だったし、外に出掛けたためイルミネーションを見には行かなかった。
「そういえば、まともに見たことないや、イルミネーションて」
「俺もわざわざ行こうと思ったことないな」
誰かと一緒でなければ行きたいなんて思わないだろうし、行きもしないだろう。
薄暗い通りを、人々が足早に歩いて行く。皆、スマホに目を向けて。
だからきっと、俺と琳太郎が手を繋いで歩いていたとしても誰も気には留めないだろう。
自分が思うほど、人は周りを見てはいないものだ。
俺は琳太郎の身体を引き寄せ、彼の顔を見て言った。
「お前となら見に行きたいと思ったから」
すると一気に琳太郎の顔が紅くなっていく。
彼は首をぶんぶんと横に振り、
「ほら、早く行こうぜ」
と言い、俺の腕を引っ張り大股で歩いて行った。
*
市役所前の広場には、思ったよりも人が多くいた。
会社帰りと思われる男女や、俺たちみたいな学生っぽい人たちの姿が目立つ。
今日は月曜日なのでそんなにいないだろうと思っていたのだが。
人の数に琳太郎は手を離してくるのでは、と思ったけれどそんなことはなく、広場中央に作られた光のツリーを見上げて目を輝かせている。
「すげーな、あれ」
その光のツリーは、高さ五メートルほどだろうか。 頂上では青い光が点滅している。
中に入れるようになっていて、人々はスマホで写真を撮りあいながらイルミネーションを見つめていた。
「千早、中行こうぜ」
言いながら琳太郎は俺の手を引っ張りツリーの中に入っていく。
「うわぁ、上すげえ」
琳太郎に言われ俺も視線を上へと向ける。白や青の光の海がそこにあった。
視界いっぱいに広がる光に少々めまいを覚えてしまうけれど、琳太郎は嬉しそうにスマホを取り出し写真を撮っている。
「イルミネーションて綺麗なんだな、ちょっと寒いけど」
と言い、琳太郎は小さく震えた。
俺は厚手のカーディガン、琳太郎はパーカーを羽織っているが思った以上に今夜は寒い。
琳太郎は握る俺の手にもう片方の手を重ねて言った。
「お前の手、温かいな」
そんなことを笑顔で言われたら耐えられるわけがない。
俺はそんな琳太郎を抱き寄せたい衝動を抑え、
「そろそろ帰ろう。お前の為に色々と用意してあるから」
と告げ、笑いかけた。
俺は五限まで講義があるため終わるのは十八時すぎとなる。
講義が終わり廊下に出て外を見ると、暗闇が包んでいて空には下弦の月が輝いている。
先に講義が終わっているはずの琳太郎は食堂で待っているはずだ。
俺は友人と別れて足早に食堂へと向かった。
時間も時間なので構内は静まり返り、すれ違う学生の数も少なかった。
食堂に着くとさすがに人影はなく、窓際に琳太郎がテーブルに突っ伏しているのが見えた。
そんな彼に近づくと、文庫本を手に持ったまま寝息を立てている。
二時間近く待たせる形になってしまっているから寝るのも仕方ないだろうが早くしないとこの鍵を閉められてしまう。
そう思い俺は、琳太郎の背に触れ声をかけた。
「琳」
「……ン……」
妙に色っぽい声を出したかと思うと琳太郎は顔をゆっくりとあげて辺りを見回し、大きく欠伸をした。
そして俺の方を振り返り、目を瞬かせて言った。
「あ……れ? 千早……」
眠そうな声で言ったあと、目をこすり琳太郎はスマホで時間を確認する。
「え、もうこんな時間?」
「あぁ、だから夕飯が届く前に帰るぞ」
料理が届くのは十九時半ごろの予定なのでまだ少し余裕があるから遅れることはないだろうが、今夜は他に目的がある為そろそろここを出たい。
琳太郎は大きく腕を上に伸ばして欠伸をした後、本をバッグにしまい立ち上がった。
「今日は歩いて帰るぞ」
「……え、まじ? 車じゃねえの?」
「あぁ」
答えながら俺は琳太郎に手を差し出す。
辺りには人影はない。
時間も時間なので学生の大半は帰っているだろうし、教授たちはこんなところうろついてはいないだろう。
琳太郎は一瞬迷った顔をしたあと、頬を紅くして迷った様子で手を伸ばしてきて、俺の手を握りしめてきた。
「じゃあ行こうか」
「あ、あぁ」
もう一年半付き合っていると言うのに琳太郎は外でこうして触れ合うことを恥ずかしがる。
けれど夜ならば大丈夫だろうと思ったけれど、やはり気になるのか。
外に出れば闇がすべてを覆い隠すし、町を歩けばきっと人々は周りの人に視線など向けはしないだろう。
「お前何で車で来なかったんだよ?」
「お前と歩きたかったからだよ。それに、イルミネーションやってるだろ?」
「あぁ、そう言えばそうだけど」
大学から駅の道から少し外れた場所になるが、市役所前の広場周辺から駅前までイルミネーションをやっている。
市役所前の広場には光のツリーやトナカイなどのオブジェ、幼稚園や保育園の子供たちがデザインしたイルミネーションの看板などが設置されていて多くの人で毎年賑わっている。
正直人の多い所はあまり好きではないからあまり行ったことはないけれど、琳太郎と一緒なら見に行きたいと思った。
去年、琳太郎の誕生日は日曜日だったし、外に出掛けたためイルミネーションを見には行かなかった。
「そういえば、まともに見たことないや、イルミネーションて」
「俺もわざわざ行こうと思ったことないな」
誰かと一緒でなければ行きたいなんて思わないだろうし、行きもしないだろう。
薄暗い通りを、人々が足早に歩いて行く。皆、スマホに目を向けて。
だからきっと、俺と琳太郎が手を繋いで歩いていたとしても誰も気には留めないだろう。
自分が思うほど、人は周りを見てはいないものだ。
俺は琳太郎の身体を引き寄せ、彼の顔を見て言った。
「お前となら見に行きたいと思ったから」
すると一気に琳太郎の顔が紅くなっていく。
彼は首をぶんぶんと横に振り、
「ほら、早く行こうぜ」
と言い、俺の腕を引っ張り大股で歩いて行った。
*
市役所前の広場には、思ったよりも人が多くいた。
会社帰りと思われる男女や、俺たちみたいな学生っぽい人たちの姿が目立つ。
今日は月曜日なのでそんなにいないだろうと思っていたのだが。
人の数に琳太郎は手を離してくるのでは、と思ったけれどそんなことはなく、広場中央に作られた光のツリーを見上げて目を輝かせている。
「すげーな、あれ」
その光のツリーは、高さ五メートルほどだろうか。 頂上では青い光が点滅している。
中に入れるようになっていて、人々はスマホで写真を撮りあいながらイルミネーションを見つめていた。
「千早、中行こうぜ」
言いながら琳太郎は俺の手を引っ張りツリーの中に入っていく。
「うわぁ、上すげえ」
琳太郎に言われ俺も視線を上へと向ける。白や青の光の海がそこにあった。
視界いっぱいに広がる光に少々めまいを覚えてしまうけれど、琳太郎は嬉しそうにスマホを取り出し写真を撮っている。
「イルミネーションて綺麗なんだな、ちょっと寒いけど」
と言い、琳太郎は小さく震えた。
俺は厚手のカーディガン、琳太郎はパーカーを羽織っているが思った以上に今夜は寒い。
琳太郎は握る俺の手にもう片方の手を重ねて言った。
「お前の手、温かいな」
そんなことを笑顔で言われたら耐えられるわけがない。
俺はそんな琳太郎を抱き寄せたい衝動を抑え、
「そろそろ帰ろう。お前の為に色々と用意してあるから」
と告げ、笑いかけた。
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