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★番外編01 運命の番 side 千早
運命の番23
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今日の講義では、試験の範囲や課題のテーマなどが出された。
今週中にはほとんどの講義が最後だ。一週間ほど開けて、試験期間に入る。
一日の講義を終了し、俺はひとり帰路に着く。
夕食は近所の店で軽く済ませてその時間が来るのを待った。
琳太郎はアルバイトなはずだ。
終わるのは二十一時過ぎ。まだ二時間もある。
室内に音楽をかけ、ソファーに寝転がりタブレットを持ってらくがきをしながら時間が過ぎていくのを待った。
二十一時を過ぎて、俺は準備をして家を出る。
外はかなりの暑さだった。
湿気が多く、むわっとした熱気が肌に纏わりついてくる。
駅前は、酔っ払いと思われる会社員や学生、カップルの姿が多く見られた。
彼らは楽しそうに会話しながら駅へと入っていく。
スマホで時間を確認すると、時刻は二十一時二十分。そろそろバイトが終わっているだろうと思い、俺は琳太郎にメッセージを送った。
『お疲れ様』
『コンビニ前にいるから』
既読はつかず、俺はスマホをジーパンのポケットにしまった。
コンビニで買い物をしてから人々の流れをみながら待っていると、その中に見慣れた黒髪の頭を見つける。
紺色のTシャツ。それにショルダーバッグを掛けた琳太郎と、視線が絡む。
その瞬間、琳太郎が走り出すのを見て俺も人の波を縫い走り出す。
俺が腕を拡げると、そこに勢いよく琳太郎が飛び込んできた。
こんなことする奴だっただろうか。
戸惑いながら俺は、抱き着いてきた琳太郎の頭を見下ろす。
「琳太郎……」
声をかけると琳太郎は一層顔を押し付けてくる。
以前なら人目を気にしてこんなことしては来なかっただろうに。何があったんだ。
しばらくしてから琳太郎は俺の顔を見上げて呟いた。
「千早」
確かに琳太郎だ。
少し目つきの悪い瞳、長めの黒髪、それに琳太郎の匂いがする。
とりあえず外は暑いしこのままここでこうしているつもりもないので、俺は琳太郎の肩に手を置き、
「家に行こう。ここじゃ、落ち着かないだろう」
と声をかけ、手に持っていたスポドリのペットボトルを差し出した。
「あ……ありがとう」
と言い、琳太郎は顔を紅くし、慌てた様子で俺から離れて行く。
いったいどういう心境の変化があったんだろうか。
少なくとも琳太郎の表情には、この間のような苦しさだとか辛さと言う様なものは浮かんでいない。
琳太郎はペットボトルの蓋をあけ、中身を勢いよく飲んでいる。
「琳太郎」
と声をかけると、彼はペットボトルから口を離し俺の方を見た。
俺は琳太郎に手を差出し、
「行こう」
と、声をかける。
琳太郎はペットボトルのふたを閉め、そして顔を真っ赤にして俺の手を握ってきた。
そのまま俺の部屋に戻りそして、玄関に入ると琳太郎は廊下の途中で足を止めた。
彼は壁に飾られているイラストの前で立ち止まり首を傾げている。
「千早」
「何」
「この絵……」
「俺が描いたやつ」
壁のイラストなんて以前から飾ってあるものだ。
気分で変えてはいるけれど。
折り紙位の色紙に描いた絵を、壁に飾っている。
琳太郎は目を輝かせて、猫のイラストを見つめていた。
「お前、勉強もできてスポーツもできて、絵もうまくてすげえよな」
自分にとっては普通の事だが、琳太郎にはそう見えていたのか。
でも。
「だからって、欲しいものが手に入るわけじゃないけどな。悩んで足掻いて、手を伸ばして。それでも手に入れることができずに俺は……」
言いながら俺は、自分の手を見つめる。
俺は、琳太郎を傷つけたのだから。いくら償っても、許されるものではないだろう。
俺は琳太郎へと視線を向ける。確かに今、琳太郎はそこにいる。俺の目の前にいて、手の届く場所にいる。
俺は琳太郎の肩に手を伸ばしそして、その身体を引き寄せた。
「それでも今、手を伸ばせば届く場所にそれはあるから。諦めていたんだけどな。俺がお前にしたことは、赦されるものじゃないから」
「千早」
名を呼ばれそして、戸惑った様子で俺の背中に手を回してくる。
その身体は震えていないし、逃げる様なそぶりもない。
そのことにホッとする。
「いろいろあって、俺、わけわかんなくなって苦しかったけど……でも今は、大丈夫、だから」
そうしっかりした声で言い、琳太郎は俺の顔を見る。その顔に、恐怖の色はなかった。
「千早……きっかけは間違えた、と思うよ。俺ももう、お前とは会えないのかと思った。会えば苦しいのに、会わないとまた苦しくて。でもそんな苦しいのは正常じゃないって思って」
「……そうさせたのは、俺だな」
それについてはもう、どうにも変えられない過去だ。そしてその苦しみに気が付いていながら俺は、それを見て見ぬふりをした。自分の心を守るために。見てしまったらきっと、俺はとうに病んでいただろう。
そうならないために琳太郎を利用してしまった。
「でも俺は、後悔はないし……それに」
と言い、琳太郎は一瞬俺から視線を反らしそして、息を大きく吸った後俺を見上げた。
「俺は……お前と一緒に、いたいって思う、から」
顔を真っ赤にしてつっかえながら言う姿は本当に愛らしい。
琳太郎が求めてくることなど、今までほとんどなかった。
俺ばかりが求めて、琳太郎はそれに答えるばかりだった。
「琳太郎……」
「俺は、お前と一緒にいたい、から」
改めて琳太郎は言い、恥ずかしいのか俯いてしまう。
本当にいいのだろうか。琳太郎はオメガじゃない。オメガじゃない相手を選ぶとか、どうかしている。
運命を変えたかった。抗いたかった。たどる道は間違えてしまったけれどでも俺は、自分で琳太郎を選んだ。
その事実は変わらない。でも琳太郎はそれでいいんだろうか。
「本当に、お前はそれで……」
そう尋ねると琳太郎は顔を上げ、切なげに俺を見る。
「ちゃんと、考えて、決めたことだよ」
つっかえながら言った顔は、真っ赤になっていた。
こんな顔、見たことあったっけ?
そう思うと恥ずかしさが増してくる。
俺は琳太郎に顔を近づけそして、
「俺も……お前にそばに、いて欲しい」
と呟き、唇を重ねた。
そしてそのまま唇を舐めると、琳太郎は自分から口を開き舌を出してくる。
ぴちゃり、と絡まる舌の音が卑猥に響く。
琳太郎の口の中を舐め口を離すと、唾液が銀色の糸を引く。すると琳太郎はうっとりと俺を見つめ俺の名を呼んだ。
「ちはや……」
やばい、この声は腰に来る。
俺は琳太郎の頭に手を回しそして噛みつくように口づけた。
口の中を激しく舐めると、琳太郎もそれにこたえようと必死に舌を出してくる。
俺は口付けながら琳太郎のTシャツを捲り、その肌を直接撫でた。
今週中にはほとんどの講義が最後だ。一週間ほど開けて、試験期間に入る。
一日の講義を終了し、俺はひとり帰路に着く。
夕食は近所の店で軽く済ませてその時間が来るのを待った。
琳太郎はアルバイトなはずだ。
終わるのは二十一時過ぎ。まだ二時間もある。
室内に音楽をかけ、ソファーに寝転がりタブレットを持ってらくがきをしながら時間が過ぎていくのを待った。
二十一時を過ぎて、俺は準備をして家を出る。
外はかなりの暑さだった。
湿気が多く、むわっとした熱気が肌に纏わりついてくる。
駅前は、酔っ払いと思われる会社員や学生、カップルの姿が多く見られた。
彼らは楽しそうに会話しながら駅へと入っていく。
スマホで時間を確認すると、時刻は二十一時二十分。そろそろバイトが終わっているだろうと思い、俺は琳太郎にメッセージを送った。
『お疲れ様』
『コンビニ前にいるから』
既読はつかず、俺はスマホをジーパンのポケットにしまった。
コンビニで買い物をしてから人々の流れをみながら待っていると、その中に見慣れた黒髪の頭を見つける。
紺色のTシャツ。それにショルダーバッグを掛けた琳太郎と、視線が絡む。
その瞬間、琳太郎が走り出すのを見て俺も人の波を縫い走り出す。
俺が腕を拡げると、そこに勢いよく琳太郎が飛び込んできた。
こんなことする奴だっただろうか。
戸惑いながら俺は、抱き着いてきた琳太郎の頭を見下ろす。
「琳太郎……」
声をかけると琳太郎は一層顔を押し付けてくる。
以前なら人目を気にしてこんなことしては来なかっただろうに。何があったんだ。
しばらくしてから琳太郎は俺の顔を見上げて呟いた。
「千早」
確かに琳太郎だ。
少し目つきの悪い瞳、長めの黒髪、それに琳太郎の匂いがする。
とりあえず外は暑いしこのままここでこうしているつもりもないので、俺は琳太郎の肩に手を置き、
「家に行こう。ここじゃ、落ち着かないだろう」
と声をかけ、手に持っていたスポドリのペットボトルを差し出した。
「あ……ありがとう」
と言い、琳太郎は顔を紅くし、慌てた様子で俺から離れて行く。
いったいどういう心境の変化があったんだろうか。
少なくとも琳太郎の表情には、この間のような苦しさだとか辛さと言う様なものは浮かんでいない。
琳太郎はペットボトルの蓋をあけ、中身を勢いよく飲んでいる。
「琳太郎」
と声をかけると、彼はペットボトルから口を離し俺の方を見た。
俺は琳太郎に手を差出し、
「行こう」
と、声をかける。
琳太郎はペットボトルのふたを閉め、そして顔を真っ赤にして俺の手を握ってきた。
そのまま俺の部屋に戻りそして、玄関に入ると琳太郎は廊下の途中で足を止めた。
彼は壁に飾られているイラストの前で立ち止まり首を傾げている。
「千早」
「何」
「この絵……」
「俺が描いたやつ」
壁のイラストなんて以前から飾ってあるものだ。
気分で変えてはいるけれど。
折り紙位の色紙に描いた絵を、壁に飾っている。
琳太郎は目を輝かせて、猫のイラストを見つめていた。
「お前、勉強もできてスポーツもできて、絵もうまくてすげえよな」
自分にとっては普通の事だが、琳太郎にはそう見えていたのか。
でも。
「だからって、欲しいものが手に入るわけじゃないけどな。悩んで足掻いて、手を伸ばして。それでも手に入れることができずに俺は……」
言いながら俺は、自分の手を見つめる。
俺は、琳太郎を傷つけたのだから。いくら償っても、許されるものではないだろう。
俺は琳太郎へと視線を向ける。確かに今、琳太郎はそこにいる。俺の目の前にいて、手の届く場所にいる。
俺は琳太郎の肩に手を伸ばしそして、その身体を引き寄せた。
「それでも今、手を伸ばせば届く場所にそれはあるから。諦めていたんだけどな。俺がお前にしたことは、赦されるものじゃないから」
「千早」
名を呼ばれそして、戸惑った様子で俺の背中に手を回してくる。
その身体は震えていないし、逃げる様なそぶりもない。
そのことにホッとする。
「いろいろあって、俺、わけわかんなくなって苦しかったけど……でも今は、大丈夫、だから」
そうしっかりした声で言い、琳太郎は俺の顔を見る。その顔に、恐怖の色はなかった。
「千早……きっかけは間違えた、と思うよ。俺ももう、お前とは会えないのかと思った。会えば苦しいのに、会わないとまた苦しくて。でもそんな苦しいのは正常じゃないって思って」
「……そうさせたのは、俺だな」
それについてはもう、どうにも変えられない過去だ。そしてその苦しみに気が付いていながら俺は、それを見て見ぬふりをした。自分の心を守るために。見てしまったらきっと、俺はとうに病んでいただろう。
そうならないために琳太郎を利用してしまった。
「でも俺は、後悔はないし……それに」
と言い、琳太郎は一瞬俺から視線を反らしそして、息を大きく吸った後俺を見上げた。
「俺は……お前と一緒に、いたいって思う、から」
顔を真っ赤にしてつっかえながら言う姿は本当に愛らしい。
琳太郎が求めてくることなど、今までほとんどなかった。
俺ばかりが求めて、琳太郎はそれに答えるばかりだった。
「琳太郎……」
「俺は、お前と一緒にいたい、から」
改めて琳太郎は言い、恥ずかしいのか俯いてしまう。
本当にいいのだろうか。琳太郎はオメガじゃない。オメガじゃない相手を選ぶとか、どうかしている。
運命を変えたかった。抗いたかった。たどる道は間違えてしまったけれどでも俺は、自分で琳太郎を選んだ。
その事実は変わらない。でも琳太郎はそれでいいんだろうか。
「本当に、お前はそれで……」
そう尋ねると琳太郎は顔を上げ、切なげに俺を見る。
「ちゃんと、考えて、決めたことだよ」
つっかえながら言った顔は、真っ赤になっていた。
こんな顔、見たことあったっけ?
そう思うと恥ずかしさが増してくる。
俺は琳太郎に顔を近づけそして、
「俺も……お前にそばに、いて欲しい」
と呟き、唇を重ねた。
そしてそのまま唇を舐めると、琳太郎は自分から口を開き舌を出してくる。
ぴちゃり、と絡まる舌の音が卑猥に響く。
琳太郎の口の中を舐め口を離すと、唾液が銀色の糸を引く。すると琳太郎はうっとりと俺を見つめ俺の名を呼んだ。
「ちはや……」
やばい、この声は腰に来る。
俺は琳太郎の頭に手を回しそして噛みつくように口づけた。
口の中を激しく舐めると、琳太郎もそれにこたえようと必死に舌を出してくる。
俺は口付けながら琳太郎のTシャツを捲り、その肌を直接撫でた。
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