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★番外編01 運命の番 side 千早

運命の番13

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 琳太郎が外に行きたいと言い出した。
 正直乗り気ではなかったが、琳太郎に言われるままに、俺は郊外のショッピングセンターに車を走らせた。
 外はかなり暑い。
 天気予報によると、今日は二十五度を超える夏日になると言っていた。
 暑い中、人の多いショッピングモールに行くのは気がひける。
 それでも琳太郎が買い物に行きたい、と言うので付き合うけれど。
 建物から離れた駐車場に車を止め、歩く間に汗が出てくる。
 そして建物に吸い込まれていく人の多さには辟易した。
 服屋に寄って買い物した後、本を見たいと言うのでショッピングモールの奥にある本屋へと向かった。
 どうせ来たのだからと思い、俺は欲しい本を見る為琳太郎から離れ、専門書のコーナーへと足を向けた。
 いくつか本を見立てて、俺は本を購入し琳太郎を探す。
 店の入り口にある新作コーナーにその姿を見つけたが、琳太郎の前に見覚えのない男が立っているのが見えた。
 誰だ、あれは。
 琳太郎よりも少し背が高い、癖のある茶髪に、眼鏡をかけた青年。見るからに軽そうな、琳太郎とは対極にあるような雰囲気の男だ。
 あいつ、琳太郎が言っていたバイト先にいるアルファ……?
 親しげに話しそして、その手が琳太郎の頬に触れようとしたとき。

「琳太郎」

 名前を呼び、俺はふたりの間に割って立つ。
 なんでこいつは、琳太郎に触れようとする?
 ――琳太郎は、俺の物だ。誰にも触れさせない。
 俺は琳太郎の方を見て言った。

「決まったのか?」

「え? あ、まだ。千早は?」

「俺はもう買ってきた」

 言いながら俺は、あの男の方をちらりと見る。
 男は俺の方を笑って見ている。
 その笑顔が、ひどく気に入らなかった。
 なんだ、この余裕のある表情は。
 ――気に入らない。この男、何を考えている?
 彼は俺越しに琳太郎に手を振り、

「結城、じゃあ、またね!」

 と、妙に明るい声で言って去って行く。
 その背を俺は無意識に睨みつけていた。
 あいつからは確かに匂いがした。
 アルファの匂い。そして、いつも琳太郎からする匂いと同じだと気が付き、嫌悪感が一層増していく。
 あの男、全てが気に入らない。

「あれは……」

 俺が呟くと、琳太郎が遠慮がちに言った。

「バイトの、先輩」

「瀬名悠人……だったな」

 それは、調べた琳太郎の先輩の名前だ。
 医学部の学生。
 ちりちりと、肌が痛む。警戒しろと、本能が叫んでいる。
 あいつはなぜ、琳太郎に関わろうとする?

「千早!」

 俺の腕に琳太郎が絡みついてくる。驚き琳太郎を見ると、彼は必死な顔で言った。

「とりあえず! 本買って、メシ食べようぜ! せっかく出てきたんだし、ほら、ふたりで出かけるの久しぶりだろ?」

 ふたりで出かけるのは久しぶり。
 その言葉を俺は自分の中で繰り返す。

「そうか、デートとか考えたこともなかった」

 さりげなく呟き、俺は琳太郎を見た。
 彼は目を瞬かせ、なぜか何度も瞬きを繰り返し顔を紅く染める。

「で……あ……で……」

 何を焦っているんだろうか。
 デート位普通の事だろうに。

「琳太郎」

「なんだよ」

「それで、本は決まったのか?」

 問いかけると琳太郎は、本棚を見て、どうしよう、と呟いた。


 買い物を終え、車を運転している最中も、あいつの姿がちらついた。
 瀬名悠人。
 琳太郎など相手にしなくても、いくらでも相手はいるだろうに。
 なのになぜ、琳太郎に興味を持つ?
 気持ちが悪い。
 あいつは、琳太郎を攫って行くのだろうか。
 それが俺の罰か?
 気持ちが悪い。
 
「何、気になんの? 瀬名さんのこと」

 気になるに決まっている。
 だけどこれを、嫉妬と言う言葉で片付けたくはなかった。
 
「瀬名さん、変な人だけどお前よりは安全だよ」

 それは皮肉だろうか。
 琳太郎の言葉は突き刺さる。
 あれはアルファだ。
 普通の相手であれば安全と言えるだろうけれどでも……普通じゃない。
 普通のアルファであれば琳太郎に興味なんて抱かないだろうが、でもあいつは、琳太郎に興味を持っている。
 何が引き寄せている? なんのためにあいつは琳太郎に近づいている?
 わからないことは不安だ。
 思わず唇を噛む。
 これは嫉妬だろうか。
 いいや、あれは危険だ。
 
「お前、そんな嫉妬とかするやつだったの?」

 琳太郎の、からかう様な声が響く。

「嫉妬……なんてしてないっての」

 いら立ちを含んだ声で答え、俺は首を振る。
 嫉妬してるなど認められるか。
 琳太郎は俺の物だ。
 なのになぜ、俺があいつに嫉妬しなくちゃいけない?
 今琳太郎は俺の手の中にある。
 だから誰かに奪われる心配などいらないはずなのに。
 ――この時間が、偽りだとしても。
 そうだ、琳太郎は俺の物だ。
 俺が求めた、俺の番。
 誰が何を言おうと俺は、その手を離すつもりなどないのだから。
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