【本編完結】偽物の番

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★番外編01 運命の番 side 千早

運命の番12

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 真夜中に目が覚めて、俺は隣を見る。
 琳太郎は呻き、手を伸ばしてくうを掴む。

「う、あ……」

 怖い夢を見ているのか、それとも……他の理由か。
 その姿を見ると俺の心にひびが入る。
 琳太郎を苦しめているのは自分だと気づかされる瞬間がある。
 普段は見えないものが見える瞬間。
 そうなると、罪悪感に打ちひしがれる。
 ベータを番にするなど、正気の沙汰とは思えない。
 なのに俺は……俺の本能は、琳太郎を番と認め、その身体を求めた。
 俺の抱える矛盾。
 番は本来オメガでしかありえないのに。
 ベータを番にするなど、できるわけないのに。
 なのに俺は――
 自分の行為に吐き気がする。 
 友達だった。
 友達でいたかった。
 そのはずなのに俺は、この手でそれを壊した。
 これは俺の罪だ。
 苦しむ琳太郎の身体を抱きしめ、耳元で囁く。

「お前は、俺を赦すだろうか」

 いいや、赦すわけないだろう。
 偽物の番といって、今まで築いた信頼関係を壊し、その身体を求めたのは俺だ。
 そして、琳太郎が眠りながら苦しむ原因を作ったのも。
 罪を犯した俺にはきっと、罰が与えられるだろう。
 それはきっと遠くない未来。
 俺は琳太郎を抱きしめたまま目を閉じる。
 きっとお前は俺から離れるだろうな。
 それまでの間、わずかな間だろうけれど――夢を、見ていたい。



 また目が覚めて時間を確認する。
 カーテンから差し込む日の光から、夜明けの時間を過ぎていることはすぐに分かった。
 時間は朝の六時半。
 隣にいる琳太郎は、まだ静かな寝息を立てている。
 夜中のようにうめき声をあげていないことに安心して、俺は彼が起きない様にベッドから這い出た。
 綿パンにTシャツを着て、寝室を出る。
 きっと、琳太郎はまだ目覚めないだろう。ゆっくり寝かせておこうと思い、俺は朝食の用意をし、食べた後、キッチンの奥にある部屋に入った。
 将来、番を囲うために作った部屋。
 この部屋に琳太郎を入れる日をずっと夢に見ているが、あいつにはずっと拒絶されている。
 ひとり暮らしをしたいだとか言っていたけれど、そんなの承知できるだろうか? できるわけがない。
 琳太郎は俺の物だ。
 俺だけの番だ。
 この部屋に琳太郎は住むべきだし、ひとり暮らしなんて……ありえない。
 琳太郎を捕らえておきたい自分と、そんなことをしてはいけないと言う思いが自分の中にあり、その思いに振り回される。
 きっと、琳太郎は俺が本気で望めば……ここに住むだろう。
 俺が望むように行動し、俺が望む姿になる。
 そしてその優しさに俺は甘えている。
 その現実は俺にとって耐え難い。
 どうすればよかったんだろうか?
 宮田藍に拒絶され、俺は自分の手で運命を作ると決めた。
 その選択は、正しかったのだろうか?
 どんなにむげに扱われても、オメガを求めるべきだったのか?
 今さらその問いに答えなどでない。
 俺は……琳太郎を選んだ。
 その経過がどうであれ、これは運命と呼べるものになるだろうか。
 その答えは、まだ少し先のように思う。
 この罪の代償を、俺はまだ支払っていないから。
 物音に気が付き、俺は未来の琳太郎の部屋を出る。
 キッチンから見ると、琳太郎がリビングで戸惑っている様子が見て取れた。

「琳太郎」

 声をかけると、びくっ、と身体を震わせて俺の方を見た。
 驚いた顔をして、琳太郎は首を傾げた。

「あ、千早」

「おはよう、琳太郎。朝食は?」

 尋ねると、琳太郎は腹に手を当てる。

「うん、腹減った」

「ちょっと待ってろ。あっためるから」

 そう声をかけ、俺は朝食の用意をする。
 琳太郎はソファーに腰かけて、テレビを点けて朝食を待っている。
 琳太郎は、テレビを見ながら表情をコロコロと変えている。
 あんなに表情豊かなのに。
 最近の琳太郎は、悲しげな顔をすることが増えた。
 そうしたのは……俺自身だ。
 
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